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もの・こと  |    2025.03.27

自動運転バスに乗ってみよう!AI自動運転車の安全性とは?

高齢化による人手不足で相次ぐ路線バスの減便や廃止。免許を返納した高齢者の移動手段の確保。多くの地方自治体が抱える社会課題を解決する手段のひとつが「自動運転技術」。その〈新しい技術〉と〈社会実装する為の課題〉を住民と共有するイベントが2025年2月23日から4日間に渡って横須賀市の湘南国際村で開催されました。

試乗に使われたのはゴルフカートを改造した8人乗りのEVバス

システムによる自動運転技術を体感できる「自動運転バス」の実証運行です。自動運転技術は「レベル0(運転自動化なし)」から「レベル5(完全自動運転化)」までの6段階でレベル分けされていますが、今回運行されたのは「レベル2(部分運転自動化)」。アクセルとブレーキ、ハンドル操作がシステムによる自動運転で、一部を運転手が担う車両です。

「透明人間が運転しているみたい!」

わたしも事前予約された住民の方々とともに試乗させて頂きました。乗務員を含めて8人乗りのEVバスが発着点の「ファミリーマートM・Y湘南国際村店」をゆっくりと発進していきます。最高速度は19㎞の低速運行。誰も握っていないハンドルが回る様子に試乗した子どもたちも「透明人間が運転しているみたい!」と興味津々でした。

今回は事前にプログラムされた30分程度のルートを走行していきます。11台の車載カメラとセンサーが周囲の状況を把握し、障害物を察知すると自動的に停止するそうです。また、国際村内に設けた遠隔コントロールセンターでもスタッフが運行を監視しています。

AI自動運転の安全性とは?

バスがどのようなシステムで走行しているのかも興味のひとつですが、それ以上に気になるのは安全性。そんな声を先取りするように、イベント初日には国際村センターの国際会議室で国立情報学研究所のアーキテクチャ科学研究系教授、蓮尾一郎氏による講演が開かれました。人の移動と物流の未来を担う自動運転車の安全性に産学官連携で取り組んでいるメンバーの一員でもあります。

テーマは「自動運転車の安全性とは?~統計的AIに対する論理学的セーフティーガード技術~」。自動運転の本格的な社会実装に向けて〈技術の進歩〉と同じくらい課題になってくるのが〈社会受容〉。「十分に安全か」。「誰が事故の責任を取るのか」。ベネフィットとリスクをしっかり理解した上で、どのような社会システムを構築していくべきなのかを議論していく。そのきっかけとなるような講演です。

まずは、自動運転技術を司るAI技術についてその誕生と進化の歴史を交えながら解説して下さいました。

1980年代に計算機の進化形として誕生した第5世代コンピューター。これが「論理的(記号的)AI」です。事前に定義されたルールや論理的推察に基づいて動作するAIで、たとえばチェスのAIがこのタイプです。「もしもこの条件ならこう動く」という明確なルールに基づいて行動するので人間にも行動原理が比較的理解し易いと言えます。

そこから進化を経て2010年代に誕生したのが「統計的AI」。大量のデータを分析してパターンを見つけ予測や判断を行うAIで、Chat GPTなどもこのタイプになります。ルールの設定も必要なく、過去のデータから傾向を学んでもっとも可能性の高い結果を出しているのです。

自動運転社会を受容するわたしたちに求められることは?

自動運転技術も大部分は統計的AIが行っています。他車も歩行者もいる路上では予め設定したルールだけでは車を制御できない予測不能な事態が次々に起きるからです。統計的AIは予期せぬ事態を認知するたびにビッグデータから最適解を判断し、車を操作していきます。

しかし、時に問題も生じます。昨年話題になった「市販車の安全運転支援システムがラーメンチェーンの看板を車両進入禁止標識と誤認して停止」といったようなノイジーなデータの推測による判断の誤りです。路上ではこうした判断の誤りが事故に繋がることもあります。

今回の運行中にも路肩の植栽にセンサーが反応して車が急停止しました。人間の運転であれば急停止の判断と同時に同乗者に危険を通告したり身を庇ったりすることも可能かもしれませんが、AIにはまだそこまでの技術はありません。乗るときはもちろん、近くを走行する際には、「自動運転車は誤認で急停止する可能性がある」と意識することが必要なのかもしれないと感じました。

そんな統計的AIによる誤認を回避するのが「論理的AIによるセーフガード技術」。蓮尾教授を始めとするメンバーの方々が「競争よりも協創」をキャッチフレーズに産学官連携で開発に取り組んでおり、今後各社の自動運転技術にも付加されていくことになるそうです。

技術の成熟や交通インフラの整備を担保していく一方で、蓮尾教授が研究を進めているのが「数学的道路交通法」。自動運転の安全性を数学的に証明しようという取り組みです。それはもうひとつの課題である社会受容をクリアにする為に必要な安全安心。「100%の安全は保証できないが、ここまで安全が保証できれば十分だ」と万人が納得して自動運転を社会実装していくための、数字的な根拠となってくれるかもしれません。

試乗を通じて実感しましたが、コストの低減や道路交通法の改正など他にも問題はたくさんあります。それでも自動運転バスを導入する自治体が少しずつ増えているように、新しい技術が喫緊の社会課題を解決する手段になるのならば。それを受容するわたしたちがどんな社会を構築していくかが町の未来を創っていくのだということを再認識した4日間でした。

「人間中心の情報化社会を目指していきたいと思っています」

講演の最後を締め括った蓮尾教授の言葉がとても印象的でした。

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この記事を書いた人

青葉薫

【神奈川県公認Mediallライター】横須賀市秋谷在住。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で「種まく旅人」としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。横須賀市都市計画審議委員、横須賀市環境審議委員。

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