地方創生メディア  Mediall(メディアール)

オンリーワン・ナンバーワンがそこにある 応援の循環を作る 地方創生メディア

もの・こと  |    2025.04.01

取り巻く環境の変化のなかで「向上しつつ生涯剣道」を目指す|長浜市剣道連盟の取り組み

凛と張りつめた空気のなかから響いてきたのは、割れんばかりの気迫のこもった子どもたちの声、竹刀の交差する激しい音、床を踏み込む大きな音。「長浜北ロータリー杯剣道大会」のワンシーンです。

滋賀県長浜市で剣道に取り組む小中学生は約120人。少子高齢化社会だけでなく、新型コロナ感染症の影響も大きく、競技人口は年々減少し続けています。また、数年後には中学校の部活動が地域に移行されることも確実であり、ますます競技人口は減少するでしょう。

かつては男女別々の部門だった団体戦も男女混成でなければ成り立たない

近年は海外でも盛んに取り組まれるようになり、3年ごとに世界大会も開催されています。

一方で、日本国内においては多くの地域で衰退の一途をたどっている状態です。剣道連盟では、今後どのように日本の文化を守り、後世に継承していくべきかが大きな課題となっています。

昨今は単独でチームが組めなくなってきている団体も多くなってきており、大会だけでなく剣道そのものにも危機感を覚えます。

今回は、長浜市剣道連盟会長の松本俊彦さんに、地域の剣道競技の状況や抱えている課題、剣道連盟の働きかけなどについて詳しく伺いました。

剣道を取り巻く環境の変化と急激に進む少子化

長浜市剣道連盟では週に3回の稽古会が開催されている

現在、長浜市剣道連盟の会員数は約110人。会員に登録されているのは、現在も活動を続けている初段以上を受有している人です。剣道では13歳から初段を受審できるため、会員数には中高生の有段者も含まれています。

数字だけを見ても何も感じないかもしれませんが、少子化の構図そのままに大人の会員が増える一方で剣道に取り組む子どもの数は減り続けています。昨今は習い事が多様化していることもあり、剣道を選択する子どもが減り続けている状態です。

子どもの数が減りいくつかの団体が合同稽古を行う機会も増えてきた(小中学生の稽古風景)

剣道を始める時期としては何歳ごろがよいのか、松本さんに伺いました。

「昔から、習い事は6歳からと言いますが、剣道の特性を考えると遅くとも15歳(高校)くらいからは稽古を始めたいところです。小学生の低学年から急いで始める必要はありませんが、とくに高学年や中学生時代の取り組み方が大切だと感じています」

なかでも中学生の稽古環境を大切にしたいと考えているため、日々解決策を模索しているといいます。

少子化で成り立たなくなってきた中学・高校の剣道部

長浜市内の中学剣道部と高校剣道部の合同稽古で指導をする松本さん(右)

「滋賀県のなかでも湖北地域と湖西地域においては、とくに少子化のスピードが早くなってきています。中学校の部活動で剣道に取り組めるのが一番よいと考えますが、現状は部員が少なくて部活動自体が成り立たなくなってきています」

長浜市内には中学校が12校、高等学校が5校ありますが、そのうち剣道部があるのは中学校で4校、高等学校で3校です。なかには部員1~3名で活動を続けている学校もあります。

とくに中学校に関しては教員への負担が多く、部活動の指導ができないことから、部活動自体を廃止して地域の団体に移行することが決まっています。

長浜市剣道連盟が地域移行の受け皿として取り組んでいるのは、「外部講師の派遣」「広域での稽古会の実施」「市中の剣道教室での受け入れ」の3つです。松本さんは、既存の4つの中学校剣道部と相談しながら取り組んでいきたいと語ります。

日本古来の文化としての剣道が衰退しつつある

大会の開会式で挨拶をする松本さん

部活動だけでなく、日本古来の文化としての剣道についても、多くの剣道愛好家が危惧しています。長浜市剣道連盟では、今後どのように取り組むべきかを伺いました。

「剣道の武道的な側面ばかりを重要視すると剣道は衰退していくでしょう。逆に、スポーツ的な側面を重視すると、剣道が剣道でなくなってしまいます。ここの理解が難しいところです」

