愛媛県松山市道後に誕生した「古着&POPUP」。
運営に携わる隠岐さんは、東京・大阪・名古屋・福岡などで、17〜18年にわたりアパレル業界の経験を積んできました。
これまでとは大きく異なる環境で、なぜ愛媛で新しい挑戦を始めたのでしょうか。
今回は、道後での挑戦の裏側から、これから目指すお店の姿まで伺いました。
「古着&POPUP」は、挑戦する人のための場所

「古着&POPUP」という店名からもわかるように、ここは古着だけを扱う場所ではありません。
隠岐さんが思い描いているのは、愛媛で何かに挑戦したい人が、一歩踏み出せる場所です。
「愛媛でちょっとお店をやってみたい」「自分の商品を紹介してみたい」
そんな人たちが、いきなり自分で店舗を構えるのではなく、POPUPという形で挑戦できる。それをお店として一緒につくっていくことが、コンセプトの一つになっています。

隠岐さん自身も、現在の店舗を「まずはチャレンジしてみる場所」と捉えています。
DIYを取り入れ、できるだけコストを抑えてスタート。
そこで地域の反応を見て、本腰を入れて店舗をつくるのか、それとも別の形を考えるのかを判断する。
これは単なる節約ではありません。
「まず動いてみて、現場から答えを見つける」という、隠岐さんの挑戦のスタイルでもあります。
愛媛をつなぐ場所に

縁があり、2023年から3年間、隠岐さんは愛媛県伊予市の地域おこし協力隊として活動していたそうです。
だからこそ、道後という場所だけで完結するのではなく、愛媛県内のさまざまな地域とつながっていきたいと考えています。
さらに、伊予市ではすでに別の物件を用意しており、今後新しい展開も予定しています。
道後での店舗運営。
伊予市での新たな展開。
そしてPOPUPを通じてつながる、愛媛の作り手たち。
一つのお店から、少しずつ地域との接点が広がっていきそうです。
「一人で全部」はできない

一方で、店舗運営には当然ながら苦労もあります。
隠岐さんはこれまで会社に所属し、店舗づくりを経験してきました。
その経験があるからこそ、「お店をつくる」ということ自体には慣れていました。
しかし、会社員時代と現在では、大きな違いがあります。
それは、自分のお金でやること。
会社に所属していた頃は、店舗に必要な申請や事務作業などを会社のスタッフが担当してくれていました。
自分はプレイヤーとして、店舗づくりや現場の仕事に集中できたのです。

ところが今は違います。
プレイヤーとして現場に立ちながら、経営者として判断する。
両方を同時に担わなければなりません。
「オーナーの視点も見ながら、プレイヤーとしてもやる」
この両輪を回す難しさを、実際に自分で店を始めたことで感じているそうです。
だからこそ、今後は誰かに任せることも必要になるかもしれない。
すべてを自分一人で抱えるのではなく、役割を分担しながら、より良い形をつくっていく。
これも現在の挑戦の一つです。
古着屋が「悩み相談室」になることも

そんな隠岐さんのお店では、思いがけない出来事も起きています。
ある日、お母さんと娘さんが二人で来店。
娘さんが洋服を試着している間、お母さんから思いがけない話を聞かされました。
京都の大学に通っている娘さんが、休学するのか、辞めるのか悩んでいるというのです。
洋服を見に来たはずが、いつの間にか人生相談のような話になっていました。

お母さんから、
「話しやすかったから、ちょっと話してみた」
と言われたそうです。
そこで隠岐さんは、自身の10代、20代の経験も交えながら、娘さんに話をしました。
「周囲と合わないと感じるなら、無理に合わせなくてもいい」「人生は10年あれば大きく変わる」
そんな話をしていると、試着室から出てきた娘さんが、静かに涙を流していたそうです。

しかし、その涙は、単純に悲しかったから流れたものではないのかもしれません。
自分の気持ちを誰かに話せたこと。
そして、少し先の未来を考えるきっかけになったこと。
洋服を探しに来た場所で、思いがけず人生について話す。
そんな出来事が、すでにこの店では生まれています。
「売る」だけが店の役割ではない

隠岐さんが目指しているのは、商品を販売するだけの店舗ではありません。
洋服を見に来た人が、何気なく会話をする。
地域の人が立ち寄る。
新しいことを始めたい人がPOPUPをする。
そこでまた新しい人と出会う。
そうした小さなつながりが積み重なっていく場所です。
だからこそ、接客でも「売ろうとしない」ことを大切にしています。
お客さんに商品を押しつけるのではなく、その人に合わせて会話をする。
洋服の話をすることもあれば、まったく違う話になることもある。
「わざわざ来てくださってありがとうございます」という気持ちから接客を始める。
そして、その人が心地よく過ごせる距離感を探っていく。
それが隠岐さんにとっての接客です。
「また来たい」と思ってもらえる店へ

隠岐さんが、これからどんなお店にしていきたいのかを聞くと、答えは意外なほどシンプルでした。
「来てくださったお客さんを大事にしていけるお店」
大きな目標を掲げるのではなく、一人ひとりを大切にする。
その積み重ねによって、3年、5年、10年と時間をかけて、お店そのものの信頼をつくっていく。
それは、隠岐さんが古着について話していたことにも通じます。
「ここにあるものなら間違いない」そう思ってもらえる店になること。
そして、「なんとなく、またここに来たくなる」と思ってもらえる場所になること。
道後から始まる、新しいつながり

まだスタートして間もない「古着&POPUP」。
しかし、そこにはすでに古着をきっかけにした出会いが生まれています。
服を選ぶ。
会話をする。
誰かの挑戦を応援する。
地域と地域をつなぐ。
そして、ときには人生について語る。
古着屋という言葉だけでは収まりきらない場所になっていく可能性を感じます。
隠岐さんがこれまで培ってきたアパレルの経験と、伊予市とのつながり。
そこに、道後という観光地ならではの人の流れが加わることで、これからどんな場所になっていくのか楽しみです。
古着が好きな人はもちろん、古着に詳しくない人も、一度ふらっと立ち寄ってみてください。
基本情報
古着&POPUP
住所:愛媛県松山市道後湯之町13-3
営業時間:13:00〜20:00
定休日:火曜日
SNS:Instagram




