岡山県西南部に位置する矢掛町(やかげちょう)。江戸時代には大名行列が宿泊する宿場町として栄えましたが、近年は過疎化が進んでいました。しかし、ある戦略のおかげで劇的な復活を遂げたのです。
この記事では、矢掛宿(やかげじゅく)が日本初の『アルベルゴ・ディフーゾ・タウン(分散型宿泊施設)』に認定され、観光地として復活を遂げた理由を解説します。
なお、おすすめのお店も紹介するので、この記事が矢掛町を訪れるきっかけになれば幸いです。
矢掛町の歴史
矢掛町はかつて、大阪と下関を結ぶ旧山陽道五十一次の18番目の宿場町「矢掛宿」としてにぎわっていました。
全国には多くの宿場町が残存していますが、矢掛宿には日本で唯一、本陣と脇本陣が当時の姿で残っています。そのため、国の重要文化財の指定を受けている貴重な宿場町です。
本陣は石井家、脇本陣は高草家ですが、どちらも、内部を見学できます(有料)。
『アルベルゴ・ディフーゾ・タウン』とは?
「アルベルゴ・ディフーゾ・タウン」とは、イタリア語に由来する言葉です。「アルベルゴ」は「宿」、「デフューゾ」は「分散」の意味があり、「アルベルゴ・ディフーゾ・タウン」は「分散型の宿がある街=街がまるごとホテル」となります。
1980年代にイタリアで起こった地震により被害を受けた小さな村を復興させるために行われた取り組みです。町全体を分散型の宿として機能させ、土地の歴史や文化などを観光資源にして発展させます。
宿泊施設、食事処、お風呂、買い物などができるお店を備えることで、街をまるごと「持続可能な経済圏」として確立するのです。
こうした取り組みは世界中に広がりをみせています。しかし、成功例は少ないのが現実です。
古民家再生で誕生した宿泊施設「矢掛屋 INN&SUITES」が2018年にアジアおよび日本で初めて「アルベルゴ・ディフーゾ」に認定され、現在も町が発展を続けているので、矢掛町は「アルベルゴ・ディフーゾ・タウン」の成功例といえるでしょう。
なお、日本各地で同じ動きが広がっていることは嬉しい限りです。なお、愛媛県大洲市も同様のプロセスでにぎわいを復活させました。
矢掛宿のにぎわいが復活した理由
では、どうして矢掛宿が「アルベルゴ・ディフーゾ・タウン」として成功を収めたのでしょうか?
その理由を以下に記載します。
①人口減少や空き家問題を解決するために「古民家再生事業」に取り組んだこと
②古き良き町並みを後世に残すために、「町ごとホテル事業」に取り組んだこと
これらの事業に「社会資本整備総合交付金」や「過疎対策事業費」などの財源を活用できたことが非常に有効でした。
また、行政が本気になって民間事業者および住民との合意形成を図り、うまく連携できたことが成功の理由でしょう。特に、古民家を再生した「矢掛屋 INN&SUITES」を始めた安達精治氏(矢掛屋の代表取締役)の活躍が一番の原動力になったことは間違いありません。
古民家をホテルとして再生し、食堂やお風呂、お土産はそれぞれ別のお店や施設を使用することで、町全体でホテル機能を構築し、地域全体が潤う仕組みを作りました。
ここまで成功したのは、それぞれの部門が最高のパフォーマンスを発揮したからでしょう。本当に、みなさんの努力の賜物です。
岡山県民として、これからも矢掛宿が存続することを願います。
矢掛町でおすすめのグルメ
矢掛町には特徴的なお店がたくさんあります。私は食いしん坊なので、まずは、おすすめのグルメを紹介しますね。ここは絶対に外せないと思うお店を3つ厳選しました。
矢掛テンペのお店「発酵亭」
矢掛では、約30年前に「町おこしのために!」と個人が独学でテンペづくりを始めたお店があります。古中正恵さんが作った「発酵亭」です。
お店を手伝いに来ていた女性が教えてくれたのですが、独学でのテンペづくりだったため、正恵さんはたくさん失敗したそうです。しかし、そのおかげで誰にも負けない高品質のテンペを作れるようになったとのこと。本当にすごい努力家だったのですね。
テンペはインドネシアの伝統的な食品で、大豆と酢を原料にテンペ菌で発酵させた無塩大豆発酵食品。ほんのり酢が香りますが、味はほとんど大豆であり、揚げたり炒めたりして料理に使われてきました。
テンペは、栄養豊富で抗酸化作用があることが知られています。
また、岡山大学での試験で、56人が毎日150gずつのテンペを4週間食べ続けたところ、血糖値が平均で4%低下したという結果も得られたそうです。
テンペには納豆のような独特な発酵臭がないため、食べやすく古くから健康志向の人に人気があります。アメリカではヴィーガンやベジタリアンに人気の食材です。
なお、岡山では納豆よりもテンペ作りが盛んだった時代(35年ほど前)があり、かつては全国生産量の80%以上が岡山で作られていました(今でも数社が製造販売しています)。
私は、発酵食品の商品開発をしていた関係で、ぜひ訪れたいお店だったのですが、執筆が忙しく先延ばしを続け、このお盆明けに初めて伺いました。
しかし、正恵さんは2月に他界されたとのことで、とても残念でした。ちょうど1月頃に、別のメディアでテンペの記事を執筆し、写真などをお借りしたこともあり、本当に驚きと悲しみでいっぱいです。
現在は、旦那さんが店を切り盛りしているとのことで、できるだけ続けてくださることを切に願います。
私は、念願のテンペ定食(日替わり定食のメインをテンペコロッケにしたもの)を頼みましたが、とても美味しい定食でした。テンペコロッケは優しい味で、地元野菜を使った小鉢がたくさんつくのも嬉しいですね。
