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もの・こと  |    2024.01.14

伝統の“釜焚き製法”を守り続ける石けん工場。松山油脂オープンファクトリーに行ってきたよ【後編】|東京都墨田区

本稿は、松山油脂にて2023年11月18日に開催された「墨田工場オープンファクトリー」の様子をレポートした記事の後編です。前編は[こちら]よりご覧ください。

工場見学スタート!墨田工場の内部へ入る

いよいよ、松山油脂墨田工場の内部を見られる工場見学(事前予約制)の時間です。

今回見学できるのは、こちらの3箇所。

  • 釜場…石けん素地を焚き上げる部屋
  • 液体充填室…液体石けんを容器に充填する部屋
  • 小切り室…冷やし固めた石けんを切り分ける部屋

松山油脂の工場見学は、製造スタッフと同じ空間に入り、可能な限り近くまで近寄れるというスタイル。場内には見学専用の通路はないため、安全・衛生には特に気を付けなければなりません。食堂で会社説明や見学時の注意事項を聞いてから衛生キャップと白衣を装着し、工場内へ移動します。

釜場

第一の見学場所は「釜場」。ここでは、昔ながらの「釜焚き製法」により、松山油脂のさまざまな製品の素となる石けん素地を製造しています。

見学者が現場へ入ると、製造スタッフの方々がやさしい笑顔で迎えてくれ、石けん製造工程を説明してくださいました。

松山油脂が受け継いでいる釜焚き製法による石けん作りは、①鹸化(けんか)、塩析(えんせき)②仕上げ塩析③静置④汲み上げの4つの工程に分けられます。この釜場では、①から④の工程を4日間(約100時間)かけて行っています。

見学時は製造工程2日目、仕上げ塩析の真っ最中でした。

塩析とは、石けんの純度を高める工程のこと。釜で焚き上げた石けんに食塩を加えることにより、石けんと不純物が分離します。仕上げ塩析の後は機械を停止させ、そのまま静置。製造工程4日目には、純度の高い石けんを汲み上げられるのだそう。

直径2メートルの大釜の中には、もこもこの泡に覆われた石けん予備軍。液を汲み上げて少し静置したビーカーを観察すると、分離中の様子がよくわかる

それにしても、4日間も釜を空けられないとは……。「生産性」や「効率性」といった言葉がもてはやされる時代に、あえて手間も時間もかかる伝統製法を守り続ける理由を、松山油脂はこう説明しています。

“油脂を釜で焚き上げると、人の肌に適した洗浄力の石けんになる。それが釜焚き石けんの大きな特長です。だから私たちは、伝統の製法を70年以上受け継いでいるのです。”

松山油脂オンラインストア「製法の力」より

以前、さらりと読んだはずの文章が、ずっしりとした重さを持って脳裏によみがえってきました。

液体充填室

続いて案内していただいたのは、液体充填室。こちらは特に衛生度が高い部屋とのことで、前室にて靴を履き替え、粘着テープ式クリーナー(いわゆる「コロコロ」)で全身のほこりを入念に取り払ってから入室しました。

液体充填室は、ボディソープやシャンプーといった洗浄系液体製品をボトルや詰替袋に充填する部屋です。充填ラインは本体ラインと詰替ラインの2系統があり、1ラインにつき4〜5名のスタッフが手作業で充填から箱詰めまでを行っていました。

液体充填室内は2区画に仕切られ、充填作業を行う区画はガラスの向こう。こちら側にいるスタッフがトランシーバーで呼びかけると、充填区画内のスタッフが大きなリアクションで応えてくれた

「工場」のイメージから想像していたよりもずっと小規模な製造ラインで、筆者は静かに驚いていました。ライン全体の長さが短いため、容器の準備、充填、キャップ閉め、ロット番号の印字、検品、箱詰めまでの作業が、あっという間に終わります。

現代の技術では、これらの作業をすべて機械化することも可能でしょう。しかし、多品種少量生産を強みとする松山油脂には、このコンパクトなラインが最も適しているそうです。

充填区画との壁には小窓があり、ベルトコンベアでつながっている。流れてきた製品を検品して箱詰めし、ウエイトチェッカーで製品の入数を確認
ラベル貼りと詰替袋への充填作業の体験も

店頭に並ぶ製品1つひとつが、何人ものスタッフの手を渡って作られていたなんて……。「知らない」って、もったいないことですね。想像以上の事実を目の当たりにして、価格を見る目もがらりと変わった気がします。

