たどり着いたのは、近江牛の牛舎が立ち並び、どこからともなく芳しい香りが漂う場所でした。屋外、屋内を問わず赤や青、白色のトラクターやコンバインが所狭しと並べられています。
ここは、滋賀県近江八幡市の株式会社Link(以下、Link)が運営する『農機具王 滋賀店』。
Link本社から車で約15分の場所にある『農機具王 滋賀店』では、中古農機具の買い取りと販売を行っています。持続可能な社会を目指し、SDGsへの取り組みも積極的に行っている、創業2008年の比較的新しい会社です。
近年ではSDGsへの取り組みや地域との連携が評価され、滋賀を代表する企業として『滋賀の企業100選』にも選ばれました。
今回はLink広報部の井上葉月さんに、Link設立のきっかけや『農機具王』の取り組みについて詳しく伺いました。
農機具とは無関係の業種から事業を開始
「元々は不用品回収から始まりました」
井上さんの言葉に耳を疑いました。今では『農機具王』として全国に30以上の店舗を抱えるLinkは農機具ではなく、テレビなどの不用品回収業者だったそうです。きっかけは、「不要になった農機具を買い取ってほしい」という連絡からでした。
「社内では、農機具なんて買い取っても売れるわけがないと思われていました。しかし、いざヤフオクに出品してみたところ、すぐに買い手が付いたので、そこから農機具も回収するようになったという経緯です」
その後、Linkでは不用品回収ではなく農機具にスポットをあてるようになります。
中古農機具は根強い人気
近年、中古農機具は人気があります。日本の中古農機具は、国内だけでなく、海外でも需要があるそうです。そこで、中古農機具の需要が高い理由を詳しく伺いました。
中古農機具の人気は新品の価格高騰と農家の二極化が主な要因
中古農機具の需要が高まっているのには、いくつかの要因があります。一つは、農機具の価格が高騰していることです。材料費高騰や円安の影響により、農機具の価格は以前よりもかなり高くなっています。
そしてもう一つの要因は、大規模農家と小規模農家の二極化が進んでいることです。最新の機種を購入できる農家は大きな規模であったり、収益性の高い農家だけになってきました。小規模の農家は大きな設備投資ができないため、必然的に中古農機具を検討することになります。
上記2つの要因により、国内における中古農機具の需要が高まっている状況です。
海外でも日本の農機具は人気
Linkでは、中古農機具の貿易事業にも力を入れています。貿易事業を展開しているのは、Linkのグループ会社『ワールドブリッジ株式会社』です。
自動車業界で日本車の人気が高いように、農機具業界においても『ヤンマー』『クボタ』『イセキ』などの農機具は海外で根強い人気となっています。
「日本の農機具は海外メーカーよりもクオリティが高く、使っていても故障が少ないのが人気の理由です。しかも、昔の日本の農機具はシンプルな構造であり、壊れても修理しやすい点も大きな強みとなっています」
井上さんは日本代表選手を送り出すかのような、どこか誇らしげな表情で語ってくれました。
滋賀県や近江八幡市との共同事業や農業者支援への取り組み
Linkでは『農機具王』を通じて地域と深くかかわっています。滋賀県との共同事業や近江八幡市との共同事業、小規模・中規模の農業者への支援などです。
滋賀県との共同事業で講習会を開催
Linkでは、滋賀県と共同で12月に講習会を開催することになりました。
「滋賀県庁の方と話す機会があり、女性の農家さん向けに講習会を開催することになりました。農機具のメンテナンスに関する講習会で、『農機具王』の整備士が講師を務めます」
女性の農家さんのなかには機械に詳しくなく、農機具のメンテナンスに苦手意識を持っている人が多いそうです。今回の講習会では、刈払機のメンテナンスなどを指導することになっています。
近江八幡市との共同事業でオーガニックへの取り組み
Linkでは、近江八幡市とも共同で取り組んでいる事業があります。近江八幡市は『オーガニックビレッジ宣言』をしている地域です。オーガニックビレッジ宣言は、生産から消費者までを地域一体となり、有機農業を推進する取り組みのこと。
「近江八幡市役所の方へ『何か協力できることはありませんか?』と問い合わせたところ、オーガニックへの取り組みに協力してほしいとの依頼がありました」
オーガニックは手間がかかるため、省力化しなければ採算が取れません。一方で、省力化のための農機具の保管や配送、メンテナンスが困難な状況です。そこでLinkでは、市が購入した農機具を『農機具王 滋賀店』で保管と配送、メンテナンス部分で協力しています。
アグリスイッチ事業で農家を支援
Linkでは地域の農家支援にも取り組んでいます。
「じつは、小規模や中規模の生産者様が正しく肥料を使えてなかったり、労働力の問題を抱えていたりして収量が上がらない問題があります。収量が上がらないということは収益も出ません」
農業はビジネスとして成立する可能性が高い分野ですが、実際は思うように収益が得られずに辞めてしまう人も多い状況です。アグリスイッチ事業では、農業生産者の収入を増やすコンサルタントの役割を担っています。
「収益が上がらなければ、せっかく農業に従事しているのに、農業が続けられない状況になります。そんな生産者さんを支えようと始まった事業が『アグリスイッチ』です」
アグリスイッチは、年間数百万円の収益増加を目標に取り組んでいます。また、農業者の支援だけでなく普及活動にも取り組んでいるとのこと。
100年先へ念い(おもい)を繋ぐ
Linkは農業関連の総合展示会『農業WEEK』に出展し、手ぬぐいを配布したそうです。手ぬぐいには「農業あるある」がフレームのようにデザインされていました。農業に携わっている方にとっては「あるある」と納得する内容ばかりかもしれませんが、実際に農業にかかわらないとわからないことも多いと井上さんは言います。
「滋賀県では県内の小学5年生全員が農業について学び、田植えから稲刈りまでを体験します。ですので、地域的にも農業とは切っても切れない関係です。事業を通じて地域や農家さんとかかわっていられるのは、とてもありがたいと思っています」
Linkの企業理念には「魅力のある人材となり、100年先の有志達へ念い(おもい)を繋ぐ」の一文がありました。個性豊かなLinkの社員は、魅力のある人財ばかりです。
井上さんは「本当に個性豊かな人ばかりです」と言います。Linkは、それぞれが農業にかかわりながら、自分らしく楽しく働ける職場です。取材を通じて、とても明るい職場であることが、よく伝わってきました。
Linkの念いは、さまざまな取り組みを通じて100年先まで繋がることでしょう。
企業情報
農機具王 滋賀店へのアクセスは下記の通りです。
〒521-1301 滋賀県近江八幡市安土町大中619-2
名神高速道路 竜王インターチェンジより車で約30分
- WebSite : 農機具王
- 営業時間:9:00~17:00
- 定休日 :火曜日