阪急電鉄の「茨木市駅」西口から徒歩4分の位置に、茨木市民に長く愛されている中華料理店「雁飯店」があります。大阪産(もん)名品に認証された餃子から、本格中華コース料理まで、さまざまな料理が味わえる名店です。予約なしでも堪能できる一品料理は80種類以上、宴会利用も可能です。
1970年の大阪万博の前年、1969年に父親がオープンさせた「雁飯店」で、現在、副代表として日々奮闘されている「餃子王子」こと副代表の大岩賢悟さんに話を伺いました。
50年以上、地元茨木市で愛されている名店のルーツ
筆者が「雁飯店」の存在を知ったのは、以前にMediallで取材させて頂いた「Cafe ぶいえいと」の在田さんがきっかけです。在田さんが開催していた「夢語り会」の会場が「雁飯店」でした。
その日以来、何度も足を運んだ「雁飯店」ですが、オープン当初の話を聞いたのは初めてでした。
「元々、愛媛で飲食の仕事をスタートし、その後、福岡や大阪、神戸などを転々としていた父親が、26歳の時に茨木の今の場所でオープンしたんです。当時の店名は『茨木飯店』という名前でした(大岩さん)」
まさかオープン当初は店名が違っていたとは驚きでした。大阪万博が開催される前年だったので、開催場所から近い茨木市での開業となったとのことです。
「両親は飲食店の経営で忙しくしていましたが、それでも週一の休みにはよく遊びに連れていってもらいました。長期の旅行にはあまり行けませんでしたが、日帰り温泉旅行には良く行きましたね(大岩さん)」
そんな父親の背中を見て、大岩さんはいずれ後を継ぐだろうと考えるようになったそうです。
学生時代に開設したネットショップが突然ブレイク!
大学では経営学を学び、卒業後は修行を兼ねてホテルへの就職が決まった大岩さん。
「実は、ホテルに就職してすぐにこの業界に入ったことを後悔したんですよ(笑)。それもあってか、8ヶ月でクビになってしまいました。そこで一念発起して、今度は情報学を学ぼうと大学院に進学しました(大岩さん)」
当初はHTMLを使ってお店のサイトを構築していたとのことでしたが、その後、半年の講座を受講して、本格的なネットショップを開設します。
「公開当初は全く反響はなかったのですが、2007年にブログが流行り出した際に、当時のライブドアの堀江さんに「雁飯店」の餃子を取り上げてもらいました。その時の注文の量はものすごかったですね(大岩さん)」
その後も、堀江さんに取り上げられたそうですが、事件の影響もあり、その後の売れ行きは芳しくなくなっていきます。
「この時に、全然関係のない批判や揚げ足取りのような扱いを受けました。例えば、保存料無添加としか表示していないのに、勝手に食品添加物無添加と解釈して、クレームが入ってくることもありました。酷い時は一時的にサイトを閉鎖することもあったんです(大岩さん)」
この時の経験は、現在の情報発信にも活かされているとのことです。
「夢語り会」がきっかけとなって町おこしを掲げる
「夢語り会」を主催している在田さんが、著名な人を茨木市に招いて講演会を主催している姿に感化され、地域活動にも力を入れるようになった大岩さん。
「茨木の飲食店を盛り上げたいという想いが生まれ、それがきっかけでイベントを立ち上げたり、そのほかのイベントに出店するようにもなりました(大岩さん)」
筆者もこのころ茨木で開催される祭りやイベントに行くと、色々な所で大岩さんの姿を見たのを思い出します。
「実は、それ以前からイベントには出店していたんです。mixiに餃子のコミュニティがあって、そこで呼びかけられた浜松のイベントに参加していました(大岩さん)」
地元の経営者の集まりに所属したり、飲食店組合にも所属して、精力的に活動していた大岩さんでしたが、立て続けに苦労する出来事に見舞われます。
地震・大雨・台風・そしてコロナ
2018年6月に大阪の北部地域を襲った地震は、茨木市にも大きな被害をもたらしました。1969年にオープンした「雁飯店」も、床にひびが入ったり、壁が剥がれたりといった被害に遭います。
さらに地震の傷が残るなか、7月には西日本豪雨が発生し、雨漏りの被害に。続いて9月には台風21号の影響で、店は大きな損害を被ってしまいます。
「地震の復旧工事がこれからという時に、大雨と台風の被害にあってしまって…当時、外装工事を頼んでいた会社が、別の場所の工事を優先することになってしまったので、結局、復旧工事が終わるまで1年かかってしまいました(大岩さん)」
この年は「雁飯店」の50周年にあたる年でしたが、派手にお祝いというわけにはいかなかったそうです。ただ、2015年に始まったふるさと納税では、被災地への応援という意味もあったようで、2018年、2019年には餃子が多く選ばれたとのことです。
「ようやく災害の被害が落ち着いたかと思ったら、今度は新型コロナです。2020年は緊急事態宣言の影響もあって、年の半分以上は店を閉めていました(大岩さん)」
緊急事態宣言が初めて出された2020年4月は、売上がゼロになり、このままでは5月には現金が底をついてしまうような状態。何とか役所や金融機関を走り回って、資金繰りにめどがついたころ…
「2020年9月に母親が脳梗塞で倒れ、母親が主にやっていた経理の仕事も引き継ぐことになりました。店の資金繰りや母の面倒などで、3日徹夜するなんて時期もありました(大岩さん)」
立て続けにおこる出来事のなかでも、大岩さんの餃子への熱は決して冷めることはありませんでした。
大阪餃子を日本に広めるために新たに工場をオープン
国の補助金を活用して、大岩さんは2021年に「雁飯店」の近くに餃子工場をオープンします。餃子といえば、宇都宮や浜松が有名だと思うのですが、なぜ「大阪餃子」なのでしょうか?
「確かに、宇都宮や浜松、岩手や北九州は、戦後に引き揚げてきた人たちによって、餃子が店頭に並ぶようになりました。ただ、関西は戦前から餃子が多く販売されていたんです(大岩さん)」
確かに、全国的に有名な中華料理店には、関西発祥の会社が多いですね。
「実は、関西はもともと北京料理の店が多いんです。中華料理の餃子は水餃子というイメージを持つ人が多いと思いますが、北京料理には鍋貼(コーテル)という焼き餃子があるんです。当時は手包みで、皮の両サイドが空いている形でした。今は閉じていますが、当時から変わらず具沢山なのが特徴です(大岩さん)」
具沢山という特徴を引き継いでいるのが「雁飯店」の餃子です。今では街中に設置された自動販売機でも購入できるんです。
「これからはより情報発信できる場所で『大阪餃子』を販売していきたいと考えています。直近では百貨店での販売という話も進めています。これまでは茨木市の地域一番店を目指していましたが、大阪を看板に背負って「大阪餃子」を日本に広げていきたいと思っています(大岩さん)」
出来立ての餃子に負けずとも劣らない大岩さんの熱い思いを伺い、筆者は冷凍餃子を購入して、自宅で堪能するのでした。
雁飯店情報
店名:雁飯店
住所:大阪府茨木市竹橋町2-5
営業時間:ランチ 11:30〜14:00(L.O. 14:00)、ディナー 17:00〜21:00(L.O. 21:00)
定休日:毎週月曜日、年末年始(要確認)、祝日の場合は営業し翌日休み
HP:https://ganhanten.foodre.jp/