
平成が終わり令和という新しい元号が定着してきた2024年3月、栃木県東部にある茂木町に昭和の風景を再現した「もてぎ昭和館」が誕生しました。町の中心地にある、とある建物の中に一歩足を踏み入れてみると、そこには昭和の時代にあった看板やポスター、さまざまなグッズが飾られています。
昭和の時代を過ごした方にとっては、昔に戻ったかのような空間に感じられるでしょう。対照的に、昭和を知らない方にとっては、かえって真新しさを感じるかもしれません。平成生まれの筆者にとっては、足を踏み入れた途端に映画で見る昭和の風景があり、タイムスリップしたかのような気分を味わえました。
本記事では、もてぎ昭和館の立ち上げから携わった商工観光課の瀧田 隆さんと、茂木町地域おこし協力隊で館長の荒木 修さんに、立ち上げに至った話から今後のビジョンまで伺ってみました。
もてぎ昭和館の立ち上げのきっかけはフリマアプリ

2024年3月に開業したもてぎ昭和館は、1年後となる2025年6月14日に来場者数2万人を突破し、茂木町の「新しい顔」になりつつあります。もてぎ昭和館の企画が立ち上がった時点では、戸惑いを感じる住民の声も少なくなかったと言います。
瀧田さん
「茂木町では1970年代ごろより過疎化が進んでおり、商工観光課長の立場として中心市街地の活性化を模索していました。そんな中、一時期『昭和レトロ』がブームになりました。2022年ごろの話ですが、ふと中心市街地を見渡した時に『昭和の街並みが残っている』と気づき、そこから価値を生み出せないかと考えたことが原点となります。
企画を実現するために必要となるのが昭和のグッズ。町の広報誌で寄付を呼びかけたものの『そうはいってもな・・・』『どんなことを始めるのか?』と、住民からの戸惑いの声もありました」
実現に大きく近づいたのは、後に館長となる荒木さんとの出会いだったと言います。
瀧田さん
「昭和のあらゆるグッズを集めるためにフリマアプリを眺めていたところ、荒木氏が長年にわたり収集していた昭和レトロのコレクションを見つけて『これがあれば実現できる』と感じました。
すぐに町長へ直談判をし、当時荒木氏が住んでいた長崎県島原市へ赴きました」
荒木さん
「私はもともと島原市で洋服屋を営んでおりまして、昭和のグッズは趣味の範囲で集めていました。フリマアプリに出品したのは、私が店を閉めるタイミングでしたね。出品してすぐに瀧田課長が見つけてくださり、やり取りをした後に、はるばる島原まで来て『もてぎ昭和館』の構想について熱心に説明していただきました。
私としては、集めたコレクションはまとめて活用してほしいという想いがあったため、瀧田課長の案であればそれが実現できると思い承諾しました。長年かけて集めた物を傷つけたくないという思いから、トラックの助手席に乗せていただき、1,300㎞の道のりに同伴しました」

瀧田さん
「島原から茂木へ運び込むことが決まったタイミングで、荒木氏には『初代館長に就任していただけないか』とお願いをしました。店を閉める都合と家庭の事情もあったためオープン直後には間に合いませんでしたが、半年後となる2024年10月に地域おこし協力隊として、もてぎ昭和館の初代館長に就任しました。
70歳代で就任ですので、恐らく全国最年長の地域おこし協力隊員だと思います」
来場者は2万人を達成!町に戻ってきた賑わい

開業から1年弱となる2025年1月に来場者数1万人を達成してから、同年4月には2号館をオープン、6月には来場者数2万人を達成したもてぎ昭和館。町全体にも良い影響をもたらしているようです。
瀧田さん
「お客さんが昭和館へ来るようになったことで、周辺のお店も売上げが上がったという声を聞きました」
荒木さん
「実際に『どこか食事をするところはありますか?』と聞かれることもありますね。近隣には食事をするところもありますから、町全体が活性化につなげられればと思います」

「昭和」がコンセプトであるため、若かりし頃に昭和の時代を過ごした中高年が中心かと思いきや、平成・令和生まれのファミリー層も結構多いのだそうです。実際に筆者が訪れたときも、中学生くらいと思われる方が母・祖母とともに来場しているところを見かけました。
瀧田さん
「2025年6月に来場者数2万人のイベントを開催したのですが、3歳くらいの子どもを連れたお母さんが『この子もここが好きなんです』と言ってくださりました。
若い年代の方も一定数いらっしゃることから、2025年4月にオープンした2号館では、昭和の雰囲気を五感で楽しむことをコンセプトに設計しています」

※普段はバイクは並んでいません
(茂木町商工観光課提供)

(茂木町商工観光課提供)
2号館では1号館と違い、駄菓子やおもちゃがずらりと並んでいます。土日祝日には、昭和時代の子どもたちが駄菓子屋さんでお菓子を買うという経験ができるようにしているとのことです。
瀧田さん
「私たちが子どもの頃は、いわゆる『町の駄菓子屋さん』というのがありましたからね。そこで買い物をするときに、おばちゃんから『あんた買い過ぎでしょ』と𠮟られながら、お金の使い方を学ぶ。令和の子どもたちにも、そういう体験をしてもらえたらいいな、と思っています」

