地方創生メディア  Mediall(メディアール)

オンリーワン・ナンバーワンがそこにある 応援の循環を作る 地方創生メディア

スポット  |    2025.02.05

この1時間は、自分の「好き」を真ん中に。子どものための「おはな塾」|埼玉県さいたま市

さいたま市・東浦和。日常の時が流れる静かな住宅街を進むと現れるのは、「ヒビノイロハニ」。広さ3畳にも満たない、小さな小さなお花屋さんです。

店主の倉田幸世さんがこの店舗を自宅の前に旦那さまと手作りしたのは、3年前のこと。

そんな倉田さんは、4人の男児の母親でもあります。長男は小学5年生、四男は1歳。まだまだ手がかかる子育てに加えて、お店の経営まで。想像するだけでも目が回りそう……!

――そんなこちらの勝手な想像を軽々と飛び越えて、倉田さんは昨年4月から、さらに新たな試みをスタートしました。それが自宅で開講する、子どものための「おはな塾」。小学2年生~中学生が対象です。そこには、フローリスト×4人の母親である倉田さんならではの思いが詰まっていました。

安心して、素直に。自分の「好き」を真ん中に置ける場所

「このお花、かわいいよね」
「うん、かわいいねえ!」
「自分はこっちが好きだなあ……」

――先日の「おはな塾」でのこの会話。実は、小学3年生から5年生の男の子3人で交わされていたものなのだとか。

「多様性だなんだと言われていても、子育てでは『男の子だから、女の子だから、こうあってほしい』というベクトルを向けてしまうことって、まだまだ多いと思うんです。お花は『女子が好むもの』というラベルが貼られがちな最たるものだと思うのですが……実はそうとも限らないんですよ」と倉田さん。

現に「おはな塾」誕生のきっかけも、小学校3年生だった男の子からの「お花が好きだから、もっと知りたい」というひとことだったのだそう。

「これは『おはな塾』を始めてから気づいたことなのですが……子どもそれぞれの『なんだか、とにかく、好き』という感覚が許されて、その思いに共感しあえる場って、案外少ないんですよね。

たとえばサッカーが好きでチームに入っても、一方で『試合で結果を出せたか?』『技術はどのレベルか?』という基準で自分を位置づけたり、他者から評価されたりするもの。『好き』を置き去りにして、『評価』という基準に縛られてしまうことだってある。そもそも『男の子なんだから、女の子なんだから、○○のほうがいいはず』という雰囲気を汲み取って、子どもが物事を選んだりすることだって珍しくないと思います」

「ところが『おはな塾』では、どの子どもたちも、素直な自分を真ん中に置いているんです。誰かの価値観や評価とは無縁の場所で、自分でも気づいていなかった『好き』を見つけて解放していく――その様子が、本当に尊くて。

感じ方や解釈に序列をつけられることがないから、安心して『好き』『こっちがいい』と口にできる。すると、内に秘めていた『好き』でつながれる新しい人間関係が育まれていく――学校や年齢、何らかのレベル感で振り分けられることのない、自分の感性を起点にした人間関係って、子どもにとっては実はすごく貴重なんですよね」

「お花に詳しい近所のおばちゃん」が授けたいのは「小さな自信」

子どもの気持ちを何より大切にしている「おはな塾」。一体、どんなレッスンが繰り広げられているのでしょう?

「レッスンは月に一度。その日にやることや花の名前はボードに書きますが、そのほかの説明は口頭でさらりと済ませています。ここでは、上手になることが最重要ではありませんから」

先生ではなく「お花に詳しい近所のおばちゃん」というスタンスを大事にしているという倉田さん。それもまた「教える・教わる」という上下関係ではなく、自分の興味や好きを起点にしてほしいから。

「毎日少しずつ花と仲良くなれば、そのうち学校の先生よりも詳しいくらいの『お花博士』になれるよ!――子どもたちにはそう話しているんです。私が彼らに手にしてほしいと思っているのは、評価とは切り離された『小さな自信』なんですよね。

『勉強』や『運動』、『リーダーシップ』のような、注目されやすい指標からはみ出てしまっても、自信が持てることが何か1つでもあれば、自分を誇れるし、大切な何かを踏み外すこともない。4人の子育てという実体験も含めて、私はそう感じています」

