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もの・こと  |    2024.07.02

『阿波尾鶏』を生み出す貞光食糧工業株式会社:品質と美味しさへの挑戦 |徳島県美馬郡つるぎ町

徳島県三好郡つるぎ町は徳島県の西部に位置し、山間地域の急峻な傾斜地でそのまま農耕を行ってきた生活や文化、行事が「傾斜地農耕システム」として、2018年(平成30年)に世界食糧農業機関(FAO)に「世界農業遺産」として認定された「にし阿波地域」の1つです。

今回は、そんなつるぎ町で生産量日本1を誇る地鶏ブランド「阿波尾鶏」を生産・加工している貞光食糧工業株式会社をご紹介します!

自然と共に育つ阿波尾鶏

徳島県で古くから飼育していた軍鶏の雄と、白色プリマスロックという肉用鶏種の雌との交配種です。

自然に囲まれた環境での平飼いで、かつ1㎡あたり10羽以下のストレスの少ない環境で育てられます。天然素材が原料である地養素配合飼料とオリーブ粕を与える事で健康な体になり、鶏肉特有の臭みを消しています。
また、ブロイラーは45~50日の飼育日数ですが、貞光食糧工業では80日以上飼育。

肉質の特徴は、高たんぱく・低脂肪で適度な歯ごたえがあり、貞光食糧工業独自の熟成効果でジューシーさと旨みがアップしているんですよ!
旨み成分のグルタミン酸、疲労回復などの作用を持つアスパラギン酸が他の鶏種に比べて多いのも特徴です。
お勧めの食べ方はステーキ、鍋やすき焼きなどで、お肉本来の味を味わう食べ方ですね。

美味しさの徹底追及!貞光食糧工業独自の冷却法と熟成法

貞光食糧工業の阿波尾鶏は、「熟成」が大きな特徴となっています。

鶏肉は精肉として加工される過程で、殺菌や冷却の為に水に浸けられます。
冷水に約1時間ほど浸ける水冷式を導入している工場が一般的ですが、貞光食糧工業では水に浸かり過ぎて鶏肉の旨みが出てしまわないように水冷の時間を短く(約30分)、その後エアチラーという空気冷却方法(約30分)を導入する事で、旨みを逃がさず、ドリップを減らして臭みが少なく日持ちが良い鶏肉を実現しています。

更に、特許を取得している貞光食糧工業オリジナルの「熟成庫」!
低温の熟成庫で時間をかけて(15時間以上)丸鶏のまま熟成させることで、鶏肉の柔らかさとジューシー度がアップします。

品質管理も徹底されており、FSSC22000という国際規格の品質管理認定と、徳島県版HACCPを取得し高い衛生管理のもと、食品を提供しています。

阿波尾鶏の成功物語:社長が語る開発秘話

代表取締役社長である辻 貴博氏にお話を伺いました。

「前社長の頃、昭和40年~50年にかけてブロイラーの飼育が盛んになり、徳島県は3位でした。
宮崎県・鹿児島県・岩手県が一大産地となり、徳島県は平地が少ないので小規模にならざるを得ませんでした。
大産地にならないのなら、コスト競争に巻き込まれないものを作りたいという考えがあったんです。

既に地鶏といえば「名古屋コーチン」「比内地鶏」「薩摩地鶏」の三大地鶏が有名です。後発として埋もれてしまわないように『適度な歯応えと程よい赤み』『ブロイラーよりは高いけれど、他の地鶏よりはお求めやすい価格』『家庭で調理しやすく食べやすい鶏肉』を目指しました。試行錯誤の末、地鶏(軍鶏)とブロイラーのかけ合わせで、価格と美味しさの両方を実現する事ができました」と、開発の経緯を語ってくれました。

貞光食糧工業の歴史と地域との関わり

「弊社は、元々は町のお米屋さんが麦を精麦するために合同で出資した会社がはじまりです。
麦を精米に交換し、ぬかは牛の餌になる。昔から農家との取引があったんです」

だから、社名が『食糧』なのですね!

「にし阿波地域では葉たばこの在来種である阿波葉で刻み煙草が生産されていましたが、煙草が専売制になり、つるぎ町というか貞光では煙草から養鶏に転換した農家が多かったようです」

筆者が暮らす三好市では、煙草の専売制の折には酒造業を始める所が多かったそうで、吉野川の上流と中流との違いが表れています。

ヨーロッパ視察から生まれたエアチラー:前社長の先見性と新技術導入

「1990年(平成2年)頃、ヨーロッパでもエアチラーが始まりだした事もあり、前社長が見学に行ったそうです。新しい物好きだったのかもしれません。
エアチラーを導入した鶏肉は、肉質も良くなるし品質も良いので利益が上がるのでは?と思ったのでしょう。

熟成室を導入した理由は、むね肉が硬くて食べにくいという声があり、熟成させる方法を業界内で考案した事からです。
精肉にする過程で硬くなる現象はむね肉で顕著に現れるので、死後硬直を解かせる事で柔らかくなりました。

弊社は『コープこうべ』に鶏肉を昭和50年頃から提供しております。
リニューアル開発の際、長期飼育はコストがかかるので難しいと頭を悩ませましたが、熟成でむね肉が柔らかいと好評になり、もも肉も熟成で更に美味しくなったと現在でも人気の商品なんですよ」