剣道は戦後GHQにより禁止された時期があり、再開の条件が学校スポーツとして取り組むというものでした。したがって、スポーツとして取り組む学生の剣道は間違いではありません。

一方で、武道的な要素が薄れていくことで、伝統文化である剣道のよい側面が薄れてしまうこともたしかです。

年齢や経験によりスポーツ的な剣道から武道的な剣道へ

剣道の「選手宣誓」には武道的な要素を多く含む(第22回長浜北ロータリー杯剣道大会にて)

松本さんは長年剣道に取り組むなかで、年齢と共に取り組み自体も変わってきたと語ります。

「長く稽古を続けていくと、スポーツ的な剣道から武道的な剣道に変化するものです。自分自身でその変化がわかる時期があります。私の場合は40代半ばがその時期でした。きっかけは、社会体育指導員養成講習会で範士八段の先生方から直接指導を受けたことです」

社会体育指導員養成講習会では、指導者を取り巻く雰囲気や立ち居振る舞い、打突の重みなど、長年の自己陶冶で作られたものを強く感じたとのこと。

老若男女が一緒に楽しめる剣道の魅力

長浜市剣道連盟の稽古会では小学生から70代までが一緒に稽古している

松本さんは講習会や日頃の稽古を通じて、剣道の素晴らしさを再認識したといいます。

「剣道の素晴らしいところは、老若男女が一緒に稽古を楽しめる点です。また、武道的要素を重視する人とスポーツとして剣道を楽しむ人が、分けへだてなく一緒に稽古に取り組めます」

体力・気力ともに溢れる若いうちはスポーツとして取り組み、試合や勝負にこだわりつつ剣道を楽しむことも必要です。一方で、武道的要素の素晴らしさに気がつき、生涯を通じて自己陶冶に取り組む人もいます。

また、剣道は剣道具と竹刀があれば、さまざまな地域への出稽古も可能です。ときには国籍の異なる人との稽古もでき、世界は一気に広がります。

「向上しつつ生涯剣道」を目指して

長浜市剣道連盟の連盟旗には「生涯剣道」と揮毫されている

剣道にはさまざまな楽しみ方があり、取り組む人が自分自身で楽しみ方を見つけるものです。そのようななかで、松本さんは連盟の使命について日々考えているとのこと。

「成長過程に合った剣道の試合や稽古の機会を作り、『向上しつつ生涯剣道』に導いていくのが長浜市剣道連盟の仕事だと考えています」

松本さんが心に残っている言葉は、岡村忠典先生(元社会体育委員会委員長)の「向上しつつ生涯剣道」です。我々は加齢とともに目標を見失いがちになり、ややもすれば向上心も薄れてしまいます。

初心者の子どもに負けず大人も向上心を持ち続けなければならない(基本判定試合にて)

何歳になっても向上心を持ちつづけ、日々の稽古に取り組むことが大切です。

松本さんは、できれば中学校や高等学校で剣道をやめず、長く続けてほしいといいます。なぜなら、剣道は大人になって初めて本当の楽しさを理解できるものだからです。

長浜市剣道連盟の連盟旗には、「生涯剣道」と揮毫されています。今までは何気なく眺めていた文字ですが、松本さんの話を聞き、いつもよりも深みを感じるようになりました。

剣道だけでなく日常生活においても、常に向上心を持って取り組まなければなりません。

(長浜市剣道連盟 広報委員 野川)

長浜市剣道連盟の詳細情報
令和6年度 長浜市民剣道大会にて

長浜市剣道連盟への問い合わせや稽古会、大会などの詳細情報は下記をご覧ください。

記事をシェアする

この記事を書いた人

のがわ

滋賀県担当のアラフィフライター「のがわ」です。地元の滋賀県や隣県の福井県に関する情報をお届けします。趣味の剣道は練士七段ですが、試合は中学生にも負けるレベルです。色々な地域に出稽古に行き、出会った方々の物語や観光情報などを記事にします。

関連記事