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もの・こと  |    2025.08.06

石垣島の夏を告げるハーリー(海神祭)|沖縄・八重山諸島の神事紀行

真っ黒に日焼けした大きな海の男たちが、勝利の雄叫びを上げ、悔し涙を流すーー。石垣島の人々の中に息づいているのは、熱いハーリー魂だ。

毎年旧暦5月4日のことを沖縄ではユッカヌヒー(よっかの日)といい、この日に石垣島を含む八重山諸島各地でハーリーが行われる。ハーリーとは「爬龍船(はりゅうせん)」や「サバニ」と呼ばれる沖縄の伝統船舶を使ったレースのこと。海の神様にこれまでの海の安全や豊漁を感謝し、今年も安全な航海と豊漁をもたらしてくれるよう祈願する。「ハーリーが終わると梅雨が明ける」とも言われており、島に夏の始まりを告げる風物詩だ。

ハーリーを単なるレースだと思ってはいけない。そこにかけるシマンチュたちの情熱は、尋常ではない。その熱量にあてられ、興味本位でフラッと見に来た観光客でさえ、次第に前のめりになり、大きな声援が思わず出るほど、夢中になってしまう。そしてこう思うのだ。「次は自分が出場したい!」

一体ハーリーの何がそこまで人を駆り立てるのか。石垣島の中でも大きな規模で開催された「石垣市爬龍船(はりゅうせん)競漕大会」にて、その魅力を探ってきた。

「御願(うがん)ハーリー」|神様への祈りを捧げる

朝早くから多くの島民や観光客が集まる石垣漁港で、爬龍船が漁港に集結する「舟揃え(スネー)」や開会の挨拶が行われると、まず最初に行われたのが「御願(うがん)ハーリー」。片道400mのコースを3往復するレースで、神様へ豊漁や航海安全を祈願する。出場チームは地域ごとに、東一組・東二組・中二組(西・中 合同)の3組に分かれ、地元の漁師や漁業関係者が乗組員だ。

スタートの合図が鳴ると3つの舟が一斉にスタート!チーム全員で声を出し合い、それぞれが手に持つエーク(櫂)で力いっぱい漕いでいく。速い。あっという間に、舟が小さく見えるほど沖まで漕ぎだした!ターン地点で力を合わせてなるべく小さく旋回し、岸に戻ってくる。舟を正面から見る形になり、選手たちの真剣で熱の入った表情に引き込まれる。エークが海から出て水平に揃い、また水しぶきを上げて海に入っていく。3往復目にもなると、疲れが出たのか、エークを水平まで上げきれない選手もいる。一番速いチームがゴールだ!最後までエークの高さがきれいに揃っていたチームが速かった。選手の顔には安堵の表情が浮かび、岸にいた応援団からは大きな歓声が上がった。

これが、ハーリー!観客全員が海のかなたに向かっていく舟に目をこらし、こちらに向かってくる時には拍手や声援を送り、子どもたちも懸命に手を振る。選手も、応援団も、観客も、そこにいる全員が海を感じ、ハーリーを通じて会場に心地いい一体感が広がった。

団体ハーリー

中学校対抗ハーリー

本ハーリーと呼ばれるハーリーの伝統的な競技は「御願ハーリー」「転覆ハーリー」「上がりハーリー」の3種目だが、石垣市爬龍船競漕大会では一般チームも参加できる「団体ハーリー」があるのが特徴だ。地元の学校や企業、同窓生メンバーなどで10人のチームを組み、応募した団体の中から抽選で一般団体75チーム、一般団体の中でも壮年レース出場組として10チームが選ばれる。

岸には5艇のサバニがずらりと並び、選手たちが記念撮影をしてから乗り込んで、250mのコースを往復する。この日のために、各チームは体が筋肉痛でバキバキになるまで何日も練習を繰り返してきた。仕事終わりなどにみんなで集まり、エークの使い方や息の合わせ方を工夫する。当日までずっと応援してくれた家族は、今日は岸でパーランクー(太鼓)を鳴らして応援団だ。「父ちゃんがんばれー!」「もうちょっとー!」肩にギュッと力を入れて、最後まで水をかく姿が、とにかくかっこよかった。

「転覆ハーリー」|あえて転覆させるアクションにハラハラ!

