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スポット  |    2025.07.26

秘密の公園、D7 ~タイムスリップ・ブルース~

「G7」と言えば、主要国首脳会議の略称です。「神7」なら、素晴らしい7人。では『D7』とは何でしょう?

「7つのD…? 音楽のコードか何かですか?」

確かに、D7は和音の一つです。しかし、私が紹介したいD7は「公園」なのです。茨城県の水戸市の北部にある『七ツ洞公園』七ツの「洞」つまり「D」ですね。

「…7つの洞窟がある公園ですか?」

いえ、これは古墳時代の遺跡の「横穴」が、かつてこの地に7つあったことから付けられた名前だそうです。

「水戸の公園と言えば、やはり偕楽園では…?」

確かに、知名度や歴史から言えば「偕楽園」が断トツで有名ですよね。しかし、この七ツ洞公園では、偕楽園とはまた異なった雰囲気が味わえます。

早速、現地へ向かってみましょう!

新たなストーリーが始まる

水戸市を流れる那珂川に沿って市街地から北上していきますと、「上国井」のバス停が現れます。ここを東に曲がる。田畑の横を通り、坂をのぼれば、すぐです。

上国井のバス停

公園の駐車場はいくつかありますが、今回は芝生広場に一番近い中央駐車場に停めてみました。

入口にはパンフレットが置いてあります。早速、その内容を読んでみますと…。

七ツ洞公園の入口

『あの英国風景式庭園の新たなストーリーが始まる…』

そうなんです。この公園は、英国法人が設計して、英国建材を使用してつくられたもの。実に本格的な「英国風景式庭園」なのです!

「水戸の田園の中にイングリッシュ・ガーデン?!」

予想外の取り合わせ。この一見ミスマッチなコラボによって、この土地ならではの独特の景観、唯一無二の雰囲気が醸し出されています。

入口から芝生広場を抜けて森のほうへと進んでいきますと、早くも見逃せない看板が出てきました。

テルマエ・ロマエのロケ地

『映画「テルマエ・ロマエ」のロケ地 七ツ洞公園 この公園から映画の世界にタイムスリップしてみませんか?!』

古代ローマ人がタイムスリップして、お風呂をつくるべく悪戦苦闘する映画…。ここで、そのロケが行われたそうなのです!

公園内にある『秘密の花苑』は、ロケ現場の一つ。いかにもローマ風のエレガントな趣があります。パンフレットの記載によれば、このような庭は『コテージガーデン』と呼ばれて、19世紀以降に英国で流行した、とのこと。

秘密の花苑の中心

私が今回訪れたのは、バラが満開となる季節から少し外れた夏でした。それでも綺麗なバラがいくつか咲いていた。何と見事なイングリッシュ・ガーデン!

秘密の花苑のバラ

蛇がうねるような形の池

では次に、ダムの方へと進んでいきましょう。

いかにもローマ風の『パビリオン』の横には、静かに水をたたえるダムがありました。人工物と自然。建造物と水、そして緑。それらが不思議と調和していて、癒しの風景が開放的に広がっている…。

パビリオン

七ツ洞公園には細長い池があります。上空から見れば「蛇がうねるような」形をしている。このような池はSerpentine(サーペンタイン)と呼ばれるそうです。サーペントとは、ヨーロッパに昔から伝わる伝説上の大蛇。

「…なぜ、そんな形で作られているんですか?」

これは、人工的な直線的・規則的な造形を避けて、「あえて」自然の曲線や不規則性を取り入れる英国の庭園手法に基づいているからです。日本の庭園手法「借景」にも通じますよね!

さらに公園内には、古代ローマをイメージした趣向や、絵画的な美しさを尊重する「ピクチャレスク」の理念も取り入れられている…とのこと。

ダム

池はいくつかのダムで区切られており、至るところに水の流れ道がつくられていました。「ライオン像の水吐き」もある。

ライオン像の水吐き

サーペンタインの池とダム沿いには、歩きやすいように散策路がつくられています。至る所に休憩用のベンチも置いてあります。休憩する際には、ぜひベンチの下を覗いてみてください。何というお洒落な造形でしょうか!