小切り室

最後の見学場所は、小切り室。こちらでは、さきほど見学した釜場で製造されたニートソープ(水分量調節前の石けん素地のこと)を枠に流し、2日かけて冷やし固めた「釜焚き枠練りせっけん」の裁断作業が行われていました。

上の写真にある、大きな豆腐のような塊が裁断前の石けんです。これに一定の厚さの木枠を5層重ね、木枠の厚みに添って板状に段切りしていきます。

カットに使用するのはステンレス鋼線。2人ひと組で引っ張ると、するすると切れていく。断面が波打ってしまわないよう、息を合わせてテンポよく作業を進める

段切り後は、「小切り機」と呼ばれる機械で裁断していきます。小切りにした石けんは、すのこに並べて10日間ほど乾燥・熟成期間をおきます。その後、角を削って型打ち・刻印を行い、包装すると製品完成となります。

小切り機で縦横2回のカットを経て、見慣れた石けんの形に。段切り1枚からとれる固形石けんは50個前後、段切り前のひと塊からは最大260個の製品がとれる
現場では棒状の石けんを手作業で小分けにする体験も。たとえるなら「冷えたバターをカットする感触」に近いだろうか。自分でカットした石けんはお土産としていただける

ひとつの「釜焚き枠練りせっけん」ができあがるまでの作業工程と期間をまとめると、以下のようになります。

作業名期間
1.釜焚き約4日間
2.固化約2日間
3.小切り1日
4.乾燥・熟成約10日間
5.刻印・型打ち1日
6.乾燥・熟成約18日間

合計約1ヶ月に及ぶ製造工程の多くが手作業です。機械の力を借りながらも、人の方が得意な作業はできるだけ人がやる。そんな企業姿勢が好きだなあと、しみじみと感じました。

ワークショップでバスシュガーづくり!

工場見学の後はワークショップです!会場は墨田工場向かいの本社内。スタッフに案内され、植栽越しに見えるガラス張りの部屋へ移動します。

ワークショップは事前予約制かつ少人数制のため競争率が高く、「参加してみたいけれどなかなか機会がない」という方も少なくないはず

今回のワークショップは、「オリジナルバスシュガーづくり」。3種の天然精油と3種のドライハーブを組み合わせて、自分好みのバスシュガーをつくります。

こちらはお手本。一人につき2回分のバスシュガーをつくることができる

バスシュガーのベースには、細かい氷砂糖(てん菜から作られたもの)と重曹(炭酸水素ナトリウム)を使用します。カミツレ、ラベンダー、マンダリンオレンジの中から1種類のドライハーブを選んでベースに混ぜた後、ユーカリ、マンダリンオレンジ、ニオイテンジクアオイ(ゼラニウムの全草からとった精油の名称)の精油をブレンドして香りをつけたら完成です。

6名の参加者に対し3名の研究開発部スタッフが丁寧に教えていた

どの精油をどれくらいの割合で混ぜ合わせるかは参加者の自由。1〜2滴違うだけでも全体のバランスが変化するため、無限大の組み合わせがあるとも言えます。

材料はシンプルで、スーパーマーケットやハーブショップなどで入手可能。このワークショップでレシピと精油を扱う上での注意事項を学べば、いつでも自分専用のバスシュガーを作れるようになりますね!

オープンファクトリーで、ますます愛が深まった!

私たちの生活に当たり前のように存在する石けんや基礎化粧品。値段の手頃さや入手のしやすさ、広告の印象など、製品選びの視点は人それぞれです。しかし、毎日ほぼ一生に渡って体に直接使用するものだからこそ、原材料や製造方法、その背景にある企業や作り手の姿勢まで知って選択することが大切だと筆者は考えます。

今回のオープンファクトリーで、松山油脂への理解がより深まった気がします。これからもずっと真摯なモノづくりを続けていただきたい。そんな願いを込めて、今回の訪問記をしめくくります。

松山油脂のみなさま、すてきなオープンファクトリーをどうもありがとうございました

企業情報

【社名】松山油脂株式会社
【所在地】東京都墨田区東墨田2丁目17番8号(本社および墨田工場)
【ホームページ】https://www.matsuyama.co.jp/

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この記事を書いた人

青井なの

東京・多摩地区出身のフリーライター。大学卒業後、第一次産業関連の飲食店立ち上げ・運営や食品メーカーの商品企画職、D2Cプラットフォームの立ち上げを経験。その過程でwebメディアの魅力にハマり、今に至る。資格:食品衛生責任者、星空準案内人、二級愛玩動物飼養管理士 趣味:畑、星空撮影、猫の世話

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