転覆した舟を…
起こして…
乗り込む!

コースを2往復する間に合図があり、乗組員がわざと舟をひっくり返す。完全に転覆したところから、舟を起こして乗り込み、再びゴールに向かって漕ぐ。転覆してから起こす時間も含めたトータルのスピードを競うのが転覆ハーリーだ。

人が10人以上乗れる大きな舟が、転覆する。その姿を見慣れていない者にとっては、想像しているよりも衝撃的なレースだ。そして驚くのが、転覆した舟を起こし、水の中から全身を使って舟に乗り込む、その力強い姿。体制を整えたと思ったら、次の瞬間には舟が走り出している!抜群のチームワークに、感動してしまった。

マドンナハーリー

最終調整をするマドンナハーリー出場チーム

伝統的にサバニは女人禁制だが、「マドンナハーリー」では女性10名のチームで競い合う。40組のマドンナチームが出場した。女性だけのチームとは思えないほど、スピードは速い。彼女たちも、何日も前から練習を繰り返してきた。出番の前ギリギリまで岸で練習をするチームもあり、応援団からは子どもたちの声援やパーランクーの音頭が飛ぶ。こちらも大いに盛り上がった。

「上がりハーリー」|最速の舟が決定!

海人の中でも上手な選手が乗り込み、3往復のコースでとにかくスピードを競う「上がりハーリー」。本ハーリーの締めくくりとなる競技だ。走り出しから、もう速い!乗組員たちの、絶対に負けないという気持ちを感じる大きな背中が、どんどん小さくなっていく。観客も腹から大きな声を出して応援している。東一組と中・西合同組が接戦だ!先にゴールテープを切ったのは、安定感のある走りを見せた東一組。大会史上初の12分台という速さでのゴールとなった。

ハーリーは、海に根付いた暮らしをしている石垣島民にとっては昔から一大イベント。昔は勝った負けたで喧嘩になることもあったくらい、海人たちが情熱を注ぐ伝統行事だ。レースが終わった後も会場はハーリーの熱気に包まれ、関係者は打ち上げ会場の準備を始めており、今夜はこの熱が冷めそうにない。キッチンカーから漂う祭ならではのいい匂いに誘惑されながら、次は自分もハーリーに出て、あの熱気のど真ん中に入ってみたいと思うのだった。

ハーリーの日時や会場

【日時】

旧暦5月4日(カレンダー上の日程は毎年異なります)

【開催場所】

■石垣市爬龍船競漕大会

会場:石垣漁港(石垣島)

■白保ハーリー

会場:白保船着き場(石垣島)

■船越屋海神祭(フナクヤハーリー)

会場:船越漁港(石垣島)

■白浜海神祭

会場:白浜新桟橋(西表島)

■細崎(くばざき)海神祭

会場:細崎漁港(小浜島)

■与那国町海神祭爬龍船競漕大会

会場:久部良漁港(与那国島)

※開催日や会場は年によって変更となる場合があります。公式ホームページなどで情報をご確認ください。

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この記事を書いた人

藤原 志帆

国内外を旅しながら暮らすフリーライター。美味しい食べ物、お酒、スパイス・ハーブ、自然が好きで、五感を刺激し人の興味をそそる文章を書くのが得意。これまで暮らしてきた主な国や地域は、奄美大島、西表島、石垣島、大阪、チリ、スペイン、アメリカなど。旅では中南米6カ国28都市をバックパッカーとして周遊するなど、世界をわくわくして見つめるのが大好き。アフリカンダンサー、スパイスカレー屋さん、由布島水牛車乗務員としても活動。

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