南アルプス・奥秩父・八ヶ岳などの壮大な自然に恵まれた山梨県の北部に位置する北杜市。
多くの人が素晴らしい景観に惹かれ訪れる一方で、訪問者が増えるほどに崩れ行く大自然の実態を目の当たりにし、「このままではいけない」と行動を起こした団体がありました。
その団体の名は「一般社団法人 北杜山守隊」。
南アルプスの崩れた登山道の保全活動の他、後世へ山を守り継ぐ仕組みづくりに励んでいます。
「世界で最も愛される山」を目指し、「人が来るほどに美しくなる山」をつくる活動と思いとは ⸺。
北杜山守隊の高橋 知砂さんにお話を伺いました。
大企業社員から北杜山守隊メンバーへ
高橋さんが北杜山守隊に所属したのは、2023年4月。
登山が好きな高橋さんは、いつか八ヶ岳の近くに移住したいという夢をもっていました。
ちょうど「移住」という第2の人生を考え始めた頃に北杜山守隊専任スタッフの募集を見つけ、団体の思いと活動に強く共感し、応募したといいます。
北杜山守隊への所属を機に、長年勤めた航空会社を退職。
神奈川県から山梨県北杜市へ移住し、現在北杜山守隊の事務局スタッフとして活躍されています。
登山家 花谷 泰広さん率いる「北杜山守隊」
北杜山守隊は高橋さんが所属する1年前の2022年4月に発足しました。
代表理事は登山家の花谷 泰広さんです。
花谷さんは、甲斐駒ヶ岳の七丈小屋の管理運営をされていますが、最初は山の魅力を伝え、多くの人が甲斐駒ヶ岳黒戸尾根へ訪れることを願っていました。
しかし、登山者が増えるにつれ、山が崩れていくさまを目の当たりにしたのです。
人が増えたことによる影響を顕著に感じ始めた矢先に、台風19号を機に山崩れは大きな被害に及び、危機感は確信に変わりました。
「山を守るために、何か始めなければならない」と立ち上がり、2021年に北杜市との包括連携協定を締結したTHE NORTH FACEの紹介で、山の保全活動をしている大雪山・山守隊代表の岡崎さんを講師として、北杜市で講演や整備イベントを実施しました。
この整備イベントに参加していた地元出身の若者が後に仲間とともに2名で花谷さんの元を訪ね、「一緒に活動をしたい」と申し出たことが北杜山守隊が誕生したきっかけです。
「みんなで守る、山の道」をビジョンに、誰かがやるのではなく、みんなで山を守る「共助」の仕組みを作るための活動を展開しています。
県外からの協力者と地域住民で守る南アルプス
登山道の保全を単なる「作業」ではなく、環境保全とツーリズムをかけあわせた「登山道保全ワークショップ」を自主事業の主軸としている北杜山守隊。
高橋さんは「当初のワークショップ参加者は、花谷さんのファンが多かったように思います。今では山や南アルプスが好きな人が増え、福島県や三重県など比較的遠方からの参加者も増えてきました」と話します。
登山家としての経歴や温かい人柄からファンが多い花谷さんも、北杜市出身ではなく、兵庫県から山梨県北杜市へ移住されました。
高橋さんは「外から来た人こそ北杜市の山々の魅力に気づき、利活用のアイディアや人を呼ぶ仕掛けを考え、実現させようとするパワーが強いのではないでしょうか」と語ります。
ワークショップに参加した後も、花谷さんの思いに共感し、会員となって毎月県外から北杜市へ訪問される方々がたくさんいらっしゃるそうです。
県外からの協力者はもちろん、地域の皆さんの協力体制も欠かせません。
そのために花谷さんは地域の人とのコミュニケーションもとても大切にされているそうです。
花谷さんの温かい人柄が、県内外の皆さんを繋げ、思いの輪を広げていきます。
北杜山守隊の思いを実現するための具体的な活動内容や今後の展望とは ⸺。
【後編】では北杜山守隊が目指す未来について、詳しくお届けします。