粉末テンペやテンペドレッシングは主張しすぎない味のため、違和感は全くありませんでした。なお、ご飯には栄養豊富で希少な赤米も入っており、健康に留意した定食でした。
手づくりのテンペは地元の人に人気で、予約して冷凍生テンペを買い求めるお客さんもいました。なお、発酵亭の手づくりテンペは、ふるさと納税の返礼品にも採用されるほど人気があります。
ぜひ、矢掛で美味しいテンペやテンペコロッケをご賞味くださいね。
【発酵亭の情報】
住所:岡山県小田郡矢掛町矢掛2570-8
電話番号:0866-82-0366
営業時間:10:30~19:00
定休日:不定休
公式ホームページ:テンペ料理発酵亭
矢掛名物の柚べしなら「佐藤玉雲堂」
柚べし(ゆべし)とは、柚子を使った料理や和菓子を指します。源平の時代に保存食として生まれたそうです。佐藤玉雲堂は創業180年を越える老舗で、柚べしが人気を博しています。
先日、友人から頂き、あまりにも美味しかったので、買いに行きました(写真左下の個包装の「柚べし」とある商品です)。
オンラインショップもあるので、遠方の方は通販でどうぞ!ほっぺたが落ちるかも。
【佐藤玉雲堂の情報】
住所:岡山県小田郡矢掛町矢掛3084
電話番号:0866-82-0164
営業時間:9:00~18:00
定休日:火曜日
公式ホームページ:佐藤玉雲堂オンラインショップ
本格クラフトチョコレート「石挽カカオissai」
チョコレートを作るために、1年かけて「カカオ豆専用石臼」の開発を成功させた人たちがいます。石材加工会社経営の井上太郎氏と彫刻家の松村晃泰氏は、カカオ豆だけで作るチョコレートの奥深い風味にほれ込み、2017年に「イシヤマユウエン合同会社」を設立し、「石挽カカオissai(いっさい)」をオープン。
矢掛町は良質な花崗岩の産地であることから、矢掛にお店を構えることになったそうです。
石挽カカオissaiでは、安心安全なチョコレートを製造するために、チョコレートに仕上げるまでの工程を一貫して行います。しかし、こだわりの製法で丁寧に作るため、完成まで1ヶ月かかるそうです。
原材料は厳選したカカオ豆と和三盆のみであるため、ガーナ、ペルー、コロンビア、ソロモン、メキシコなど産地ごとのピュアなカカオの味わいが楽しめるチョコレートに仕上がります。なお、それぞれの産地で風味が異なるそうです。
この日は、ちょうどお休みだったため、話題のチョコレートは食べられませんでしたが、こだわりの製法で作られるチョコレートに興味津々です。岡山市内にも支店ができたので、今度食べてみますね。味の違いを楽しみたいです!
【石挽カカオissaiの情報】
住所:岡山県小田郡矢掛町矢掛3074-1
電話番号:0866-63-4245
営業時間:平日12:00-17:00 土日祝11:00-17:00
定休日:火曜日・水曜日
公式ホームページ:石挽カカオissai
アルベルゴ・ディフーゾ認定「矢掛屋INN&SUITES」
矢掛屋INN&SUITESは、前述したとおり、矢掛宿が「アルベルゴ・ディフーゾ・タウン」として発展する原動力となった古民家を再生して作られたお宿です。
江戸の風情を残し、ゆったりとした時間が流れます。別館も含め全28室の全て間取りが異なるため、リピートしてもお客さんを飽きさせません。
なお、中庭には「大名通り」という建屋で参勤交代の資料や骨董品などが展示されており、見学も可能です。見学させて頂きましたが、重厚な骨董品に江戸を感じました。
矢掛屋INN&SUITESは、温浴施設(湯の華温泉)やレストラン(花鳥風月、宿場町矢掛の侍イタリアン、備中屋長衛門お食事処「ゆらり」)なども経営しており、人気を博しています。
花鳥風月では瀬戸内海の魚介と地元食材を使った和食を、侍イタリアンではイタリア料理を、お食事処「ゆらり」では寿司会席などを堪能できますよ。
地元産の材料を使った美味しい食事や炭酸カルシウム温泉で疲れを癒し、旅を楽しみましょう。
なお、宿泊の方は、矢掛駅や新倉敷駅から送迎可能なので、予約時に伝えてくださいね。
【矢掛屋INN&SUITESの情報】
住所:岡山県小田郡矢掛町矢掛3050-1
電話番号:0866-82-0111
公式ホームページ:矢掛屋INN&SUITES
矢掛宿で江戸の町並みと風情を楽しみましょう
「アルベルゴ・ディフーゾ・タウン」として認定され、観光客も増加し、移住者も増えた矢掛町。特徴的なお店やイベントで、魅力ある観光地になりました。
道の駅「山陽道やかげ宿」は、お土産を売らず、地元の観光や名産品、お土産品の展示だけを行う珍しい道の駅で、一見の価値ありです。
また、11月の第2日曜日には、豪華絢爛な大名行列が練り歩く「矢掛の宿場まつり・大名行列」が行われます。
ぜひ、矢掛町でのんびりと宿場町を楽しんでみませんか?
なお、矢掛宿の中心に位置する道の駅「山陽道やかげ宿」へのアクセスとマップは以下のとおりです。
住所:岡山県小田郡矢掛町矢掛1988-10
アクセス:山陽自動車道 鴨方ICおよび笠岡ICから車で15~20分、国道486号線沿い
井原線矢掛駅から徒歩約10分
電話番号:0866-63-4300
営業時間:9:00-17:00(※トイレ、交通情報室、休憩コーナーは24時間利用可能)
定休日:不定休(無休、年末年始休み)
公式ホームページ:道の駅「山陽道やかげ宿」