昨年10月、奈良県橿原市に初のクラフトビール醸造所『ファーメンタリー(FARMENTRY)』がオープンしたことをご存じでしょうか?
周辺には、国の重要伝統的建物群保存地区である今井町や、神武天皇が即位したとされる橿原神宮があり、かつての日本のはじまりの地に誕生したクラフトビール醸造所が注目されています。自らもビールの原料となるホップの栽培をするなど、農業との結びつきを大切にしている醸造家の西崎さんに、橿原の地から生まれるクラフトビールへの想いをお聞きしました。
ファーム×エントリーの融合|ファーメンタリー
元々、農業が好きだった西崎さんは、日本酒やワインなどの醸造酒にはすべて農業が関わっており、自らも地元の農作物や酵母を使用した、ビール造りができたらという強い気持ちがあったという。
ファーメンタリーという屋号は、ファームとエントリーという2つの単語を掛け合わせた言葉で、ビールにもっと農産物が関われるような環境を作っていきたいという想いから「農業からの入り口」という意味も込めてつけられた造語だ。
ビールの製造は、どうしても工業製品として見られることが多い中、農業と密接に関わるビール造りを目指す西崎さんの言葉には、ファームとエントリーの融合が織りなす、クラフトビールの可能性を感じた。
ファーメンタリーにしかできないもの
大学卒業後、社会人を経て修行先のブルワリーである和歌山のボイジャーブルーイング(VOYAGER BREWING)で経験を積んだ西崎さん。
そこで出会った友人の奥田さんとは、クラフトビール醸造所の立ち上げからオープンに向けて二人三脚で準備をしてきたという。
お店に入ると、週末に営業しているタップルームと隣接した製造場からホップのいい香りが漂ってくる。奥に進むと、目に飛び込んできたタンク群に圧倒されてしまった。
直接交渉によるオリジナル機材と独自のシステム
「海外メーカーに直接交渉して、設計、配管、輸入、設置まで自分たちで準備した」
本来であれば一般的に、醸造機材は専門業者にお願いして購入するところを、製造工程や作業動線を考え、必要なものを極力使いやすく設計したオリジナルの機材を自ら買い付けることで、既製品では叶えられない醸造家目線で考えられた設備を導入することができたという。
製造場には独自のシステムを組み込んでおり、何かトラブルがあった時、既製品であればすべての工程を一度ストップさせなければならないところを、オーダーメイドで配管を組んだことによって、問題箇所の配管を切替弁で切り分けることも可能にした。
他にも、通常の熱交換器による冷却システムとは別に、瞬間冷却できる装置をもう1つ用意することで、煮沸が終わった後のワールプールで、不要物を取り除く過程で発生するホップの苦みやアロマが飛んでしまう問題を防いでいる。
野生の蔵
製造場のさらに奥には、日本酒の酒蔵によく似た作りの部屋が存在する。
クラフトビール醸造所には似つかない、部屋全体を包むような木材の壁は、断熱材が入り、土の成分を使って湿度を一定に保ち、天井を高くすることで空調による循環ができる空間となっている。
『ワイルドルーム』
西崎さん曰く「野生の菌を使った発酵方法を採用し、買ってきた酵母ではなく、この地域の菌を使うことで、地域特有の味わいを出そう思っている」とのこと。
一次発酵は金属タンクで、二次発酵は木樽を使い、木の香りや味わいを付加させてできるビールは『この地域の酵母菌を使った唯一無二のビール』といえるだろう。
将来的には、この地で育まれたビールを作ることが目標で、他では真似のできない、ファーメンタリーにしか醸造できないビールを生みだそうしている。
世界を旅するブルワリー
ファーメンタリーでは基本となる8種類のビールをメインに、季節ごとにリリースされる限定のビールや実験的なビール、ここでしか飲めないラガービールなどを提供している。
そこで面白いのが、常に2つ抱き合わせでリリースされるビールだ。
ベースとなる原料のレシピはほぼ同じだが、1つはホップと小麦を使ったビール。もう1つはホップは使わずにオレンジピールとコリアンダーのスパイスを使ったビールをつくる。
「地域によって派生してるんで、2つの味がある。これを知ってもらうために常に2種類を出して違いを知ってもらいたい」
また、ファーメンタリーオリジナルの楽しみ方として、温度が上がってから味や風味が変わるクラフトビールの特徴を生かした、ゆっくり飲めるロング缶サイズが提供されている。2つの種類を混ぜることで変わる、味の変化も楽しんで欲しい。
『まさに世界旅行ができる醸造所』
アメリカやベルギーの小麦ビール、イギリスの赤いビール、そしてドイツではまた違った赤いビールがあるように、地域によって違うビールのレシピを取り揃えているのは、ファーメンタリーの売りといってもよいだろう。
ここでしか飲めないスペシャルラガー
金色のラベルが特徴的なラガービールは、ファーメンタリーでは唯一の瓶での提供となっている。
スペシャルハウスラガー(略して金スペ)は、ラガースタイルのゴクゴク飲めるビールでありながら、大量流通しているビールに比べると、希少なホップを使用しており、飲みやすさに加えて麦芽の風味がしっかりと楽しめるのが特徴だ。
なにより、このビールは橿原市近郊でしか流通していない、希少価値の高いラガービールだ。
発送やネットでの販売は行っておらず、タップルームで購入するか、取引きのある橿原市内の酒店もしくは飲食店でしか飲めないという徹底ぶり。まさしく外には一切出回らない、ここでしか飲めないスペシャルラガービールなのである。
ぜひ、ファーメンタリーや橿原市に足を運んで、ここでしか飲めない金のスペシャルラガーを味わってみてはいかがだろうか。
ファーメンタリー (FARMENTRY)
住所 〒634-0832 奈良県橿原市五井町197-5
営業時間 ⼟⽇祝 11:00〜18:00 (タップルーム試飲+購入)
※ イベントや休業案内などはInstagramをご確認ください
関連リンク
FARMENTRY公式HP
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FARMENTRY SHOP ※Instagramからもアクセス可
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画像提供 FARMENTRY