「10種類の蜂蜜を販売していて、すべて試食していただけます。ぜひ10種類すべて食べ比べてみてください。味が全然違いますので」
少し冷えてきた12月初旬の夕暮れ時、店じまいをしながらにこやかに話すのは、滋賀県長浜市で『びぃふぁむ みつばちの雫(以下、びぃふぁむ)』を経営する塩のり子さん。
塩さんは蜂蜜の販売だけでなく、地元長浜市内で養蜂を営む養蜂家です。
今回は『びぃふぁむ』を経営する塩さんに、西洋みつばちの養蜂をはじめたきっかけや販売を通じた人とのつながりなどについて詳しく伺いました。
祖母との思い出の土地で事業を始めたかった
塩さんは介護職員を辞めて養蜂家への道を選んだと言います。きっかけは祖母への思いでした。塩さんは長浜市の北部に位置する木之本町に住んでいましたが、幼い頃は隣接する余呉町にある祖父母の家を訪れることが多かったと語ります。
「祖母との思い出の詰まった余呉で何か手に職をつけながら、稼げる方法はないかなと考えたのが始まりです」
最初はカフェを開こうかと考えたそうです。
「家の裏でみつばちを飼育して、自家製の蜂蜜をパンケーキにかけて提供できれば良いかと、軽い気持ちで考えていました」
そこで、養蜂について調べたのが、すべての始まりだったと言います。養蜂について調べていたところ、一人の養蜂家と出会えました。それが塩さんの師匠です。
余呉は珍しいトチノキの群生地
養蜂に取り組む際に調べてみたら、余呉にはトチノキがあることがわかったと塩さんは語ってくれました。余呉の高時川源流域にはトチノキの群生地があり、県下最大のトチノキ巨木もあります。滋賀県内でトチノキの群生地があるのは、余呉と朽木のみです。
「トチノキや養蜂のことを調べていたら、みつばちに導かれるように道が開けました。ですので、カフェをするよりも、素直に蜂蜜を販売しようと」
余呉にトチノキの群生地があることは、養蜂家を目指す一つの要因でした。また、余呉でトチの蜂蜜を取っていた養蜂家が、師匠ひとりだけだったことも大きかったと言います。塩さんは運命的なものを感じたと、目を輝かせて語ってくれました。
師匠について3年間の修業を経て独り立ち
最初の1年間、塩さんはメールのやり取りと週末の直接指導という形で取り組みます。しかし、学び方に限界を感じたため師匠に弟子入りし、本腰を入れて取り組むことにしました。
大きな問題は、師匠が鹿児島から北海道までを渡り歩く移動養蜂家だったことです。
「師匠からは移動養蜂家ができるのかと問われたので、『やります』と即答しました」
塩さんは3年間の修業を経て、ようやく独立できたと言います。ただし、まだまだ師匠の技術には及ばないため、余呉特有のトチの蜂蜜を武器にして販売することにしました。
一方で、一般的に人気の高い蜂蜜はアカシアやレンゲのため、トチの蜂蜜を生産してもほかの生産者との差別化にはつながりません。そこで、トチだけでなく「長浜の野山の蜂蜜」として販売することにしたと言います。
販売している10種類の蜂蜜
スーパーで販売されている蜂蜜は選択肢が少ない状況です。一方、『びぃふぁむ』では10種類もの蜂蜜を販売しています。取り扱っている種類は以下のとおりです。
- トチ
- アカシア
- れんげ
- 藤
- 栗
- キハダ(ミカン科の落葉高木)
- 玄圃梨(ケンポナシ・ジャスミン風)
- 烏山椒(金柑に近い)
- 洋梨
- さくら
「栗の蜂蜜は苦手な方がいらっしゃるのですが、余呉の山で取れた栗の蜂蜜は食べられるとおっしゃる方が多いのが特徴です」
実際に栗の蜂蜜はほのかな栗の味があり、何とも不思議な気分になれます。また、烏山椒は柑橘類のため、スパイスの山椒とは異なるイメージです。
まずは10種類の蜂蜜を味比べ
販売所を訪れると、塩さんは蜂蜜の試食を勧めます。
