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もの・こと  |    2024.07.10

『まいばら 本と人をつなぎ隊』のアートサロン活動で笑顔をお届け

「わぁ~、素敵~!」

滋賀県米原市にある通所介護施設『ファミールケア米原センター』内に、大きな歓声とともに笑顔の輪が広がりました。米原市との協働事業の一環『アートサロン』での1シーンです。

『まいばら 本と人をつなぎ隊(以下、本と人をつなぎ隊)』では、介護施設などに図書館の書籍を貸し出す活動をしています。最初はただ書籍を届けるだけの活動でしたが、あるときから『アートサロン』の活動をはじめました。

今回は『アートサロン』の活動を行っている『本と人をつなぎ隊』代表の久保田吉則さんに、『アートサロン』を始めたきっかけや詳しい活動内容を伺いました。

『本と人をつなぎ隊』と『アートサロン』のきっかけ

北村さんのペーパークイリング作品(前列)と久保田さんの水彩画作品(後列)

米原市立図書館の協議会会長を務める久保田さん。協議会とは別に『本と人をつなぎ隊』のボランティア活動を開始します。さらに、『本と人をつなぎ隊』の活動の中で『アートサロン』も開始しました。

それぞれにどのようなきっかけがあったのでしょうか。

『本と人をつなぎ隊』ができたきっかけ

『社会福祉法人ひだまり(Npo法人ひだまり)』にて(画像出典:Facebook)

現在、米原市にある図書館は「山東図書館」と「近江図書館」の2つの施設です。しかし、米原市は旧坂田郡の4町が合併したため面積が広く、移動手段の限られた人たちにとっては手軽に利用できる施設ではありません。

とくに車や自転車に乗らないお年寄りにとっては、本を借りることが困難でした。

図書館には団体貸し出しというサービスがあります。以前は介護施設のスタッフが図書館に来館し、30冊程度の書籍を持ち帰っていました。

大きな変化が訪れたのは、新型コロナ感染症の流行です。

コロナ禍で施設のスタッフは忙しくなり、図書館に来館する時間が取れませんでした。そのため、ボランティア団体『本と人をつなぎ隊』を立ち上げ、書籍を届けるようになったという経緯です。

『アートサロン』活動のきっかけ

『デイサービスセンターいそ』でのアートサロン開催の様子(画像出典:Facebook)

久保田さんは、施設から寄せられる本のリクエストを見て、塗り絵や折り紙といったアート関係の書籍を希望する声が多いことに気がついたといいます。

「本を持っていくときに、私も絵を描くのが好きなんですよって話したら、見せてほしいという人が多くてびっくりしました。皆さん、絵が好きなようです」

アートサロン開催のきっかけは、介護施設の関係者からの提案でした。以前は介護施設からバスツアーのような形で米原市の芸術展や隣市の芸術展などに行っていたそうです。しかし、近年は色々な問題があって開催できなくなったとのこと。

「ちょうど個展を開催していたタイミングだったので、『それならうちの施設に作品を持参して見せてくれないか』と言われたのがきっかけでした」

本の貸し出しサービスでボランティアとして本を運ぶ際、「ただ本を持っていくだけでは面白くない」と考えていた久保田さんにとっては絶好のタイミングだったようです。

『本と人をつなぎ隊』の活動内容

現役アナウンサー西堀靖子さんによる滑舌トレーニングの様子(画像出典:Facebook)

『本と人をつなぎ隊』では、これまで以下のような活動を行ってきました。

  • 本の読み聞かせ
  • アナウンサーによる滑舌トレーニング
  • 武将の衣装で自作の紙芝居を披露
  • オカリナの演奏会
  • 水彩画やクラフト作品の展示・鑑賞会

武将の衣装をまとった西村浩昌さんは、彦根市のゆるキャラ『ひこにゃん』と井伊直弼にまつわる逸話の紙芝居を披露。参加者は自作の紙芝居に見入っていました。

自作の紙芝居を披露するボランティアの西村浩昌さん(画像出典:Facebook)

取材に伺った日は、代表の久保田さんと婚礼司会者を営む北村吏絵さんがペアとなっての活動でした。

「今回は北村さんが趣味でペーパークイリングをしていると聞き、ゲストとしてお願いしました」

北村さんは『本と人をつなぎ隊』のメンバーではなく、久保田さんの個展で知り合った方。たまたま趣味でペーパークイリングに取り組んでいると知り、依頼したとのこと。

訪問先は、米原市内の通所介護施設『ファミールケア米原センター』です。久保田さんの水彩画作品と北村さんのペーパークイリング作品を展示し、アートサロンが始まりました。

