統計開始以来、歴代一位の平均気温となった2024年夏。高温障害が田畑を襲い、線状降水帯が記録的豪雨をもたらした。さらに、スーパー台風が列島の大動脈である新幹線をもストップさせた。日々の暮らしの中で誰もが地球温暖化の影響を体感した夏でもありました。
しかしながら、台風の大型化も促進させている海水温の上昇により、海の中で変化が生じていることを知っている人はまだまだ少ないのではないでしょうか。
ブルーカーボンUpdate meeting
三浦半島の海域で今、何が起きているのか。かけがえのない海を未来に繋いでいく為にわたしたちは何をしなければならないのか。地球温暖化という人類の課題をひとり一人が当事者として考える為のシンポジウムが2024年12月2日、ヴェルクよこすか(横須賀市)で開かれました。
神奈川県が横須賀市や三浦市などの三浦半島4市1町と連携して行っているブルーカーボン推進事業の一環として開催した「ブルーカーボンUpdate meeting」です。
磯焼けで砂漠化した海を救う
第1部は水産学博士の山木克則氏が登壇。葉山町にある葉山水域環境実験場(鹿島建設技術研究所)で上席研究員として沿岸生態系の保全に取り組んでいる氏による今、三浦半島の海域で何が起きているのかという話に集まった約60人が耳を傾けます。
相模湾及び東京湾では地球温暖化などの影響により、多様な海洋生物の住処であるとともに、二酸化炭素を吸収する藻場(海藻や海草が生い茂る海の森のこと)が著しく減少・消失する「磯焼け」が進行。以前あった藻場の約8割が消失しています。
こうした状況を改善すべく三浦半島の各地域でそれぞれの団体が試行錯誤しながら実施しているのが「藻場の再生」。砂漠化した陸地に苗木を植えて森を再生するように、砂漠化した海に海藻や海草の苗を植えることで海の森である藻場を復活させようという取り組みです。
藻場は多様な海洋生物の住処であると同時に「ブルーカーボン」と呼ばれる優れたCO2の吸収源。その炭素固定量は熱帯雨林の10倍とも言われています。
山木氏が藻場の再生に取り組む葉山では、地元の小学生たちが育てたアマモの苗を漁業者やダイバーが植え付ける地域一丸の活動により藻場を再生。2023年度には杉の木3500本分に相当する二酸化炭素49.7tの貯蔵を実現したそうです。
海の森を再生して地球の生命と未来を守る
第2部は参加者4〜6人が1組になってのグループワーク。講演を聞いて感じたことなどを自由闊達に意見交換。対話によってひとり一人ができることについて自分自身にフィードバックする有意義な時間となりました。
葉山町では一定の成功が見られている藻場の再生ですが、他の海域では食害や潮流の影響で苗が定着しないこと、人出や資金の面で課題が多いことなど、当初想定していた以上に難しい取り組みであるという声も聞かれます。
沿岸部を埋め立てたことで藻場が消失した地域などでは、砂を入れて造成することから始めている海域もあります。一度破壊された自然は一朝一夕では元に戻らないのです。
「藻場の再生」。それは底の見えない水中に小さな苗を一本ずつ植えることに象徴されるような地道な作業です。
それでも、地道に続けていくしかない。ひとり一人ができることを着実に。
海藻や海草が群生する藻場は、稚魚や稚貝を育む「海のゆりかご」と呼ばれています。藻場が回復すればそこを住処としていた生態系も復活する。漁獲量も戻る。食卓に魚や海藻が戻る。そして、二酸化炭素を吸収してくれる地球温暖化対策にもなる。
ブルーカーボンの推進はわたしたち人間も含めた多様な生命とその未来を守る活動でもあるのです。