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ライフ  |    2024.08.01

見えない世界で生きるとは 視覚障がいの方に聞く日常生活の困りごと|東京・町田市

「急に大きな声で声をかけられると、後ろから押されたようでびっくりするんです」と、視覚に障がいがある井上さんは言います。

みなさんは、街なかで視覚障がいの方にどのように声をかけますか。
視覚障がいの方が日常生活で何に困っているのか、またどう接してよいのかは、判断しづらいものです。

私自身、視覚障がいの方と普段接する機会がないので、少しでも知ることからはじめてみようと、この講座に参加しました。

今回は「視覚障害の方の日常を体験しよう!」(主催:町田市地域活動サポートオフィス)に参加したことをレポートします。

視覚障がいの方への声がけはそっと優しく

石渡さん・田中さん・井上さん

今回お話を伺ったのは、ブラインドITサポート町田(※1)代表の田中雅江さん、副代表・石渡由美子さん、MDSiサポート(※2)代表の井上直也さん、ガイドヘルパーの勝田さんです。

※1 ブラインドITサポート町田:視覚障がい者向けのスマホの使い方講座を開催している団体
※2 MDSiサポート:視覚障がい者向けのIT機器の指導を実施

田中さんは生まれつき片方の眼が見えず、途中からもう片方も視覚障がいが進み、現在は人の輪郭がぼんやり見える程度とのこと。視覚障がい者のためのスマホ教室の代表を務めています。副代表が石渡さんです。
井上さんは20代で網膜剥離を発症し、30代で全盲になりました。現在は視覚障がい者にIT機器の使い方のサポートをしています。井上さんが、田中さんへスマホの使い方を指導したそうです。
勝田さんは、田中さん主催のスマホ教室でボランティアをしています。

Q:視覚障がいの方への声がけはどのようにしたらよいでしょうか

A:急に「大丈夫ですか」と声をかけられると、実はびっくりするんです。特に中高年の方の声は、大きく感じられがちです。自分で思うよりも、少し控えめに声をかけていただけると助かります。

視覚障がい者は、道を歩いているときは、全身の感覚を研ぎ澄ませて真剣に歩いています。道路の点字ブロックには行き先が示されていないので、不安なんですね。大きな声で声をかけられると、後ろから急に背中をドンと押されるような気がしてしまうんです。

それから「大丈夫ですか」と声をかけられると、思わず「大丈夫です」と言いがちになります。
たとえば「〇〇駅まで行きますけど、一緒に行きますか」とか、「何かお困りですか」などと、具体的に声がけしていただけると、答えやすいです。

Q:外出の際に特に困るのはどのようなことでしょうか

A:女子トイレを使用するときには、個室までたどり着くのに距離があるので、遠く感じます。さらに、トイレの場所によって、流すスイッチの場所や方法がバラバラなんです。せめて「ここが流すスイッチの場所です」と示してもらえると助かります。

困ったときには、スマホで室内の画像を映しながら、ヘルパーさんにスイッチの場所を教えてもらうこともあるほどです。

それから、多目的トイレも案外使いづらいです。
広いので、どこに出入り口のボタンがあるのか、探すのが大変なんです。
さらに、白杖を使用していても、腰より上の状態がわかりません。おむつ台などを広げた状態のままだと、腰を強打してしまうことも。使用したら元に戻していただけると、助かりますね。

Q:スマホはどのように使っているのでしょうか

A:スマホの音声読み上げ機能によって、情報が分かります。

井上さんが、スマホを手に取って会場を撮影すると、スマホから声が聞こえてきました。
スマホの音声「目の前に男の人が〇人、女の人が〇人います。みんな、真剣な表情で聴いています。会場は透明な壁(ガラス)で覆われ、外は広い会場になっています」

井上さん「このように、撮影した画像をChatGPTが説明してくれるんですよ。これからは、障がい者や高齢者が、AIの恩恵を受けやすい社会になるのではないでしょうか」

参加者も見えない世界を体験

配られたおにぎりの包装をはがしているところ

当日の講座では、参加者も見えない世界を体験する時間がありました。
はじめに、配られたマスクをアイマスクのように目に当てます。次に、おにぎりと飲み物が配られました。

見えないので、もちろんおにぎりの具が何かは分かりません。手探りで飛び出ている部分を引っ張り、フィルムをむいてみました。

フィルムをむかれたおにぎり

アイマスクを取ってみると、うまくむけずに、のりの一部分がフィルムに残っている状態でした。メーカーによっても、フィルムの包装の仕方がバラバラで、むき方も変わるそうです。

視覚に障がいがある場合だけでなく、手をケガした場合やお年寄りにとっても、フィルムをはがすのはやりづらいのではないかという指摘もありました。

飲み物も、とりあえず手に触れたモノを選んでいました。おにぎりに合わない飲み物でも、区別がつきません。
炭酸飲料は、底がロケットのような形なので、見分けが付くそうです。私は、何も知らずにおにぎりには合わない炭酸飲料を選んでいました。

私たちにできるのは、まずは視覚障がいについて知ること

外出時にガイドヘルパーを頼もうとしても、1か月先に予約しないといけない実情や、スマホの音声機能が生活でとても役に立つことなど、初めて知ることばかりでした。

私たちが講座で聞いたことは、視覚障がいの方にとっての日常の一部分でしかありません。

井上さんがあとからお話ししてくれたなかで、印象的な言葉があります。
「ある日の外出先のことです。声がけが本当に上手な若い人がいました。それで『どうして今日は声をかけてくれたの?』と聞いてみたんです。
そうしたら『小学校のときに、学校で視覚障がいについての授業があったから、今日は思い切って声をかけてみました』と答えてくれたんです。遠慮がちなので、緊張していたのでしょうね。
やはり、小さいうちにほんのちょっとでも、障がいについて触れる機会があると、接し方が違ってくると思うんですよね」

ブラインドITサポート町田
視覚障がい者のためのスマホ教室を開催中

MDSiサポート(代表:井上直也さん)
視覚障がい者のための IT 端末活用を出張サポート
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この記事を書いた人

瀬崎 貴子

地方から東京の郊外に移り住み、あっという間に子育てが終了。この街が第二の故郷となりました。ここで多くの人に支えられたので、街の魅力を少しでも伝えていけたらと思います。人とのつながりを大切に生きていくのが目標。小京都や美術館めぐり、食べ歩きが好きです。

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