お洒落なベンチ

ダムの真ん中辺りの行き止まりには、『壁泉』と呼ばれる水の吐き口がありました。映画「テルマエ・ロマエ」の中では「打たせ湯」の場面で使われたそうです。

壁泉

まさに、ザ・ピクチャレスク。

そう、この公園の中には「絵になる」風景が実にたくさんあります。今風に言えば『映える』風景が目白押し…!

その中でも、ひときわ絵になるものが、『フォリー』と呼ばれる装飾用の建物でした。「folly」という英語は「愚行」と訳されます。しかしながら、この名前には馬鹿にするようなニュアンスはありません。むしろ余裕をあらわす言葉。愚かな行為を明るく遊ぶ。洒落っ気のある戯れ。やっちまったなあ。そんな意味で使われる。必要がないのに、装飾のためにあえてつくられている。

…私が最も心を打たれたのは、ローマの遺跡を思わせるフォリーでした。

緑の木々の奥にアーチ形の門があります。くぐってみると、その中に湧き水がたまっており、ゆっくりと池へと流れていきます。なぜそこにつくったのか? まるで必然性が感じられない配置。でも昔からそこにあったかのような調和感…。不思議な廃墟をイメージさせる景色からは、英国風の「わびさび」をひしひしと感じました。

フォリー

さらに北の上流へと向かってみます。そこには、小川と湿地帯が広がっていました。

小さな魚たちが伸びやかに泳いでいる。夏の明るい日差しの中で、岩も水も草も魚もきらきらと輝いています。ここでは公園の中でありながら「手つかずの自然」が演出されていました。それはもう、ため息が漏れるほどの美しい光景です。

小川と湿地帯

タイムスリップの秘密

ここで私の中に、ふと、疑問の湧き水があふれ出てきました。

「なぜ上流の辺りには『秘密の花苑』や『パビリオン』のような分かりやすい造形物が少ないのだろう? …予算の関係、大人の事情があったのでは?」

しかし、その予想は全くの的外れ。公園内の配置すべてが「計算ずく」なのです。謎の答えは、パンフレット内の記述にありました。

『5つのダムは、その水の流れに呼応して、上流には古代的な造形、下流には近世的な造形と、時代の変遷を表現しています』

…なるほど、そうか!

謎はすべて解けた。思わず膝を打った。期せずして私は「タイムスリップ」をしたのです。いえ、この庭を設計した方々に、まんまとそうさせられてしまったのです。

下流にあるパビリオン、中流の壁泉、アーチ形のフォリーの廃墟、そして上流の手つかずの自然美へ。

つまり、現代から近世、古代、そして人が住む以前の手つかずの自然へ…!

こうして「D7」こと七ツ洞公園を巡る、私の秘密の時空間旅行は幕を閉じたのです。

音楽の和音のD7は、ブルースでよく使われるコード。皆様もタイムスリップ・ブルースを味わいに、ぜひ一度、この公園に来てみませんか?

七ツ洞公園

〒311-4205 茨城県水戸市下国井町2243

◆公共交通機関:最寄り駅はJR水郡線の下菅谷駅ですが、約3キロほど歩くことになります。JR常磐線の水戸駅から向かう場合は、駅の北口バスターミナルから大宮営業所行きのバスに乗って「農業試験場入口」で下車。徒歩約20分です。

◆自動車:最寄りの高速インターは「水戸北インター」です。インターを降りて那珂市方面へ向かい、那珂川にかかる国田大橋を渡ります。橋を渡ってすぐのセブンイレブン水戸下国井町店を北に曲がり、県道102号を北上します。「上国井」というバス停を東に曲がり、坂をのぼって那珂市方面に向かうと、右手に見えます。駐車場は3か所あり、数十台ほど停められます。

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この記事を書いた人

ヒストジオいなお

茨城県、水戸市、またその周辺の情報をシェアしていきます。歴史と地理が好きです。食べ歩きも好きです。

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