「蜂蜜の試食をしたところで、味の違いがわからないのではないか?」と考える人もいらっしゃるかもしれません。しかし、ほとんどの人は種類の違いが明確にわかると言います。
具体的な言葉での表現は難しいものの、酸味が強かったり、色の濃淡が異なったり、後味が残ったり、多少の苦みがあったりという具合です。その違いは微妙な違いではありません。明らかに異なる味でありながらも、蜂蜜の美味しさや甘さが口の中いっぱいに広がります。
9種類は長浜市内で取った蜂蜜
10種類もの蜂蜜を、どのように生産しているのでしょうか。
「アカシアの蜂蜜だけは、師匠が北海道で取ったものを販売しています。それ以外の9種類は、すべて長浜市内で取れた蜂蜜ばかりです」
残りの9種類の内、レンゲと藤以外はすべて余呉の山で取れるとのこと。同じ場所でも季節ごとに咲く花が異なり、取れる蜂蜜の味も変わります。
「蜂蜜の味は花の種類によって異なりますが、種類が同じでも地域によって違います。お客さん一人ひとりの好みも違うので、どれが一番人気と決まっているわけではありません。実際はそれぞれの種類が同じように売れるイメージです」
蜂蜜好きの方は、ぜひ10種類の蜂蜜を食べ比べてみてください。
『びぃふぁむ』の蜂蜜が買える場所
『びぃふぁむ』は実店舗はもっておらず、近隣のマルシェや道の駅に出店して商品を販売しています。また、塩さんは各地で自然豊かな長浜をPRしている、自称『長浜PR隊』でもありました。
「一人で勝手に『長浜PR隊』として活動しています。長浜はこんなによいところですよと伝えながら、蜂蜜の販売につなげている感じです」
出店は『長浜』が認知されている地域を意識しているとのこと。
「『余呉湖を知っているよ』とか『黒壁に行ったことがあるよ』と言っていただけるような地域で販売するようにしています」
したがって、出店は滋賀県内か近隣の府県に限られます。『びぃふぁむ』が出店しているのは、以下のようなマルシェや道の駅です。
- おおつ国際ふれあいマルシェ(大津市)
- ANCHOVYMARKET(大津市)
- 傳光院ゆるり朝市(大津市)
- 近江神宮マルシェ”S”(大津市)
- Farmers’ Market(草津市
- びわ湖手作り市(草津市)
- エコルシェ滋賀(滋賀県内)
- NOTOイルミ(東近江市)
- 道の駅あいとうマーガレットステーション(東近江市)
- 湖の駅滋賀竜王(蒲生郡)
- お多賀さんde朝市(犬上郡)
- ひこねで朝市(彦根市)
- アイビーマルシェ(長浜市)
- 巡+マルシェ(京都市)
実際は上記以外にも多くの場所に出店しています。毎日のように異なる地域で出店しているので、どのように情報を得ているのか伺いました。
「マルシェに出店するとどんどん仲間が増えていくので、こ゚縁がつながってあちこち呼ばれるようになりました」
今ではマルシェ仲間も増えたと言います。商品の横にレイアウトしているいくつかの小物はマルシェ仲間の作品。注文して作ってもらったものもあれば、イメージに合うものを選んで購入させていただいたものもあるそう。
『びぃふぁむ』の詳しい出店情報は、公式Instagramをご確認ください。
今回、取材に訪れた場所は長浜市内の『常照院アイビーホール』(長浜市木之本町)でした。『常照院アイビーホール』では、葬儀場の定休日である毎月1日に『アイビーマルシェ』を開催。『アイビーマルシェ』には、塩さんも毎回出店しています。
「地元での販売については、地元の方から貰う方が多い状況なので、販売にはつながりにくい印象があります。でも、やはり地元は大切です。地元の自然の豊かさを再認識し、誇りをもって自慢に思っていただける商品をお届けしたいと思っています」
養蜂家の道は蜂蜜とは異なり甘い話ばかりではないようですが、今後も『長浜PR隊』としての活躍に期待しています。