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もの・こと  |    2024.11.21

100%町田産なたね油!昔の道具を使った搾油工程を見学

東京都町田市と聞いて、どのような街を連想しますか?都心へ通勤する人のベットタウン・学生の街・駅前が賑わっている街などをイメージする方が多いのではないでしょうか。確かに、町田市にはそのような一面があります。

一方、多摩丘陵の北部に位置する町田市は、里山の風景を残す街でもあります。今回は、自然豊かな町田市で、30年前から作り続けられている「なたね油」について紹介します。

なたね油しぼりの始まり

お話を聞いた七国山ふれあいの里組合副組合長の岩澤さん(左)・組合長の市川さん(右)

なたね油しぼりが始まったきっかけを教えてください

岩澤:もともと、この地域一帯が農家だったことが始まりです。七国山(ななくにやま)に広がる田畑を所有する農家が集まって、ふれあいの里組合という組織を立ち上げました。

市川:当時、町田市は七国山に「ぼたん園」の開園を計画していました。それに伴い、地域の農業や昔の農家の暮らしを多くの人に知ってもらう目的で「ふるさと農具館」の建設計画も立ち上がりました。市と連携して、地域の農家約20名で組合を結成し、運営を担うことになったんです。

岩澤:最初は景観作物として、綿花などさまざまな植物を試験的に栽培しました。試行錯誤の結果、現在は蕎麦と菜の花の二毛作に落ち着いています。秋には一面真っ白な蕎麦の花、春には菜の花畑が訪れる人の目を楽しませてくれますよ。景観作物の副産物として、蕎麦や菜の花から製品を作り販売することになったわけです。

昔ながらの製法を守って

ーなたね油しぼりの工程について、詳しく教えていただけますか。

市川:ふるさと農具館に併設された「体験実習館」で、なたね油をしぼります。原料の菜種は、七国山ふれあいの里組合で育てたものです。毎月1回、組合員がなたね油しぼりを実演し、来館者に自由に見学してもらっています。

※なたね油しぼり実演の日程は、町田市ホームページをご確認ください。

岩澤:油をしぼる設備は、町田市大蔵町(おおくらまち)にかつてあった油屋から譲り受けたものです。かなり古い機械ですが、今も現役です。

昔ながらの機会を使って、手作業でなたね油をしぼる工程を紹介します。

①炒る

菜種の周りの固い殻がはじけるように、1時間ほどじっくり炒ります。

②ローラーでつぶす

炒った菜種をローラーで粉状につぶします。

③蒸す

40分ほど蒸します。

④圧搾

200㎏の圧力をかけて、しぼります。

黄金に輝くなたね油が採れました。

⑤ビン詰め

しぼった油は、1ヶ月間ねかせて不純物が沈殿するのを待ちます。ビン詰めしているのは、1ヶ月前にしぼったものを60度で加熱(殺菌・冷えて固くなった油を柔らかくする目的)したものです。

ビン詰めしたなたね油は販売するまでさらに1ヶ月間、一定の温度で保管します。

油しぼりの担当者は、毎回4名。作業できる人は10名ほどいますが、4名1組でローテーションを組んでいるそうです。ベテランの方ばかりですから、ほとんど会話や打ち合わせをせずに流れるように作業が進行します。皆さん食品衛生責任者の資格を取得して、講習を定期的に受けているとのこと。作業中も衛生面に細心の注意を払っているのが伝わってきました。

油をしぼった後の菜種は、持ち帰って肥料にするそうです。捨てるところがない、素晴らしい循環ですね!

なたね油しぼりの実演で大変な点は「真夏の作業」とのこと。炒る・蒸すなどの工程があるため、真夏の室内はかなり高温になるのでしょうね。

蕎麦と菜の花の二毛作

一面に広がる蕎麦の花。2024年9月28日筆者撮影

ー年間の作業の流れを教えていただけますか?

岩澤:蕎麦は秋に収穫し、1月に製粉、4月には乾麺として販売します。蕎麦の収穫後に菜の花を育てているので、土地を休ませることはありません。

市川:蕎麦を収穫してからでは、菜の花の栽培が間に合いません。そのため、蕎麦を育てている一画で菜の花の苗を栽培します。蕎麦の収穫が終わったら、菜の花の苗を植え付けます。苗の植え付けは12月頃です。広大な畑に菜の花の苗を一本ずつ植える作業は、かなり労力が必要です。12月は寒さで土が固くなっていたり、雨や雪が降ったりしますからね。組合員が協力して行っても、一週間ほどかかります。

岩澤:菜の花の見頃は4月中旬〜5月上旬です。畑一面に菜の花が咲き誇りますよ。ぜひ多くの方に見ていただきたいです。菜種の収穫は6月下旬です。菜種は濡れるとすぐ発芽してしまうため、なたね油にできなくなってしまうのです。梅雨に入りますから、天候を見極めて収穫します。

ー土地を休ませずに二毛作で蕎麦と菜の花を育てていると知って驚きました。美しい景観を守るために、大変努力しているのですね。また、菜の花は種を直蒔きするのではなく、苗を育てて定植しているとは、予想外でした。一本ずつ手作業で植え付けるのは、非常に手間がかかるでしょう。

課題と展望

ふるさと農具館では、組合員の方が育てた野菜が販売されています

ーこれまでの歩みと、今後の課題についてお聞かせください。

市川:七国山ふれあいの里組合は1990年に発足し、1995年からなたね油しぼりと販売を始めました。

岩澤:現在、ほとんどの組合員が兼業農家です。本業を持ちながら農作業をしています。ふれあいの里組合としても、後継者不足は課題です。

市川:ふるさと農具館は、リピーターが少ないのが課題です。小学校の社会科見学などはありますが、もっと多くの人に知ってもらえるよう工夫していきたいです。

岩澤:昨年から「蕎麦の収穫体験」を始めました。一般の方に蕎麦の刈り取りなどを体験してもらい、とても好評でした。今後もこのような体験イベントを通して地域の人々と交流を深めていきたいですね。

市川:私たちの活動が、地域の活性化に少しでも貢献できればと思います。これからも昔ながらの製法でなたね油しぼりを続け、伝統を守っていきたいです。

まとめ

七国山で育てた菜の花をその場所で丁寧にしぼったなたね油。もちろん添加物は一切なしです。一本ずつ手作業でビン詰めされた油は、とても貴重なものだと実感しました。作業の大変さや後継者不足など、課題はありますが、この素晴らしい取り組みが続いていくことを願っています。

後日、購入したなたね油で野菜炒めを作りました。香りがよく、いつもの野菜炒めになんともいえない風味が加わりました。次は、塩となたね油をパンにつけて食べたいと考えています。

七国山ふれあいの里組合の皆さん、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。なたね油を購入したい方は、ふるさと農具館までお問い合わせください。ふるさと農具館電話:042-736-8380

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この記事を書いた人

wakka

神奈川県出身、東京都在住のライターです。生花店店長やベーカリーカフェで働いた経験があります。趣味はお散歩と読書。お散歩で見つけた地域の魅力を発信します。

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