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もの・こと  |    2024.07.06

東京23区で農業!?希少な葛飾野菜を生産する田中農園を訪問

農業と聞くと、雄大な自然に包まれた土地で営まれているイメージがありますよね?でも実は、建物がひしめく東京23区内でも、たくさんの農家さんたちが真剣に農業に向き合っています。今回話を聞いたのは、葛飾区内で約100年にわたって農業を営んでいる田中農園5代目・田中重孝さん。どのような野菜が収穫できるのか、葛飾区で農業を営む魅力など、気になることを全部インタビューしました。

少量多品種で勝負!

住宅街の真ん中にある田中農園。季節ごとにさまざまな野菜が栽培されています

夏はトマト、キュウリ、ナス、ピーマン、トウモロコシ、エダマメ、冬はタマネギ、ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、ジャガイモなどを育てている田中農園。さまざまな野菜を育てていることに驚いたのは、筆者だけではないでしょう。

「土地が広い地域では1、2種類に専念して大量に生産するのが主流ですが、土地が狭い東京では戦略的に少量多品種を育てている人が多いですね」(田中さん、以下同)

収穫された野菜は主に区内のJA直売所や、農園の庭先で販売されるのが一般的。確かに、区内のスーパーでは、ほとんど見かけたことがありません。

「大手スーパーの場合、どうしても品ぞろえが必要なので、大量生産が難しい東京の農家の野菜はあまり並ばないんです」

そういった背景から、東京23区内の農業が、あまり知られていないのかもしれません。

農園をコミュニケーションの場に

ビニールハウス内ではトマト、キュウリ、トウモロコシなどを栽培しています

今ではしっかりと向き合っている田中さんですが、以前は農業にネガティブな印象を抱いていました。

「高校生の時に父を亡くし、祖父も高齢であったことから、大学卒業後は家業を継ぐことが決まっていました。そのことを同級生に話したら、笑いものにされたことがあったので、継ぐのには全く前向きじゃなかったですね」

ところが、農業に従事してしばらくしたころ、田中さんのご祖父様の病気が発覚。それを機に田中さんは真剣に向き合うようになりました。

そこから農業を学びなおし、今では先代から引き継いだ土地と知恵を守りつつ、新たな試みも取り入れています。その1つが東京都エコ農作物の栽培です。化学合成農薬と化学肥料を削減して栽培された野菜で、東京都産業労働局の制度の認証を受けています。

「差別化を図りづらい東京野菜の中で付加価値を加えたいという狙いと、あとは単にうちの野菜を手に取ってくれる近隣の人に、少しでも健康に配慮したものを食べてもらいたいという思いがあります」

そんな田中農園では、他ではあまりない大きな特徴があります。それは近隣の人とのコミュニケーションを積極的に図っていることです。

「野菜を提供するように、場所も提供したいと考えています。うちの農園は、近隣の方々との距離が近くて、コミュニティのような役割を果たしていると思います。

今日も庭先で野菜を販売していたら、小さなお子さんを連れたお母さんや、年配の方々などが買いに来て、ずっとおしゃべりを楽しんでいました。むしろそっちが目的で来たのかと思うくらいです(笑)あとは、幼稚園や高齢者施設、近隣の方々に収穫体験も提供しています。コミュニケーションを取ることの大切さを感じているので、うちの農園がこれからも近隣の人にとってのコミュニティであってほしいと願っています」

今後、自宅販売所のリノベーションを予定しているということで、コミュニティプレイスとして、より魅力的な場所になることへの期待が膨らみます。

若い力が輝く一方で課題も

新宿(にいじゅく)ネギの苗。田中さんはこの品種の数少ない生産者でもあります

23区内では葛飾区の他に、江戸川区、足立区、練馬区など10区にも農地があります。他の区と葛飾区の農業の取り組みにどのような違いがあるのかも気になりますね。

「葛飾区では代替わりが進んでいて、若手が多いことが特徴です。JA東京スマイルの傘下にある葛飾営農研究会のメンバーは、今年の天候や、農業資材の情報交換だけでなく、日常のことも友達感覚で話せるほど仲がいいんです」

その仲の良さは、他の区の組織の人たちが驚くほど。横だけでなく、縦の関係も良いそうで、「上の世代の人がフランクに接してくれるのでありがたい」と感謝を口にします。

若い農業従事者が頑張ってくれているおかげで、今後も葛飾野菜が食卓を彩ってくれそうです。一方で、課題もあります。

「フードロスです。これは葛飾区の農業従事者全体の課題で、せっかく作っても売れ残ってしまうものも多い。特に冬場はその傾向が顕著です」

植える作物を、収穫後でも日持ちのするものに切り替えたり、収穫体験を増やしたりするなどの工夫で出荷を調整していますが、それでもまだ余ってしまいます。貴重な葛飾野菜を継続して作るためには、同様に継続して売る方法の確立も必要。田中農園では、セカンドマーケットの開拓を真剣に検討中です。

若手や新規就農者に期待!

最後に、田中さんに今後の意気込みを聞きました。

「農業にはネガティブなイメージが付きまとっていましたが、最近ではその空気が変わってきたように感じています。若い人が前向きに取り組んだり、他業種からの新規就農者が盛り上げてくれたりするのがうれしいですね。今は、就農の環境も整っているので、若い人にもっと農業に従事してもらえたらと思っています。

あとは、昨年が酷暑で収穫に大きな影響があったので、今年は自然災害に見舞われることなく育ってほしいのと、収穫した作物を残すことなく消費者に届けたいですね」

そう笑顔で気持ちよく答えてくれた田中さん。今年の夏も暑さに負けず、おいしい野菜を作ってくれると期待しています!

関連リンク

JA東京スマイル 葛飾元気野菜直売所:https://life.ja-group.jp/farm/market/detail?id=1434

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この記事を書いた人

増田 洋子

東京都在住。インタビューが好きなフリーランスのライターで、紙媒体とWebメディアで執筆中。ネズミを中心とした動物が好きで、ペット関連の記事を書くことも。

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