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アート  |    2024.10.24

言葉とアートの融合 アンビグラムで驚きと勇気を|野村一晟の世界

「アンビグラム」という言葉を聞いたことはありますか?
アンビグラムとは、逆さにしても読めたり、視点を変えると違う意味の言葉になったりする、文字を使ったアートのこと。SNSやポスターなどで一度は目にしたことがあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

日本語でのアンビグラムの第一人者である野村一晟(のむらいっせい)さんに、アンビグラムの魅力や可能性についてお聞きしました。

画家・アンビグラム作家 野村一晟さん

◾️誰もが目を奪われる アンビグラムの魅力

アンビグラムは、1970年代から80年代にアメリカで発祥したと言われています。
ひらがな、カタカナ、漢字を扱う日本語での制作は難しいとされてきました。


富山県富山市在住の画家・アンビグラム作家の野村一晟さんは、そんな日本語によるアンビグラムを次々に制作し、多くの話題作を発表し続けています。


たとえばこちら。「平成」と書かれた絵皿を180度回転させると……

「平成」「令和」に!
違和感なく読めるのが不思議ですね。
こちらの作品は、2019年に新元号が発表された日にX(旧twitter)で野村さんが発表しバズったもの。
テレビや新聞などのメディアにも取り上げられ、注目を集めたことから、目にした方も多いかもしれません。

次は、カップに書かれた文字にご注目を。

カップには「挑戦」と書かれていますが、傾けると「勝利」に変身!

このアンビグラムは、2017年に佐賀県唐津市の「ボートレースからつ」のポスター用に依頼を受けて制作したもの。ポスターはSNSで注目を集め、各種メディアに取り上げられました。

◾️まるでマジック 即興制作の舞台裏 

10月6日に富山県の太閤山ランドで開催された親子向けイベント「あすフェス’24」。
このイベントに参加した野村さんのブースには、即興制作をオーダーするお客さんが並んでいました。

依頼されたのは二人のお子さんの名前でした。
野村さんは文字のアウトラインを薄く下書きすると、筆ペンを使ってあっという間に作品を形作っていきます。紙の上で試行錯誤することは一切なく、頭の中に完成図がある様子。

1作品につき5分もしないうちに作品は完成しました。

「ちはや」ちゃん、「えな」ちゃんの名前が、逆さまにすると「えがお」「すてき」に!
世界に一つだけの素敵なプレゼントになりましたね。

作品のポストカードを買い求める人もいました。

ーどうしてこの作品を購入されたのですか?

「能登半島地震の被災者の方を支援する活動を行っているのですが、被災された方々を励ますような作品を贈りたくて。今も辛い思いをされている方が大勢います。辛いことをひっくり返すようなメッセージになるものを選びました」


「おにはそと」↔︎「ふくはうち」「才能」↔︎「努力」「挑戦」↔︎「勝利」「可能性」↔︎「無限大」
逆境を跳ね返すような、力強いメッセージが伝わってきます。

◾️アンビグラムとの出会いが人生の転機に

どのような想いを込めて作品を制作しているのか、野村さんにお話を伺いました。

アンビグラムを始めたきっかけは?


野村さん(以下敬称略)「大学は芸術系の学部だったので、周囲は絵が上手い人ばかり。そんな中、自分なりのアイデンティティを模索していた時にアンビグラムと出会ったんです。
大学3年生の時、映画『天使と悪魔』(2009年)の中で使われていたアルファベットのアンビグラムを見た時に、『文字を逆さにしただけでこんなに変わるのか!』と。自分の視点が凝り固まっていたことに気付かされました」

パズルや謎解きが好きだった野村さん。アルファベットのアンビグラムを模写してみたところ、すぐに作り方の法則に気がついたそうです。

野村「不思議なものには法則がある。そのルールを使えば日本語でもできると気づきました。
元々、絵を描いたり物を作ったりして、人を驚かせるのが好きだったので、すっかりアンビグラム制作にはまりました」

野村さんはその後、アンビグラム作家としてイベントに出展するなど、大学在学中から活躍。
卒業後は、目標だった教員として働き始めましたが、自分の作品を世に問いたいという思いが次第に強くなり、副業が可能な非常勤講師の道を選びました。
美術・図工の非常勤講師とアンビグラム作家の二足のわらじを履く生活を続けていた野村さんですが、突如教員の仕事が減った時期があったのだそうです。

野村「その時、『教員の仕事に甘んじていたのかもしれない、もっとアンビグラム作品に注力しよう』と考えたんです。『ピンチはチャンス』、そう捉えて精力的に活動しました。アンビグラムがどれだけ世の中に広がるか試してみたかったんです」

©️野村一晟 「ピンチはチャンス」

その頃、作品「陰陽」のポストカードをお客さんがSNSに投稿。
それがネットで話題になり、「世界まる見え!テレビ特捜部」などのテレビ番組に取り上げられたことをきっかけに、野村さんのアンビグラム作品は一躍全国区となりました。

◾️視点を変えることの大切さ

その後、野村さんの活動の場は海外にまで広がりました。
商品パッケージのデザインや、中学校向けの美術科教育の副教材『新 レタリング・ポスターの資料』(正進社)にも作品が採用されるなど、作家としての活動は一見順調そのもの。
しかし、作品を盗作されるなど、困難に直面する時期もあったのだとか。

「嫌なことも人生の伏線だと感じました。ショックなことがあるたびに、アンビグラムと同じで『視点を変えなきゃ』と。そうやって状況を切り開いてきました。今は、悩んでいる人を元気づけるような作品を届けたいですね」

◾️子どもたちへのメッセージ

教員として子どもと接する機会も多い野村さん。講演会などを通して伝え続けていることがありました。

野村「『学校の勉強は役に立つのか』と聞かれることもありますが、『勉強を役立てる人生にしていくこと』が大切。物事を見るための視点を増やすことは、将来の武器を増やすことなんです。

子どもたちこそいろんな視点を持ってほしいな。
そして何より、苦しいことがあっても命を大切にしてほしいんです」

遊び心や意外性だけでなく、見る人を勇気づける温かいメッセージが込められた野村さんのアンビグラム。
そこに隠されているのは、人生を豊かにする秘密なのかもしれません。


Information

野村一晟さん 公式HP

著書:『つくろうよ! アンビグラム』(飛鳥新社)、『すごいぞ、さか立ちする文字! アンビグラム暗号のなぞ 』(KADOKAWA ) 

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この記事を書いた人

いよはち

富山県出身・在住の取材ライターです。以前の職は、記者/秘書/司書の三段活用。富山の魅力を余すところなくお伝えします。 ペンネームは私の身長に由来します。恐らく富山で一番小さいライター。 その場にいなければわからないこと、知り得ないことをお伝えする記事を書きます!

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