
「『助けて』って言えば誰かが手を差し伸べてくれる関係を、地域で日ごろから築いておくことが大切なんです」
そう語るのは、横浜市金沢区で「顔見知り・顔なじみ」という新たな視点で支援の活動を展開している、金沢区自助連絡協議会の代表・穴澤 里美(あなざわ・さとみ)さん。
生まれ育った福島を離れ、移り住んだ横浜市金沢区での子育てや、地域活動を通して培った経験をもとに「支援する人」と「支援される人」というボランティアの垣根を越えた「ゆるやかな支え合いのかたち」を模索し続けています。
今回は“自助ってなに?”という素朴な疑問から、活動に込めた想いや、広がり続ける地域とのつながりについてうかがいました。
震災と子育て、見知らぬ土地で感じた「つながりの力」

さかのぼること14年前。
ご家族の転勤に伴い、震災の記憶が色濃く残る福島から、横浜市金沢区へ引っ越してきた穴澤さん。東日本大震災のあった2011年のことでした。
「まわりに知り合いは誰もいなくて、夫も新しい職場に慣れるのに必死。私は小学生と幼稚園児、そして首の座らない赤ちゃんを抱えて、毎日てんてこまいでした」
そんな中で救いになったのが、地域のママたちとの出会い。

「ひとりじゃなかったから頑張れたんです。『お兄ちゃんたち、見ておいてあげるよ』と声をかけてくれたり、病院の付き添いを手伝ってくれたり……」
地域のつながりを通して支え合った育児の体験が、「顔見知り」「声をかけ合える関係」の大切さを呼びかける「金沢区自助連絡協議会」の原点になったといいます。
子育てを通してつながった、小さな支援の芽
横浜市金沢区には、地元の企業が災害時に自治体と連携して復興を支援する「かなざわ強助隊」という団体が以前からありました。

当時、障がいのある子どもを育てながら別の団体で地域活動に取り組んでいた穴澤さんは、強助隊が防災をテーマに活動していることを知り、地域全体で取り組む防災のあり方に関心を持つようになったそうです。
やがて、強助会と連携して企業や自治体とともに勉強会を開催したり、防災イベントを実施するようになったりと、交流の輪を広げていきました。この取り組みが後の金沢区自助連絡協議会の土台になったといいます。
その輪は福祉、企業、自治体にとどまらず、地域の大学生にも広がっていきました。世代や立場を超えた多様な人々が関わることで、地域全体に「ゆるやかなつながり」が少しずつ育まれていったのです。

そうした活動を通して障がいの有無、年齢、性別に関わらず、誰もが参加できるバリアフリーな助け合いの仕組みとして、金沢区自助連絡協議会の土台が築かれていきました。
「資金が少ないので活動は毎回、自転車操業です(笑)。でも『何かやりたい』と自主的に集まったメンバーでできることを持ち寄り、少しずつ幅を広げていきました」
こうした小さなつながりの積み重ねが、やがて金沢区自助連絡協議会の発足へとつながっていきます。
「助けて」と言えること、それが“自助”の第一歩

金沢区自助連絡協議会は、2024年に発足したばかりの新しい組織です。
2023年にわずか5〜6人で始めた小さな取り組みでしたが、その想いに共感する人が次第に集まりました。
2025年6月に開かれた総会には、約100名が参加。会場に入りきらないほどの盛況ぶりになったといいます。

協議会では企業やNPO、福祉団体、行政、子育て世代など、さまざまな立場の人がゆるやかにつながることを目的としています。
活動の本質は「顔なじみ」の関係づくり。

「東日本大震災を知らない子どもたちが増えています。そこで私たちは、小学校や福祉施設などで防災イベントを開き、防災をきっかけに地域と住民がつながる場を作っているんです」
また協議会を通して、区内の企業とも積極的に交流を深めています。イベントも積極的に開催し、時には300名以上の来場者に協議会の活動をお伝えしたこともあったそうです。
「過去には災害時に食材提供の協力体制を結んでいる、区内の大手ショッピングセンターから食材をご提供いただいて、炊き出しのイベントを開催したこともあります」

「何かしたい人」が一歩を踏み出せる場所づくり
「“何かしたい”と思っている人は意外と多いんです。でも、どこで何をしたらいいのかがわからない。
だったら、私たちがその場所を作ろうと思っています。バリアフリーとか、インクルーシブっていう言葉自体がいらない社会を、本当は目指したいんです」

そう語る穴澤さんのまわりには、いつの間にか同じ想いを持った人たちが集まり始めています。
企業の社長、学生、自治体、お母さんたち、そして子どもたち……。
金沢区発!「地域ぐるみの防災モデル」が動き始めている
その取り組みのひとつが「自助リュック」。地元企業と協力し、区内で作られた製品を詰め込んだオリジナルの防災リュックを開発しました。
中に入っているのは、ほとんどが金沢区にゆかりのある企業の製品。まさに地域の人たちの想いと力が形になったリュックです。

金沢区自助連絡協議会の活動は、行政・企業・市民がゆるやかにつながる新しい「地域の形」をつくりつつあります。
さらに支援学校と連携し、支援が必要な子どもたちの目線で考える避難訓練「自助リハ」もスタートしました。

「もしもの時だけじゃなく、普段から”顔見知り”の関係をつくることで、自然と誰かの力になれる。金沢区は、そんなあたたかい地域になりつつあると感じています」

“助けて”が言える社会のために──。防災だけでなく、子育てや介護、多文化共生など、あらゆる場面で『誰かとつながる』ことが、自分と地域を守る力になると穴澤さんは語ります。
一人でがんばらなくてもいい。
金沢区から始まる「自助」の形は、これからの地域のあり方を考えるきっかけになるでしょう。

金沢区自助連絡協議会(自助カナ)
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