久保田さんの作品は、地元の風景画です。『アートサロン』では絵画の鑑賞を通じて、昔を懐かしんでもらえます。アート作品の鑑賞は、介護を必要とする人に良い影響を与えることが研究発表されているそうです。

久保田さんと北村さんの作品を興味深く鑑賞する参加者とスタッフの皆さん

北村さんのアートサロンへの参加は今回が初めてでした。

「ペーパークイリング?」

北村さんを除き、その場に居合わせた人全員がその言葉すらも聞いたことがありません。参加者の多くは、鳩が豆鉄砲を食ったような驚きの表情を見せていました。

ペーパークイリングは、細く切った色画用紙を丸めて台紙に貼り付けたり、ほかの要素と組み合わせたりして作るアート作品です。参加者は初めて見るペーパークイリングの作品を食い入るように見て、感心している様子でした。

「今日は皆さんに、ペーパークイリングに挑戦していただきます」

北村さんの言葉を聞き、参加者だけでなく施設のスタッフも不安と期待を抱いたに違いありません。その不安を裏切るかのように、北村さんの説明はわかりやすく、参加者はそれぞれ楽しそうに作業をしていました。

「普段はやや消極的な男性の人も、いつもより積極的に取り組んでいました。北村さんに褒めてもらってニコニコでした」と、施設のスタッフは言います。

参加者が取り組んだのは、薔薇の花の制作でした。正方形の小さな色画用紙をハサミで細く切り、丸めてセロテープで止めるだけの簡単なものです。

薔薇の花のペーパークイリングに挑戦する男性

出来上がった薔薇の花を見て、参加者や施設のスタッフも満足気。笑顔が咲き乱れ、施設内にはカメラのシャッター音が鳴り続けます。

アートサロンは約1時間。通所者だけでなく、スタッフからも笑みがこぼれていました。

『アートサロン』は他市からも依頼されるほどの人気

アートサロンを終え記念撮影(画像出典:Facebook)

現在、米原市内には介護施設が49か所あり、そのうちの15か所でアートサロンを開催しているとのこと。残りの34か所でも開催したい思いはあれど、ボランティアが足りない状況だと久保田さんは吐露します。

新聞やラジオなどのさまざまなメディアで取り上げられたり、米原市協働事業の審査のためのプレゼンをしたりして、認知度が高くなってきました。最近では、米原市以外の施設からも声がかかるほどです。協働事業の審査員からは、全国展開を望む声も。

「アートサロンの取り組みを評価していただけるのは嬉しいと思っています。『ぜひ、うちの市でもやってもらえませんか?』と言われることがあるのですが、米原市内ですら回り切れていない状況なので、どう考えても無理ですよね」

現在は『本と人をつなぎ隊』のメンバーが6人。アートサロンを手伝ってくれるボランティアを含めると10人程度での活動です。アートサロンは多い月で3回ほど開催していますが、現状のままでこれ以上の活動はできません。

今回の北村さんのように思いがけない出会いもあるので、積極的に新たな人材を発掘していきたいと久保田さんは言います。今後、ボランティアメンバーの充実に期待が持てるでしょう。

オカリナの演奏に合わせて『琵琶湖周航の歌』を唄う参加者(画像出典:Facebook)

「今活躍してもらっているボランティアの中には、私のように『本を届けるだけでは面白くない』と言って趣味のオカリナ演奏をやり始めた方も出てきました。大変喜ばしく思いますし、それぞれに自立して生き甲斐としていってほしいです」

久保田さんは、今後このボランティア活動がどのように発展していくか楽しみだと語ってくれました。

『まいばら 本と人をつなぎ隊』に関する問い合わせはFacebookまでお願いします。

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この記事を書いた人

のがわ

滋賀県担当のアラフィフライター「のがわ」です。地元の滋賀県や隣県の福井県に関する情報をお届けします。趣味の剣道は練士七段ですが、試合は中学生にも負けるレベルです。色々な地域に出稽古に行き、出会った方々の物語や観光情報などを記事にします。

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