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フード  |    2025.03.29

【大津市石山商店街】都会の中の小さな漁港「魚辰」|滋賀県大津市

滋賀県大津市の石山商店街の一角に、60年近くの歴史を持つ魚屋、都会の中の小さな漁港「魚辰」がある。

現店主の瀬尾さんは26年前から店を切り盛りし、今では商店街唯一の魚屋として近隣の方々に親しまれている。

店に一歩足を踏み入れると、昔ながらの温かい雰囲気が漂い、訪れるだけで心がほっとするような空間が広がる。

店内はコンパクトでも情報は満載

魚辰の店内はコンパクトで、入り口に立てばすべてが見渡せる作り。

正面にはお惣菜が並び、その奥には冷蔵コーナーが広がる。

刺身や珍味、白和えなどのお惣菜が所狭しと並び、どれも美味しそう。

切り身がずらりと並び、メジャーな鮭やエビだけでなく、一風変わった魚も多数。

選び抜かれた魚類たち

毎朝、瀬尾さんは京都市中央卸売市場で新鮮な魚を仕入れている。セリから参加し、選び抜かれた魚たちは店頭に並ぶだけでなく、近隣の飲食店にも供給されるほどのクオリティの高さだ。

この日も魚辰には、スーパーでは見かけないような珍しい魚や貝類が並んでいた。

「今日は小判鮫があるけど、食べたことある?」

(ーー食べるどころか見たこともない)

「今日のは鹿児島産やで」

(ーーいや、産地とか…わからん)

「…小判鮫ってあれですよね?でっかいエイとかにくっついてるやつですよね。…これはどこに需要があるのですか?」と、今思えばものすごく失礼な質問をすると、近隣の居酒屋の方が買い付けにくると教えてくれた。

「なるほど…居酒屋でお品書きにあったら面白くて絶対頼んでしまうな」と、酔っ払って店員さんにダル絡みする筆者の姿が目に浮かんだ。

ちなみに魚だけでなく、二枚貝も聞いたことのない名前のものを教わったが、数が多くて覚えきれなかった。メモするのも断念した。

優しいお母さんの接客

チルドコーナーに額に入れて飾られた「昔の魚辰」の写真を眺めていたら、瀬尾さんのお母さんが気さくに話しかけてくれた。

額に添えられた小さなメッセージカードを手に取り、「昔からお食い初めの鯛を頼まれると、メッセージカードや縁起物の石とタコを添えてお渡しするの」と、丁寧に教えてくれた。

ライフイベントのお祝いの魚を頼まれるのは信頼の証だ。

「日本のオカン選手権」があったら、上位を狙える安心感溢れる笑顔で接客をしてくれる。

この珍味は日本酒に合うよ〜ネギとポン酢で食べるの。この刺身は脂が乗っていて今が旬やで〜。と、なんでも教えてくれる。

そして、なんでも教えてくれるついでに、奥の奥まで見せてくれた。

…厨房まで。

お母さんは「おいでおいで」と、超部外者の筆者に裏側まで見せてくれた。

一瞬恐縮したが、持ち前の図々しさで見せてもらうことにした。

厨房には、家庭サイズを超えたフライパンで美しい卵焼きを焼く従業員と、大きなまな板と包丁を使い、ふぐのてっぴを仕込む従業員の姿が。

部外者が侵入しても「あ、どもー」と、作業の手を動かしたまま明るく迎えてくれた。

あれ?友だちだったかな?と、こちらが勘違いするくらいのウェルカム感。

そこにガツガツした職人の雰囲気は皆無。

ご近所さんが集う憩いの場

魚辰に訪れるお客様の多くはご近所の方々だ。

ラフな口調で予算を告げて、翌日のお造りを予約して帰る常連さん。

夕飯にイタリアンで一品作りたいと、相談しながら買い物をする女性。

両手をポケットに突っ込みながら、良さそうなアジやサバを瀬尾さんに選んでもらう男性。

若い女性がショーケースから魚を数パック選び、短時間で帰る姿も印象的だった。

皆、友だちのように親しげで、魚を買うだけでなく、おしゃべりを楽しむのも日常の一部のようだ。

必ず瀬尾さん親子と話をして、オススメを聞いて最短省エネの買い物だった。古き良き時代(映画でしか見たことないけど)の魚屋さんを見た気がする…!

お客さんのほとんどがめっちゃタメ口で、常連のオーラがビッシビシ。

働く人たちも温かい

「今日で働き始めてちょうど1年!」と話してくれたのはアルバイトの白井さん。

「三枚おろしを上手にできるようになりたい」と始めた仕事だが、毎日新しい発見があると話してくれた。「まだまだ知らない魚はたくさんある。海は広い…」と、白井さんは遠い目をして海に敬愛の思いを馳せる。

それに対して瀬尾さんは「もう1年かー早いなー」とゆるく祝福。26年に比べたらまだまだひよっこレベルなのだろう。短い会話に温かい雰囲気が伝わる。

店主の瀬尾さんも「獲れる魚の種類で春夏秋冬を感じられる」と、仕事の楽しみを話してくれた。

「魚辰」は、魚を売るだけでなく、人と人とのつながりを感じられる場所。おいしい魚を求める方も、瀬尾さん親子との会話を楽しむ方も、誰でも大歓迎。

ちなみに、キャッチフレーズの「都会の中の小さな漁港」は、開業時に先代が考案したものだそう。

石山地域という田舎に愛着を込めて「都会」と名付け、さらに「海なし県でも美味しい魚が味わえる」という思いを込めて「漁港」という言葉を用いたのだとか。

受け継がれる思いを大事に「魚辰」はこれからも続いていく。

ちなみに、気になる小判鮫の味だが…。

これがまた、想像していたはるか上の美味しさだった。新鮮だからか臭みもまったくなく、あっさりした脂の中にコクを感じた。

「海は広い…」

小判鮫は美味しい。今回の取材で得た経験と知識で、ワンランク上の人間になれた気がする。普通に生きていたらこんなチャンスはなかっただろう。

ふらっと立ち寄れば、きっと昔ながらの魚屋さんの魅力を体感できるはず。そして、新しい発見があるかもしれない。

石山商店街にお越しの際は、ぜひ「魚辰」に足を運んでみてください。

魚辰

〒520-0855 滋賀県大津市栄町9−14

077-534-9285

営業時間 10:00〜19:00 日曜日のみ18:00close

定休日 水曜日

駐車場 店舗隣に3台

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この記事を書いた人

阪口ゆうこ

猫狂酒飲みフリーライターです。

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