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もの・こと  |    2024.03.12

津波被災の中学校跡地をぶどう畑へ!宮城県雄勝町「MORIUMIUS FARM」が拓く未来

硯(すずり)の優良な生産地として知られる、宮城県石巻市雄勝町。2011年3月11日の東日本大震災により、甚大な津波被害を受けた地域だ。

人口が1,000人台まで減少したこの街に、未来を拓く小さな、しかし強い光が灯っている。雄勝の「MORIUMIUS FARM」(以下モリウミアスファーム)のぶどう畑のことだ。
本記事では、石巻市の官民連携事業「雄勝ガーデンパーク」の一環として、モリウミアスファームが造成するぶどう畑の「暗渠(あんきょ)整備」にスポットを当てた。

モリウミアスファームが目指す「リジェネラティブなぶどう畑」

モリウミアスファームの母体は「MORIUMIUS(モリウミアス)」。
子どもたちが短期滞在、あるいは転校を伴う1年間の長期滞在により、自然との共生を学ぶ複合体験施設だ。
雄勝の自然に恵まれた環境の中、子どもたちは農業や漁業など、様々なプログラムを通して「生きる力」を身につけていく。

2023年春、モリウミアスファームは東日本大震災の大津波で被災した「旧雄勝中学校」跡地を中心に、約2万平方メートルの土地を借り受け、ぶどう畑の整地に着手した。
その前年、津波により塩害を受けた土を、石巻市が山土に入れ替えたのだ。これにより、旧雄勝中学校跡地を農地として活用できるようになった。

モリウミアスファームが目指しているのは、子どもたちと雄勝の未来を見据えた「リジェネラティブな農業」。ぶどう畑はその取り組みの一環となる。
リジェネラティブな農業とは「環境再生型農業」とも呼ばれる、持続可能な農法のことをいう。健全な有機物を使って畑を改良し、微生物の命が豊かな土壌環境で植物を育てるのだ。
この農法は、気候変動の緩和や生物多様性の保全に大きな効果を発揮する。

画像提供:MORIUMIUS FARM

整地や土壌改良には、MORIUMIUSと雄勝を愛する、延べ600人が参加したという。
「専門の会社に整備してもらうのは簡単です。でもそれは僕らにとって勿体ないこと。あえて沢山の人の手を借りることが、雄勝への愛着や人とのつながりを生み、町づくりになる」と、モリウミアスファームの油井(ゆい)代表は話す。まっすぐな目には、雄勝の明るい未来が見えているのだろう。

土づくりの総仕上げとなる暗渠整備

2024年2月17日〜18日にかけて、モリウミアスファームは土づくりの最終段階である「暗渠整備」を実施した。

暗渠整備とは、土中に排水のための硬いパイプを埋め、水はけを改良することだ。
旧雄勝中学校跡地に入れられた山土は、粘土質で水はけが悪いため、そのままではぶどう栽培に適さない。苗木の植樹を控えたモリウミアスファームにとって、暗渠整備は土づくりの総仕上げとなった。

様々な道具を使って、暗渠整備を進めていく

暗渠整備は次の手順で行われる。
・掘削機で深さ45cm×幅10cmの溝を掘り、両際をドリルで貫通させる
・溝の底面を平らにならし、細かい砂利を敷く
・パイプを置き、粗い砂利と砂をかぶせる

今回埋め込まれるパイプは18本。暗渠整備は地道で大変な作業だが、約20人が参加した。

写真上部がむき出しの排水パイプ。中央は砂利のみを、下部は砂利の上に砂をかぶせた状態。

大変な作業と嬉しそうな笑顔

暗渠整備の説明が終わると、集まった人々はそれぞれの作業を始めた。
津波で被災した中学校跡地を、ぶどうが実る豊かな畑へ。
それはまるで、東日本大震災で甚大な被害を受けた雄勝の街を、復興とへ導く作業を見ているかのようだった。

MORIUMIUSのプログラムを体験した、頼もしい子どもたち。
小さな手が、大人に負けない力を発揮する。

東京から参加していたお母さんとお子さん。初めてMORIUMIUSに来た当時、お子さんはまだ赤ちゃんだったそう。
お母さんは「スタッフの皆さんは、子どもと接するプロフェッショナル。いろいろな体験をさせていただいています」と目を細めていた。

仙台から来た女性は、お子さんを連れてMORIUMIUSに泊まったことが、雄勝とつながるきっかけだったという。
「子どもは小学校1年生から毎年、プログラムに参加しています」と嬉しそうだった。

大変な作業をしているはずなのに、皆さんとても嬉しそうな笑顔。
MORIUMIUSを中心とした絆の深さと、雄勝への愛情が垣間見えた。

雄勝の恵みと復興への光

モリウミアスファームはこれまで、間伐した竹を作った竹炭、貝を使った石灰など、地元の資源を活用した土壌改良に取り組んできた。
この畑は、土そのものが雄勝の恵みに満たされている。ここに根を張るぶどうの木は、雄勝に降り注ぐ太陽の光を浴びて、美味しい実をたわわに実らせるのだ。

この畑で育てられたぶどうは、すべてワインとジュースの原料。ワインの製造が始まるのは2029年、販売開始は2030年の予定だという。
油井代表は「ぶどうに付着した自然酵母の力だけで発酵させる、環境と体にやさしいナチュラルワイン」を目指す。もちろん、子どもたちが楽しめるジュースも、無添加で滋味豊かなものになる。

2024年4月に始まる、1,300本の苗木の植樹には、たくさんの人が集まる予定だ。
ぶどう畑の趣旨に賛同した農園主、雄勝で暮らす子どもたちと大人たち、MORIUMIUSからゆかりができた方々。皆さんで一本一本、大切な苗木を植えていく。

モリウミアスファームは今後、ぶどうの収穫やワインのボトリングなど、様々な工程をすべて人の手で作り上げようとしている。
ぶどうの成長とともに、より多くの人々が雄勝に集まるのだ。

津波被害を受けた旧雄勝中学校跡地に灯った、未来を拓く光。
それはぶどうを豊かに実らせ、人々の絆を深く熟成させながら、雄勝を真の復興へと導いていくのだろう。

MORIUMIUS FARM

住所:〒986-1333 宮城県石巻市雄勝町雄勝寺4-3
電話番号:0225-25-6506

公式ストア「MORIUMIUS at home」

公式ストア「MORIUMIUS at home」では、ぶどうの皮に付着した野生酵母のみで発酵させたワインを販売しています。

画像提供: MORIUMIUS FARM

山形の契約農家が栽培したぶどうを、収穫当日に宮城県川崎町のワイナリー「Fattoria AL FIORE(アルフィオーレ)」に運び、醸造しました。体にやさしいナチュラルワインです。
※今回の記事でご紹介した、ぶどう畑のワインとジュースも「MORIUMIUS at home」で販売されます。

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この記事を書いた人

さわきゆり

福島県いわき市でうさぎ1匹と暮らすフリーライターです。 250ccの小さなバイクで走り回ることが大好き。 いわき・福島の魅力をどんどん発信していきますね! いわきには市の魚・目光に由来する「めひかり塩チョコ」があります。 さて、どんなお菓子でしょう? 検索してみてくださいませ。

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