岡山県津山市。
城東街並み保存地区に小さな家具工房があります。お店の名前は「にいの屋」さん。店主で家具職人の須藤さんに、ここにお店を構えた経緯と家具に対する思いを聞きました。
店主は津山市勝北町出身の家具職人 須藤歩さん
――このお店はひとりでされているんですか?
はい。最初からずっと一人です。普段は店の奥で作業をしているので、お店は開けていませんが、お客様が来られるときだけ開店しています。
――家具作りは、どこで身につけられたんですか?
帯広に北海道帯広高等技術専門学院という学校があります。そこの木工科(現:造形デザイン科)を卒業しました。
――帯広には、なにか縁があったのですか?
私は、岡山県の出身です。もともと北海道には縁はなかったのですが、ひとり旅の途中で「家具作りをしたい」という思いで、家具作りに飛び込みました。
――すごい勇気ですね。
私は保育士の資格を取って1年ほど働いたんですが、自分にあわない世界だと働き始めてから気づきました。それで仕事を辞めて、気分転換も兼ねて北海道に3週間ひとり旅をしました。それが全てのきっかけです。
――そこで、家具作りの世界に出会ったのですか?
いえ、最初の旅では、出会った人たちと話をした感じです。宿のオーナーと朝まで話し込むようなこともあって、今まで深く考えなかったことを、考えるようになりました。
――深い話をされたんですね。
細かいことは覚えていないんですけど……。それまで、私は周囲が「普通」と思うことを選択する人生だったんです。でも、普通の選択を重ねた先の職業は、私には「ぴったり」こなかったんです。
気分転換もかねて思い切って旅行に出たら、世界の広さに気付いたというか、いろんな人がいて楽になったというか……。「自分も自分として生きていていいのかも」と思えたんですよね。
それと単純に「北海道っていいなぁ」と思ったので、また長期にひとり旅に行ったんです。そこで、家具作りに出会って、自分にあってそうだから学びたいと目標を立てました。そこからは北海道行きの資金を貯めるために3年間頑張って働きましたね。
――そこから学んで家具職人の道に進まれたんですね。岡山に戻ってきたのはいつなんですか?
北海道で9年ほど子育てをしながら木工の仕事をして、その後2006年に岡山に帰って来ました。
最初は実家に小さな工房を構えたのですが、縁あって2017年に城東地区に移ってきました。
この建物はその時に工房とショールーム、住まいとしてリフォームしました。
家具をつくるのは自分にあっている仕事です
――家具をつくるのは楽しいですか?
楽しいもありますけど、性にあってるという感じです。
子どもの頃から人形の服をつくったり編み物をしたりと、ちょこちょこと手作りしていました。それに、通っていた小学校が古い木造校舎で、その使いこまれた木の感触やたたずまいが好きでしたね。
なので、家具作りに出会って「あぁ、きっと私にあってる」という気持ちになったんです。今も、生活に近いものをコツコツとつくっている毎日が好きです。
※にいの屋で気ままに過ごす猫のまめちゃん
――どんなものをつくっているのですか?
楢、タモ、チェリー、ウォールナット、メープル、栗などの広葉樹を使って、テーブルやスツール、キャビネットなどを受注生産しています。
端材を使ったフォトフレームや時計も人気です。
少しずつ仕事の幅を広げて、今は旋盤加工もするようになったので、サラダボウルやスツールなどの製作もします。
シンプルだけど、どこか愛らしく懐かしい印象の長く使えるものをと思って製作しています。
例えば机の脚でも上は四角く途中から丸い形に加工したり、少し太い場所をつくったりと、バランスを見ながら削っていきます。そうすることで一点ものらしい長く愛される個性が出るように思います。
そんな、女性が作る「わざとらしくない柔らかさ」が、持ち味かもしれません。
ほとんどが受注生産のにいの屋さん。室内には、須藤さんの人柄を思わせる作品が並びます。
いつか、大切な家具をオーダーしたい。そう思いながら、サラダボウルを我が家に迎えました。
今回、須藤さんのたたずまいがとても素敵だったので、筆者がほとんどムチャぶりでインタビューをお願いしましたが、快く受けてくださいました。ありがとうございます。
ぜひ、ホームページやインスタグラムから作品をご覧ください。