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もの・こと  |    2024.07.12

14万冊販売。目に優しい『mahora(まほら)ノート』誕生の背景に迫る|大栗紙工株式会社【前編】

大阪市生野区巽北に拠点を置く大栗紙工株式会社。創業90年以上の歴史を持ち、60年近く業界大手企業の協力会社(OEM)として年間約1800万冊のノートを製造しています。代々受け継がれてきた「書く」文化への想いは、今も変わることはありません。

2020年、同社は新たな挑戦としてオリジナルブランド「OGUNO」を立ち上げました。このブランドの中で注目を集めているのが、発達障がい当事者100人の声を反映させた「mahora(まほら)」ノートです。このノートは現在までに約14万冊販売しています。

前編では、3代目の妻で取締役の大栗佳代子さんに、伝統を守りながら新しい紙製品を生み出した背景をお伺いしました。

※mahoraノートシリーズの広がりとOGUNOのこれからについては、後編をご覧ください。

引き継がれる伝統。ノートづくりの技術

大栗紙工株式会社の歴史は昭和5年にさかのぼります。94年の歴史を誇る同社は、帳簿と紙製品の製造からスタートしました。昭和43年からは「無線とじノート」の製造を開始。見開きやすさと耐久性を兼ね備えた確かな製本技術、さらに罫線の印刷ムラを防ぐ独自の印刷技術により、高品質なノート製品を生み出し続けています。

製品になる前のノート用紙は、大きな包装紙に包まれてロール状に保管。紙をのばすと9千メートルにもなるそうで、1本から4千6百冊のB5ノートができます。
一つひとつの工程ごとに職人が丁寧に手作業でチェック。
背表紙に適量の糊を均一に接着する工程。品質管理も徹底しています。

同社は、業界大手企業の協力会社(OEM)として、現在年間1800万冊のノートを製造しています。卓越した品質は業界だけでなく、地域の中小企業としても高く評価されており、「おおさかものづくり優良企業賞」を受賞。長年の実績が同社の技術力の高さを物語っています。

発達障がい当事者の声から誕生した『mahora(まほら)ノート』

大栗紙工株式会社が新たに開発した『mahora(まほら)ノート』は、従来のノートとは一線を画す特徴を持っています。

発達障がいを持つ方々の声に真摯に耳を傾け、その声に応えて生まれたこの製品は、どのように開発されたのでしょうか。

レモン・ラベンダー・ミントの3色。中は表紙と同じ罫線と網掛けのシンプルなデザインが特徴です。

この革新的なノート誕生の背景には、大栗さんの強い想いがありました。

これまで90年以上、紙製品の製造を続けてきた大栗紙工株式会社。世の中にデジタル製品が増え始め、紙離れが起こることに危機感を抱き、新たな取り組みを始めました。

「参加したプレスリリースのセミナーで、講師から発達障がいの自助グループを紹介していただいたのが、オリジナルブランドを立ち上げたきっかけでした」と話す大栗さん。

大学ノートの白い紙は、発達障がい、特に視覚過敏の方にとっては使いづらい。この事実を知り、大栗さんは衝撃を受けます。

「当事者の方々にとって使いやすいノートがなく、我慢して使われているのだと知って心が痛みました。使いやすいと思ってもらえるものを作りたいと考えました」

自助グループの協力を得て、当事者の意見を徹底的に分析。13色の色見本から、レモンとラベンダーカラーが視覚過敏の方に適していることが分かりました。

その他にもアンケートを見ていると「ノートの罫線がずっと並んでいるだけだと書いているところを見失ってしまうので工夫をしてほしい」との声が。罫線のデザインにもこだわり、太い線と細い線の交互配置や帯状の網掛け線など、特性に合わせた工夫を施しています。

mahora(まほら)ノートの「まほら」は、日本で生まれた固有の言葉(=やまと言葉)を語源にしており、「いごこちのいい場所」という意味が込められています。インクルーシブデザインの視点を取り入れて、のびのびと自由に使える。そんなノートが誕生したのです。

mahoraノート製造過程での課題

時間や金銭的なコストをかけてでもいい品質の商品を必要なところに届けたい 。そう願いながらも、mahoraノートの開発途上ではいくつもの壁にぶつかっていました。

「mahoraノートの製造を決めたとき、色紙の仕入れが一番難しかったですね」と話す大栗さん。

mahoraノートに使われる色紙は通常のノートの中紙に比べると10%ほど厚みがあります。

強い筆圧でもへこみにくい丈夫な材質である反面、ロール1本で3千冊というのは、通常の65%ほどの分量。

一番初めに作ったイエローとラベンダー色の中紙は、最小ロットの3千冊ずつにして、大量生産の需要があるかどうかも分からない中で製造をスタートしたそうです。

さらにmahoraノートの特徴のひとつでもある網掛け印刷には苦労しました。

「普段ノートを製造する速度で印刷すると濃淡のムラができてしまいます。何度もテストを繰り返して、通常の3分の1くらいに機械のスピードを落とすときれいに網掛けができるようになりました」

製造過程での試行錯誤の努力は徐々に身を結び、「こんなノートが欲しかった」「子どもが勉強を自分からするようになった」など大栗さんのもとに喜びの声が届くようになりました。

「『いいモノつくるやん!』と言われる企業であり続けます」佳代子さんの夫で、代表取締役社長の大栗康英氏と

mahoraノートの誕生は、単なる新製品の開発にとどまりません。それは、社会的な課題に向き合い、使う人の声に真摯に耳を傾けることから生まれた、新しいモノづくりの形を示しています。

しかし、これはまだ始まりにすぎません。mahoraノートは、どのように進化し、さらなる可能性を広げているのでしょうか。そして、大栗紙工株式会社のOGUNOブランドは、これからどのような挑戦を続けていくのでしょうか。

後半では、mahoraシリーズの広がりとOGUNOのこれからについてご紹介します。伝統的な技術と革新的なアイデアが融合する、新しい文具の世界にご期待ください。

▼ノートの購入はこちらから

まほらノート|OGUNO(オグノ)

大栗紙工株式会社

住所:大阪府大阪市生野区巽北3丁目15‐7

公式サイト:大栗紙工株式会社

ブランドサイト:OGUNO(オグノ)

X:https://x.com/oguno_notebook

Instagram:https://www.instagram.com/oguno.notebook/

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この記事を書いた人

澤 優歌

兵庫県神戸市在住の取材ライター|神戸市西区・北区・明石・加古川近郊地域の人・物・コトの価値魅力を中心にお届けします。趣味は映画鑑賞・ドライブ・阪神の応援。3人姉妹子育て中。

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