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人  |    2024.11.26

キャンプで子どもが育つ!生きづらさを感じる人々を野外教育で支援|明治大学経営学部准教授・吉松梓さん

クラスメイトとの林間学校や、親元を離れて仲間たちと過ごすサマーキャンプなど、自然の中での活動を体験した人は多いでしょう。このような自然体験活動を取り扱う分野は「野外教育」と呼ばれ、子どもの教育・発達支援において重要な役割を担っています。

今回紹介する吉松梓さんは、明治大学の准教授として野外教育の研究活動を行っています。その取り組みと野外教育の持つ力について、詳しくご紹介します。

競争しなくても成長できる!衝撃的な野外教育との出会い

吉松さんが野外教育に出会ったのは、体育教師を目指して進学した大学の授業でした。

当時の吉松さんは、競争の中でこそ「社会を生き抜く力」が育つと考えていました。スポーツに取り組んできた経験から、競争するなかでチームメイトとの信頼関係が深まり、自分自身も成長したことを実感していたからです。

しかし、参加した野外教育のキャンプ実習で、その考えは覆されることになります。

キャンプでは、仲間たちとのコミュニケーションにより、自然と自主性や協調性が育ちます。また、非日常だからこそ普段できないことにチャレンジできます。例えば焚き火など日常でできないことに挑戦することで自発性が養われ、「やればできるんだ」という自信にも繋がります。

そして、自然の中で過ごしてその美しさに感動する経験は、感性を豊かにします。これは、学校で勉強するだけでは得られません。

競争がなくても、社会を生き抜く力を育てられる。吉松さんは「こんな世界があるんだ」と大きな衝撃を受けました。

不登校、発達障がい児とのキャンプが専門家としての方向性を決定づける

野外教育のなかでも、子どもたちとのキャンプに強い魅力を感じた吉松さん。もっと子どもたちに関わって知識を深めたいと思い、大学院に進学しました。

ある時、不登校や発達障がいの子どもたちを対象にしたキャンプに参加する機会がありました。

そこで感じたのは、子どもたちの思いを理解する難しさです。彼らの行動の背景には、どのような悩みや生きづらさがあるのか、わからなかったのです。

不登校や発達障がいの子どもたちを理解するために、心理について勉強する必要がある。そう痛感した吉松さんは、大学院卒業後にもう一度大学院に入学。心理学を学び、臨床心理士の資格を取得しました。

こうして吉松さんは、「野外教育」と「臨床心理」を主軸とする専門家の道を歩むようになったのです。

ひとり親家庭の支援として野外教育を活用

吉松さんの研究テーマは「野外教育、多様なニーズのための自然体験活動」。近年はそこから更に幅を広げ、ひとり親家庭の支援にも目を向けています。そのきっかけは、シングルマザーのママ友の存在でした。

手が足りず、生活を回すことで精一杯。そんなひとり親家庭の現状を目の当たりにした吉松さんは、キャンプの専門家としてできることはないかと考えました。子供を対象にした教育キャンプは親の一時休息の機会になりますが、一般的に高額な費用がかかります。金銭的に余裕のないひとり親にとっては、大きな負担です。

そこで吉松さんは、助成金を活用して参加無料のキャンプを企画。ひとり親の子どもたちを対象にして、なかなか行けないキャンプに参加できる機会を作りました。更に「ひとり親家庭支援におけるキャンプの有効性」をテーマに、参加した親子に調査を行いました。

3年にわたる定期的なキャンプの結果、子どもは母親との絆を再確認する機会になり、母親は子育てに余裕を持てるようになったことが、調査で明らかになりました。野外教育の研究とひとり親家庭の支援を両立させることに成功したのです。

アウトドアセラピーで子どもたちの生きづらさを解消したい

吉松さんは、将来的にアウトドアセラピーにも取り組みたいと考え、日々勉強しています。

アウトドアセラピーとは、自然体験活動を通して心身の健康を目指す療法のこと。子どもたちの育成が目的である野外教育と異なり、子どもたちの抱える生きづらさを解消するために行うものです。

不登校や発達障がいの子どもたちのなかには、心の傷を抱えた子供たちも多くいます。「子どもたちが少しでも生きやすくなるよう、アウトドアセラピーを通して働きかけたい」。そう吉松さんは語ります。

すべての人々の支援として野外教育を

野外教育の効果は広く知られるようになり、最近は支援のひとつとして取り入れる自治体も増えてきました。吉松さんをはじめとした、野外教育専門家による取り組みが身を結んだと言えるでしょう。

自然に触れて美しいと感じる。仲間と力を合わせて乗り越える。そんな経験は糧となり、社会の荒波に飲まれまいと足掻く力になります。

今は小さな子どもの背中を、野外教育の経験がきっと後押ししてくれるはず。吉松さんはそう信じて、活動を続けています。

基本情報

吉松 梓(よしまつ あずさ)

明治大学 経営学部公共経営学科 准教授

専攻分野:野外教育学、臨床心理学

ホームページ:https://www.meiji.ac.jp/keiei/faculty/03/6t5h7p00003f79dh.html

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この記事を書いた人

るみ たかはし

その土地の日常を味わいたい旅行好きライターです。子連れの目線からも有益な記事を発信したいと思っています。温泉、キャンプ、音楽が好きなパラレルワーカー。

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