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もの・こと  |    2025.06.15

薪でつなぐ、まちの未来。マチマキプロジェクトが描く飯能の景観づくり|埼玉県 飯能市

埼玉県飯能市の街なかにある銀座商店街を歩いてみると、通り沿いにいくつもの“薪”が並べられていました。目立つような派手さはないけれど、なんだか気になる存在。

立ち止まってよく見ると、染められた木や、鉄が組み合わされた造形など、誰かの手仕事のあとが。

これは“薪”をつかった新しい景観づくり『マチマキプロジェクト』という社会実験の一環。今回は、飯能で暮らす人びと、学生、職人たちが一緒になってつくりあげた、まちと人を“薪”でつないだ「マチマキプロジェクト」について紹介します。

森林文化都市の飯能で「薪」を使った新たな街づくり

「マチマキプロジェクト」代表の小山駿さん、お話を伺った当時は埼玉大学大学院で都市計画や景観工学を専攻していた大学院生(2025年3月修了)でした。

写真提供:マチマキプロジェクト(代表の小山駿さん)

小山さんが建築家の方と飯能市内を散策したとき、“煙突や薪が並んでいる場所が多い”ことに気が付きます。自然を身近に感じるものが今も残り続ける飯能で、その資源を活かしながら街づくりができないかと「マチマキプロジェクト」の構想がスタート。

「自然と人々が関わる暮らしのことを森林文化というのであれば、まさにその象徴として『薪』は最適なのではないかと」と考えを深めていったようです。

行動に移すきっかけとなったのが、駿河台大学と飯能信用金庫が主催する「輝け!飯能プランニングコンテスト」で最優秀賞を受賞したこと。翌年度には埼玉大学の「チャレンジ応援プロジェクト」にも採択され、学生のチャレンジを応援する学校側の後押しを受けて「マチマキプロジェクト」が始まっていきました。

駿河台大学HPより「輝け!飯能プランニングコンテスト」最終審査参加者

かつて飯能では、江戸時代に「飯能縄市」という市が開かれていたという歴史があり、そこでは薪や縄といったものが売り買いされていたそうです。山の資源や街で作られたものが並んでいた時代を振り返ると、飯能の街に薪が並ぶのは決して新しいことではありません。小山さんは「ずっと以前からある飯能の発展の根源にあった市場の再現にもつながる」と話してくれました。

飯能市HPより「飯能縄市」が行われた大通り(明治44年12月)

デザインに込めた地域の記憶

商店街に設置された薪は、どれも店主たちとの対話を重ねながらデザインを組み立てていったそうです。とあるケーキ屋さんでは、先代から続く大切な商品をモチーフにした薪のオブジェが。

別の場所では、普段からお店の前に置かれている商品ラックが西川材に変わっていたり、街のシンボル「はしらベンチ」の下には薪がそっと並べられていたり。使いやすく、違和感がないデザインに仕上がっていることで、街の風景にもしっかりと溶け込んでいる様子が印象的でした。

オブジェクトの制作を通じて、商店街の人々が持つこだわりや地域への想いに触れた小山さん。同時に、人通りが減っている現在の課題や、かつての賑わいを取り戻そうと工夫を重ねているという商店街の背景も知ることに。こうした街の人との交流から、単に景観を変えるだけでなく地域活性化に少しでも貢献したいという強い気持ちが芽生え、プロジェクトに取り組んだと語ってくれました。

地域と一体になった「薪割り体験」

商店街に設置された薪は、実はすべて地域の方と一緒に行った「薪割り体験」によるもの。小さなこどもからお年寄りまで、普段は体験できない「薪割り」に多くの方が興味を持って参加してくれたそうです。

画像提供:マチマキプロジェクト(森と住まいの木づかいフェスティバル)

初めて薪割り体験をした子供たちの誇らしげな表情。当時の思い出を懐かしそうに語るお年寄りの方。「森林文化に触れる機会を提供できて、とても意義深い時間だった」と振り返ってくれました。

写真提供:マチマキプロジェクト(飯能まつり)

社会実験を終えて見えたもの

今回行われた社会実験では、飯能らしい景観づくりの実現ができたことに加え、商店街の方が喜んでくれたことや訪れた方が興味を持ってくれたことが何より嬉しかったそうです。通りすがりの人が立ち止まり、薪に見入る。今までとは違ったそんな風景が商店街のなかに自然と生まれていました。

写真提供:マチマキプロジェクト

さらに、林業関係者や製材所の方々、地域職人と関わりながら「これからの飯能をどうしていくべきか」を一緒に考える時間にもなったとのこと。この「マチマキプロジェクト」は、”地域の方々が繋いでくれたご縁や、同じように街づくりの研究をしてきた先輩方が培ってきた土壌があったからこそ実現できた”と力強く語ってくれました。

写真提供:マチマキプロジェクト(鍛鉄家の加成さんとのオブジェクト作成の様子)

地域の希望をかなえる豊かな街づくりを目指して

薪をきっかけに、人とまち、そして自然とのつながりを見つめ直す「マチマキプロジェクト」。地域の記憶や日々の営みに目を向けながら、飯能らしい景観を形づくるこの試みは、多くの人の協力によって少しずつかたちになっていきました。

写真提供:マチマキプロジェクト(地域住民への説明会)

こうした経験を通して小山さんが見つめたのは、まちの風景だけでなく、そこに暮らす人々の思いや願い。薪を割る音、手を動かす時間、通りすがりにふと足を止める瞬間。何気ない風景の中に、地域のあたたかさや可能性がそっと重なっていきます。

この春からは街づくりの現場に立ち、培った経験を手にしながら、地域に寄り添う未来を描いていく小山さん。「マチマキプロジェクト」で芽吹いたつながりが、これからどんな景色へと育っていくのか。その歩みに、これからも注目していきたいと思います。

写真提供:マチマキプロジェクト
マチマキプロジェクト

Instagram:matimaki2024

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この記事を書いた人

ハネジユキエ

沖縄出身、埼玉在住のフリーライター。30代、二児の母。ものづくり、伝統芸能、暮らしを豊かにするモノ、地域を元気にするヒト、大人からこどもまで楽しめるコトを取材しています。

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