最後に「我々は地元に根差した企業として、『社員と農家と地元のために貢献する姿勢を大切にし、お客様に美味しい鶏肉を提供すること』がモットーです。
SCR活動も積極的に取り組んでおり、学校給食に阿波尾鶏を提供するなど、地元と弊社を繋げ地域に欠かせない企業となるよう努めています」と締めくくってくれました。

大人の工場見学!熟成阿波尾鶏ができるまで

百聞は一見にしかずという事で、中四国1の規模を誇る食品工場を見学させていただきました。
※取材という事で特別に許可を頂いています。

食品工場用の白衣を着て、手をしっかりと洗って消毒し、長靴も消毒してから工場内へ。

製造本部 食肉加工部 部長代理である山田さんが説明しながら案内してくれました。
入ってすぐに掲示板があり、工場のラインで誰がどの工程を担当しているか分かるようになっています。
「最近はインドネシアからの技能実習生が多いです。学習意欲が高く阿波弁も覚えてきて、若い人が使わないような阿波弁で話しててびっくりしますが、微笑ましいですね」と話してくれました。

工場内は思ったよりもひんやりとしていて、頭上の高い場所にも鶏肉を運ぶためのベルトがあり、大きな工場でも空間を有効に使っているのが分かります。

エアチラー

山田さんの「鶏肉を50~60℃のお湯に浸け、脱毛し中抜き(内臓を取る)をしてから臓器検品をし、殺菌処理を兼ねて冷やします。
空冷(エアチラー)で30分かけて鶏肉の中心温度を15℃以下に冷やします。今日の設定温度は-5℃ですよ」
という説明を聞いていても、実際に入ると想像以上に寒かったです!真冬の温度です!

「空気で冷やす事で余計な水分を出すんです。ドリップしないように」との言葉通り、鶏肉から出た水分が足の先で氷柱のようになっていました。

熟成室

続いて、熟成室の中も見学させていただきました。
「0℃~2℃の低温で15時間以上かけて熟成させる事で、死後硬直が解けて柔らかくなります」
中は2段になっており、4千羽の鶏肉を熟成させる事ができるそうです。
「フルに使えば5千羽ですが、2部屋で大体8千羽を熟成しています」

ライン

ベルトが動いて移動する先は、処理工程のラインです。
機械を通る過程で、部位を落としていきます。上半身と下半身、手羽元やささみなどですね。
むね肉や手羽元は、この時点で売られている形に近かったです。
「機械で1時間に5,400羽処理できます。1日で38,000~39,000羽ですね」

鶏種で大きさが異なるので、鶏肉の足を掛けている留め具の色で種類を分けているそうです。

下半身となった鶏肉から腰骨を取り除くと、クリスマス用のチキンレッグの形になります。
「昔は人が筋を入れて切っていましたが、今は機械です」

検品の工程では、センサーXという鶏肉の小骨を検出する専用の機械を使って、むね肉の残骨のチェックをしています。
この機械のお陰で、約3mmの骨も見つける事ができるそうです!
「X線を通過したときに骨が残っていると反応するので、排除します。今までは残っていたような骨も分かります。やっぱり人の目視だけでは難しいですね」

ポーションカッターという切り身を作る機械では、最近コンビニなどでもよく見かけるサラダチキンとなる鶏肉も扱っており、設定重量に合わせてカットできるため需要が伸びています。
平行スライサーは厚みを均等にする機械で、ささみを開く事は1日で700kgできるそうです。
厚みと重量を合わせるのは機械の得意とする所ですね。
この工程で、2回目のX線を通過します。
「昔は包丁がないと仕事が出来ませんでしたが、今は機械の導入で包丁がない仕事の方が多いですね」と山田さん。

山田さんは「ヨーロッパでは鶏肉はむね肉の消費が多いんですが、日本はもも肉が多いですね」と教えてくれました。
実際、食卓に上がるのももも肉の方が多いというご家庭が多いのではないでしょうか。

かごのようなものがたくさんついた機械に鶏肉が入れられ、決められた重量になるとパック詰めされて製品としてラインを流れていき、段ボールに詰められて出荷を待ちます。

熟成阿波尾鶏ができる工程、いかがだったでしょうか?
実際に食べてみたい!どこで食べられるの?とお思いの方に朗報です!
次回は熟成阿波尾鶏を使ったメニューを提供しているレストランを併設している道の駅「貞光ゆうゆう館」にお邪魔して、熟成阿波尾鶏を実際に食べてみます。お楽しみに!

貞光食糧工業株式会社

〒779-4104 徳島県美馬郡つるぎ町貞光小山北168-2
TEL:0883-63-5511
FAX:0883-63-5505
公式ホームページ【HP

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この記事を書いた人

犬山 涼

名前:犬山 涼 (犬が書いてます) 四国のへそ在住ライター。探究心のままに幅広いジャンルで執筆、四国の「知る人ぞ知る」ならお任せあれ! まだまだ知られていない「人・事・物」をお届けします。 珈琲豆の自家焙煎・販売も行っています。ご購入は各種SNSまで。     ↓「記事一覧」を押していただくと、各種SNSのリンクあります♪ ↓

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