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もの・こと  |    2024.08.14

アイロン不要!こするだけで布に貼れる転写シール「irodo」はどうやって生まれた?

オリジナリティを求めるおしゃれな人からはもちろんのこと、手先が器用でない人や、デザインセンスに自信がない人からも支持されている「irodo」。こするだけで布に貼れるという手軽さが最大の特徴です。ところで、この画期的なシールは一体、どのように生まれたのでしょうか?開発・製造を行っている株式会社扶桑の代表取締役社長を務める富田成昭さんにインタビューしました。

まるで初めから印刷されていたような仕上がりに

多数のメディアでも取り上げられている注目度の高い製品です(画像提供:株式会社扶桑)

「irodo」は綿、麻、本革、化学・合成繊繊などの生地素材に貼ることができるシール。貼りたい絵柄を生地素材にあて、コインでこするだけで転写することができます。他社の従来品とは異なり、アイロンは不要。そのため、年齢を問わずにDIYを楽しめます。

実際に使って驚くのが、その薄さ。シールと生地素材にはほとんど段差がなく、まるで初めから印刷されているよう!だから、お店で買ったようなクオリティがあり、重ねてオリジナリティをさらに高めることもできるのですね。ちなみに、ポーチやスリッパなどの立体的な物に貼るときは、内側から硬いものをあててこするのがコツだそう。

自社デザイナーがデザインをする他、外部の人気イラストレーターに依頼をすることも

現在、販売されているデザインは自社デザインのものだけで200種類以上。ポップなパターンからかわいい動物、はたらく乗り物など幅広いバリエーションがあり、ずっと見ていられます。

簡単に貼れるということは、その分剥がれやすいイメージもあります。気になる耐久性はどうでしょう?

「シールが生地素材に密着しているので、シールに引っ掛かって剥がれるということは、ほぼありません。洗う時は洗濯ネットに入れれば長持ちします」(富田さん、以下同)

創業60周年を迎える老舗企業初の自社製品

「irodo」を製造している扶桑は、東京オリンピックがあった1964年に富田さんのご祖父様が創業。富田さんで3代目になる老舗企業です。石版印刷から始まり、徐々に事業をシール製造に移していきました。

シールの製造は、タック紙(片面に粘着剤が塗布されている紙)に印刷し、型を抜くのが一般的。ところが、扶桑では接着剤の配合を独自に行い、さまざまな紙と組み合わせています。長年培ってきたこの技術があるからこそ、お客様の多様なニーズに応えることができるのです。

誇れる技術はあったものの、富田さんが扶桑に入社した2017年頃の経営状況は芳しくありませんでした。「その時は自社製品がなく、下請けとしてOEMの製造と二次加工を行っていました。私の入社後、1年で黒字化しましたが、生き残るために必死でした」と、当時を振り返ります。

そんな苦しい時に知ったのが、東京ビジネスデザインアワードです。優れた技術を持つ中小企業と、課題解決力・提案力を持つデザイナーとの協働を目的としたコンペティションで、初めて参加した2017年に「irodo」の製品アイデアが生まれ、最優秀賞を受賞しました。

正式な開発と製造にあたり、アドバイスを求めてDIYや手芸用品を扱う店舗のバイヤーを訪問。生地素材になじむ厚みを追求するために、材料を何度も見直し、試作を重ねていきました。その回数はなんと50回にも及んだといいます。

「技術はともあれ、販売に関しては全く経験がありませんでした。業界の商習慣や聞き慣れない単語の数々に対応するのは骨が折れました」

そこで富田さんは、展示会に出展して小売店に向けて「irodo」をアピール。先に販売先を確保し、そこから問屋を紹介してもらうことで、扶桑の希望を通しやすい商流を作りました。

「OEMの製造は今後も続けますが、自社製品を持つようになった当社を見て、面白く思わない同業者もいたでしょう。でも、人目を気にしてこの機会を逃したら生き残れない。実際に初めて自社製品を作ってみて、自信も得られました」

こうして、2018年10月に発売を開始。「うまく市場に乗せられた」と、富田さんは手応えを感じています。

ユーザーから直接届く声に感じる喜び

「自社製品が生まれたことで、消費者の声が届くようになりました。ハンドメイドをしている方がイベントや展示会などで当社のブースを訪れて、デコレーションしたものを見せてくれるんです。それがとてもうれしいですよね」

富田さんはそう笑顔で語る一方で、

「継続して売るためのノウハウがまだ確立できていません。引き続きイベントに出店したり、ワークショップを開催したりすることで、認知度を高めつつ、リピートしてもらう必要性を感じています」

と、課題を挙げました。気になる今後の展開はいかがでしょう?

irodoのジャーナルステッカーの使用例。シールでありながら、手書きのような味わいを楽しめます

『「irodo」は、最初に開発した生地素材用(ファブリックステッカー)に続いて、紙に転写できるタイプのジャーナルステッカーも展開しています。今後はラインナップに金属、肌、ネイル用などを加えていく予定です。さらには、全ラインナップを一度に見られる場所と、ワークショップのような体験型のサービスを提供したいと考えています』

最後に「irodo」への思いを聞きました。

「当社で製造しているOEM品とは違い、『irodo』には製造者として当社の社名と住所が記載されています。自ら製品を開発することで、当社の技術や、葛飾区の事業をアピールすることにつながると信じています」

関連リンク

株式会社扶桑:https://kkfusou.co.jp/

irodo:https://irodo.tokyo/

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この記事を書いた人

増田 洋子

東京都在住。インタビューが好きなフリーランスのライターで、紙媒体とWebメディアで執筆中。ネズミを中心とした動物が好きで、ペット関連の記事を書くことも。

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