そんな倉田さんが子どもたち全員に渡しているのが、まっさらなスケッチブック。子どもたちは「おはなノート」と呼んでいます。

「すごく面白いなあと思うのが、ここにたくさんしっかり書く子が、スムーズに作品を作れるわけではないってこと。おちゃらけてばかりで、話なんか何も聞いていないように見えた子が、制作を始めるとこちらが驚くような視点で作り上げたりするんですよ」

「うちの4人息子の中にも、『書く』ということがものすごく大変な子がいたんです。何文字か書くだけでも、悪戦苦闘(笑)。でも、彼はきちんと頭の中で覚えていたし、理解もしていました。違う場所や方法で輝く子どもがいることを知っているので、一つのやり方でがんじがらめにしたくないんですよね」

だからこそ、おはなノートも、書いて疲れるなら書かなくて構わない。何を、どんなふうに、どれだけ書くかは、その子に任せているのだそう。

「『作って終わりじゃなくて、ちゃんとお世話もしようね』というのがここの約束ですから、家で作品を手入れしながら気づいたことを、ノートに記録してくる子もいますよ。たとえば『あのお花だけ早く枯れちゃった』と書いてきたら、『もしかしたら給水スポンジに茎を挿すのが浅すぎたのかもしれないから、今日はちょっと深めに挿してみよう』とアドバイスすることもあります。そうやって改善したものを持ち帰って、改めて観察してみる――こちらが導かなくても、子どもたちは花の特性を理解するし、失敗と成功を比較して学んでいくんです」

「親が知らない子どもの姿」こそ大切にしたい

子どもが自ら学び取る――その力を信じながら積み重ねたレッスンも、間もなく1年を迎えます。

最後のカリキュラムは「おとうさんやおかあさんを呼んでお花屋さんになろう」。

「子どもたちと、どんな準備をするんですか?」――そう聞くと、倉田さんは「準備なんてしません!」と、サッパリと笑います。

「子ども的によくあるじゃないですか、運動会の練習で『おうちの人が来るから、そこに向けてできるようになりましょう』と言われたり、授業参観で『なんだか今日の先生、めちゃめちゃよそ行きじゃん!!』と感じたり(笑)。本当は子どもが主役のはずの場を、違う誰かのための場にすり替えたくないんです。

レッスン中も、困ったときには私が手助けできるし、周りの友達だって自然に手を差し伸べています。親の知らない子どもの姿や可能性が、もうここにあるんですよ。むしろ親にしてみれば、そんな姿こそ最も覗いてみたいって思いますよね」

4月の開講に向けて、先日から2期目の募集が始まったおはな塾。

「この1年、子どもたちの成長……というより、化学変化とでもいうのかな。私が想像もしなかった姿を、毎回目にしているんです。だから、もっとたくさんの方にここを知ってほしくて」

役に立つから、とか、得意だから、とか、そんなこととは関係なく。大人が子どもたちに与えるべきなのは、「好き」「面白い」の羽を、そのまま伸ばせる1時間なのかもしれません。

・写真提供/倉田幸世さん(おはな塾主宰)

おはな塾

Instagram

・月1回 16:30~17:30(開講曜日は応相談)
・レッスン料:レッスンフィー2,200円+花材・花器代(2,200~4,400円程度)
・2025.4~の2期に向け、体験レッスンを開催中。問い合わせはInstagramDMで

花店「ヒビノイロハニ」

Instagram

住所: 埼玉県さいたま市緑区大間木2-5-5(おはな塾・ヒビノイロハニ 共通)


記事をシェアする

この記事を書いた人

矢島 美穂

埼玉県さいたま市在住、実家は県内のイチゴ農家|2人の姉妹を育てる、40代のフリーランスライター|日常に横たわるストーリーを発掘し手渡すことで、読者の目に映る世界がちょっと変わるのが喜び。Mediallでは、情報だけではなく、この土地に生きる人々のストーリーもお伝えしたいと思います|チョコレート・コーヒー・カフェ・読書・手帳・紙モノが大好き

関連記事