筆者が訪れた日は平日だったため見られなかったのですが、子どもたちはきっと2号館で令和と昭和の違いを感じながら過ごせることでしょう。
2号館には、令和の時代にも馴染みがある少年サンデーが置いてあります。当時の子どもたちのヒーローは読売ジャイアンツだったようで、2025年6月に逝去した長嶋茂雄氏が表紙を飾った号が並べられていました。

茂木町の歴史を伝える場所としても機能

町の中心地の顔となりつつあるもてぎ昭和館ですが、茂木町にとっては観光客を呼び寄せることだけが目的ではないようです。「町の歴史を伝える」という、重要な役割もあると語ってくれました。
瀧田さん
「町の歴史を語る場としても機能してくれることを狙っています。実際に、ただ『昭和レトロ』だけでは、どこにでもあるものになってしまいます。実際に大分県豊後高田市では、昭和をテーマに30年ほど前から町おこしをしており、毎年20万人超の観光客が来ているそうです。
では茂木ならではの『昭和レトロ』は何だろうか、と考えたのがタバコです」
茂木町はかつて葉タバコの生産地として栄え、さまざまな銘柄を製造していました。1号館の中央にはタバコ屋の看板とショーケースが構えられ、自販機をはじめタバコの展示物がたくさん飾られています。



瀧田さん
「1977年に工場が閉鎖してからは、町の衰退が進んでしまいました。あれから50年弱の時が経ち、今ではそうした歴史を知る若い世代はほとんどいません。健康面はさておき、タバコにより栄えていたという歴史は伝えていかなければならない、という想いがあります」
タバコに関するあらゆる展示が、町の歴史を語ってくれました。
課題は収益化|3号館4号館の構想も

もてぎ昭和館の開業により町全体がにぎわいを取り戻しつつある一方で、課題もまだまだあるようです。もてぎ昭和館は入館料は無料で、代わりに協力金として任意で100円を支払う形式です。「どうやって収益化しているのだろう……?」と、筆者も含めた多くの来場者の方が抱くであろう疑問を聞いてみました。

瀧田さん
「ご指摘のとおり、収益化については考えなければならない課題です。『協力金』だけでは、行政の補助金頼りになってしまいます。
先日オープンした2号館では駄菓子販売の体験ができることがコンセプトですが、これは収益化の問題を解消することの狙いもあります。皆さまが楽しんでいただけたおかげで、2号館のほうは家賃を除いて収益化を実現できました」
荒木さん
「また、来館者をいかに飽きさせないか、ということも課題のひとつですね。リピーターの方に少しでも新しい発見をしてもらうために、定期的に展示を入れ替えたりレイアウトを変更したりしています」

荒木さんの活動が功を奏してか、実際にリピーターさんも着実に増えているそうです。
タイミングよく、リピーターさんから少しだけお話を伺うことができたので、もてぎ昭和館の魅力を聞いてみました。
リピーターさん
「ここに来ると、昔の雰囲気とか楽しい雰囲気がよみがえってくるんだよ。自分もグッズを寄付したのだけど、飾られているとまた来たくなるんだよね」
2号館をオープンして間もない段階ですが、瀧田さんは現在3号館4号館の実現に向けて動き出しているようです。
瀧田さん
「豊後高田市は10年以上もかかりました。私たちはまだ2年目、さらに集客力を高めるために、3号館4号館まで構想があります。ありがたいことに、私たちの取り組みに賛同して『この町で何かやりたい』という方も現れ始めています。そう言った方々にもお願いをして、形にしていきたいところです。
逆に、ここで手を打たなければ町にシャッターが増え、また寂れてしまいます。実際に2号館のほうは元々は薬屋だったのですが、私たちがオープンするまではシャッターが閉まっていました。
3号館4号館まで実現することでさらに集客力を高め、町全体の活性化につなげていければと考えております」
もてぎ昭和館の開業を機に賑わいを取り戻しつつある茂木町。今後どのような町に発展するのか、昭和を知らない筆者も楽しみです。
●もてぎ昭和館 住所 〒321-3531 栃木県芳賀郡茂木町茂木1659-2 営業時間 水~金曜日 10:00~12:00、13:00~16:00 ※月・火曜は休業日、祝日の場合は水曜が休業日 土・日曜日、祝日 10:00~16:00 ●第2もてぎ昭和館 住所 〒321-3531 栃木県芳賀郡茂木町大字茂木1657 営業時間 土・日曜日、祝日 10:00~16:00 アクセス 電車:真岡鐵道茂木駅より徒歩5分 車:常磐自動車道水戸北スマートICから約40分 料金 入館無料。 ※運営協力金1人1口100円。ご協力いただけた方にステッカー(非売品)プレゼント 駐車場 店舗横3台、ふみの森もてぎ50台、茂木駅30台 問い合わせ先 茂木町商工観光課 0285-63-5644 |