暦の上では秋ですが、まだまだ暑い日が続きますね。
今回は広島、特に広島市近辺から県西部で見られるお盆の時期の「盆灯籠」の話です。
盆灯籠って何?
盆灯籠は、その名の通りお盆の時期に墓所へ立てられる灯籠です。
人の背丈ぐらいの高さの竹の先が6本に割り広げられ、その骨格に色とりどりの三角形の紙が6面貼られています。
六角錐が逆さに付いた形をしており、その形から「朝顔灯籠」と言われることも。六角の先端には金の紙飾りや房飾りが付いています。
貼られた紙6面のうちの1面は上部しか糊付けされておらず、ひらひらしています。この窓は風雨を受け流し、灯籠が破れたり壊れたりすることを防ぐためといわれています。
どこにあるの?
7月も半ば頃になると広島市内の個人商店はもちろん、ホームセンターやスーパー、コンビニなど至るところで売られるようになります。大きさにもよりますが、価格は1本だいたい800~1200円前後。長さ30cm程度のミニ灯籠もあります。
色あざやかなお盆の風物詩
赤、青、黄色、緑……カラフルな色合いの盆灯籠が墓の周りに飾られた様子は、見慣れない県外の方には奇異に映るかもしれません。
ちなみに初盆の場合、貼られた紙の6面全てが白一色の灯籠を立てるのが通例となっています。映画『この世界の片隅に』でも、墓所に白い盆灯籠が立てられているシーンを観ることができます。
参考サイト:
スタッフルームだより|この世界の片隅に【映画】
https://konosekai.jp/category/staffroom/page/3
盆灯籠の歴史
広島県内、とくに県西部(安芸地方)は「安芸門徒(あきもんと)」と呼ばれる浄土真宗本願寺派の宗派の家が多い地域で、盆灯籠はその安芸門徒の習俗として広まりました。そのため、本願寺派(西本願寺)の紋である「下り藤(さがりふじ)」が付いています。
盆灯籠の由来は諸説あり、一説には江戸時代までさかのぼります。当時、広島城下に住んでいた貧しい紙売りの夫婦が亡くなった娘を悼み、その墓に供えるものを紙と竹で自作し灯籠として飾ったことが始まりとされています。
余談ですが、全国的なお盆の風物詩として語られることが多い精霊馬・精霊牛の風習は、安芸門徒の人間には馴染みがありません。なんでも浄土真宗は「亡くなった人はすぐ仏様になる」という教えのため、霊となったご先祖様を供養したりお迎えしたりする風習自体が基本的に無いのだとか(地域や家庭により異なる)。筆者の実家も宗派は浄土真宗でしたが、精霊馬や精霊牛の存在は漫画『美味しんぼ』で知りました。なので未だにそれを作ったことがありません。
最近の傾向
石で造られた灯籠と比べ竹と紙でできた盆灯籠は、当然燃えやすいです。灯籠なので本来はろうそくを中に立てますが、それが火災の原因になったりすることも。また、お盆が終わった後の片づけや掃除が大変だったり、資源の無駄遣いなどという理由で、近年は立てないという家や敬遠する寺院も多いそうです。代わりに「塔婆(とうば)」という木札を立てるところもあると聞きます。
ただやはり、地域に定着した馴染みのある習俗には違いなく。墓参りへ向かうであろう人が盆灯籠を抱えているのを、今年も何人か見かけました。
8月半ば、お盆の時期限定で見られるカラフルな盆灯籠。広島への帰省や旅行の際にぜひ観察してみては?
※掲載内容は2024年8月中旬時点のものです。
参考資料:
『広島民俗の研究』(神田三亀男 著、広島地域文化研究所 編 ; 広島地域文化研究所、府中町 ; 1989) p.300-309
『浄土真宗 仏事あれこれ小百科 本願寺派安芸教区』(安芸教区基幹運動推進委員会 編集・発行 ; 2000) p.53-54
『瀬戸内海事典』(北川建次 編 ; 南々社 ; 2007) p.253-254