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スポット  |    2023.12.26

木のぬくもりを感じる「森のハジマリ」で新たなチャレンジを【後編】

前編はこちらからご覧ください。
木のぬくもりを感じる「森のハジマリ」で新たなチャレンジを!【前編】

「森のハジマリ」は滋賀県長浜市にある手作りの食器やアクセサリーの販売、レンタルスペース、デイキャンプ場です。こちらの記事は後編となります。店舗については前編をご覧ください。

伏木さんが制作したフォークとスプーン(画像提供:伏木さん)

伏木さんと木工制作の出会いは不思議な縁で始まりました。

薪ストーブ用燃料の相談で訪れた彦根市の材木店、馬場銘木の店主との交流が深まった頃、店主から一本の電話があったといいます。

「『軽トラに乗って来てくれ』と言われて、しかたがないから向かいました。どこへ行くのか、何を運ぶのかもまったく聞かされてなかったので、本当に怖かったです(笑)」

大きな木材を軽トラに積み込み、向かった先は東近江市の奥永源寺と呼ばれるところでした。奥永源寺は木地師発祥の地として知られる鈴鹿の山深い村。そこで出会ったのは、一人の木地師でした。

木地師発祥の地訪問をきっかけに木工旋盤を購入

伏木さんは、奥永源寺が木地師発祥の地であり、木工用の轆轤(ろくろ)発祥の地であることを知らされます。

「轆轤発祥の地と言われても信じられませんでしたが、後から調べたら本当だったので驚きました。馬場さんに連れて行かれたところは、30年前とか50年前に伐採された木材が所狭しと置かれていて、異世界かと思ったほどです」

奥永源寺から帰宅し、どうしても轆轤が気になりネットで探し始めたという伏木さん。ちょうどその頃、木製ボールペンの制作が流行りはじめ、手ごろな木工旋盤が出回るようになりました。

高価な工具のため一時期は購入を諦めましたが、やはり諦め切れません。伏木さんは意を決して木工旋盤を購入。しかし、最初は思ったように使えなかったとのこと。

伏木さん愛用の木工旋盤(画像提供:伏木さん)

「その頃はネットを探しても木工旋盤の使い方なんてどこにも掲載されていませんでした。ですから、トライアンドエラーの繰り返しです。会社なら労災レベルの危険な目に何度も遭いながら、少しずつノウハウを身につけました」

思考錯誤を繰り返し、少しずつ納得できる作品ができるようになった頃、通学中の小学生からのひと言に衝撃を受けたそうです。

「ようやく完成した作品を見せたところ、『おっちゃん、これしか作れんの?』って言われて、少しショックを受けました。確かにこれしか作れないのですが、工場になりたいわけでもありません。何か特徴がなければ作る意味もないのかと……」

そこで、伏木さんは改めて作品づくりについて考え始めます。

木工制作へのこだわり

伏木さんの作ったカップは生木を使用しているため形が変形する

伏木さんが制作する木の食器は、よく見ると少しいびつな形をしています。これは生木をそのまま加工しているから。木の水分が抜け、形状が変化します。

また、多くの作家が避ける年輪の中心部分もあえて作品の中に残しているとのこと。木工制作へのこだわりについて詳しく伺いました。

作品の中に木のハジマリを表現

作品の中に木のハジマリを表現した器(桜の木を使用)

一般的な木工制作では何年も乾燥させた木材を加工するそうです。しかし、伏木さんはあえて生木を使用しています。木の性質を利用し、木の本来の味わい深さを表現するためです。

また、年輪の中心部分は木が生まれたときにできたもの。つまり、「木の始まり」です。伏木さんは作品の中に年輪の中心部分を入れることで、ハジマリを表現することにしました。ただし、年輪の中心部分を残すことは割れや欠けの原因となるため、加工が難しくなります。

材料のほとんどは伐採依頼の木材

材料となる木材(画像提供:伏木さん)

伏木さんの作品は材料費がほとんど無料だといいます。その理由は、伐採依頼を受けた木や里山の倒木などを使用しているからです。

一般的な木工制作とは異なり、生木をそのまま使用する伏木さんの工法では、伐採した木がすぐに材料となります。木を使うと聞くと森林伐採のイメージが強いかもしれません。しかし、伏木さんが使用している木材は全てがすでに不要となっている木ばかりです。

現在は使い切れない木材がたくさん残っているとのこと。

漆はなるべく使用しない

漆を使用せずに材質そのものの風合いを重要視している

木工作品に漆を使用することで外観も美しく、強度も高くなることは明白です。しかし、伏木さんはなるべく漆を使用しません。もちろん、漆を使用することで手間がかかるという理由もありますが、木の持つ本来の美しさを表現するためです。

「簡易的な拭き漆で塗装した作品もありますが、簡易的とはいえかなり大変です。漆を塗ってから乾燥させるのに1日かけ、さらに幾重にも塗り重ねるため、完成までに何日も必要となります」

ギャラリーの中には拭き漆を施した器もありますが、ほとんどの作品は木そのものの色を残したものばかり。しかも、ここで出会える作品は全てが一品物。木の温もりを感じる作品に出会えます。

伏木さんは縁や出会いは不思議なものと語ります。木工制作に取り組むことで、従来では考えられないような出会いもあったとのこと。

第72回 全国植樹祭に参列

第72回 全国植樹祭の記念品

伏木さんは「Stay Forest」の団体活動における地域貢献に携わっていたため、滋賀県で開催された第72回 全国植樹祭に招待されたそうです。全国植樹祭は昭和25年以来、天皇皇后両陛下の御臨席により国土緑化運動の中心的な行事として毎年開催されています。

2022年 全国植樹祭にて(画像提供:伏木さん)

全国植樹会は一般からも応募すれば参加できますが、狭き門であり実際はなかなか参加できません。また、厳重な警備体制の中での開催であり、貴重な体験だったとのこと。

「開催された2022年はまだコロナ禍だったので、天皇陛下はリモートでの御臨席でした。それだけが残念でした」と伏木さんは語ってくれました。

「森のハジマリ」基本情報

温もりを感じる木の食器が気になる方には「森のハジマリ」のギャラリーをおすすめします。近くにお越しの際には、気軽に立ち寄ってみてください。

ここから新たな挑戦をはじめてみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

のがわ

滋賀県担当のアラフィフライター「のがわ」です。地元の滋賀県や隣県の福井県に関する情報をお届けします。趣味の剣道は練士七段ですが、試合は中学生にも負けるレベルです。色々な地域に出稽古に行き、出会った方々の物語や観光情報などを記事にします。

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