「ジンバブエに2カ月ほど、仕事で行っていたことがあるんです。そこでは街中で飲みながら歩いている男性を良く見かけました。現地の人に尋ねると仕事がないからだと」
ジンバブエではお酒が安いから、職がなく食もない状況を、お酒で満たしていたのかもしれません。
「インドネシアでも同じような感じでした。働く場所がないから、親が我が子に物乞いのようなことをさせる。そして親もまた、そうやって育ってきたんですよね」
そう語るのは現在「ORIKAGO」というケニア女性のハンドメイド籠の輸入販売をしている石黒唯奈さん(32歳)です。
「どうして、生まれた場所が違うだけで、学校に行けなかったり、ご飯が食べられない子がいるんだろう」
幼い頃からそう感じていた彼女は、大学時代に多くの途上国を旅し、4年生の時にはオーストラリアに留学して英語力を磨きました。その後、グローバルな視点を持った会社やNGO団体で語学力を生かしながら、教育の分野で途上国に関わってきました。
しかし前述した二か国での体験が彼女の根本的な考えを覆しました。
「最初は途上国への関わり方として教育に興味があったんですけど、教育は親の収入、つまり、親の雇用がないと生まれないということに気づきました。そして雇用創出という入口で探して出会ったのが『ORIKAGO』だったんです」
教育支援ではなく、雇用創出こそが根本的な解決策
「ORIKAGO」は「アフリカの農村で仕事を作る」がミッションの会社です。それは設立当時のメンバーが海外ボランティア経験者だったこともあります。
アフリカの都市部では女性も教育を受けて社会進出を果たしている人も多いですが、農村部となるとまだまだそうではありません。
女性たちは働く意欲があります。「ORIKAGO」の工房がある「マチャコス」では子ども達も教育を受けています。
しかし教育の質や生活の質という面ではまだまだです。
そのために、現地で女性たちが作っている、サイザルという植物を使ったカゴに注目しました。
これを日本で販売すれば、きっと彼女たちの自立支援につながると思ったのでしょう。
生命力が強く、サステナブルな資源としての植物「サイザル」
サイザルとは農村部に自生している植物です。その繊維は丈夫で長持ち、さらに洗えることから繰り返し使えるため環境にやさしいです。また、美しい光沢を持っており、染色することでより鮮やかな色合いになります。
石黒さんは、雇用創出もそうですが、この商品にも惹かれたそうです。
「本当にカゴが好きなんですよね。使い勝手がいいし、折り曲げることもできる。便利で可愛いというのが気に入ってるんですよ」
自分の扱う商品が好きで自信を持っている石黒さんの話しぶりがイキイキとしていて、若い女性のヒューマンパワーを感じました。
「そして、その大好きなカゴがケニアの女性の雇用創出につながっている。このカゴ自体が本当に広まってほしい。その裏で遠く離れた人達の生活が少し豊かになるという、この循環の全てが良いと思っているんです」
冬でもストールを合わせれば素敵
「好き」と「課題感」が一致したはずなのに
こうして石黒さんは、自分に合った働き方を見つけましたが、もちろん苦労はあるわけです。
「今までは教育の面からアプローチしていましたが、今度はビジネスです。ある程度の線を引いておかないと…難しいんですよ」
石黒さんが言葉を濁したのには訳があります。途上国の人々は我々日本人が豊かだと思っており、お金を要求することは悪いことではないと思っています。
「会った途端に、お給料の話になったりするんですよね(笑)そして子供たちもそう。一緒にコミュニケーションの一環で遊んでいたと、こちらが思っていても、私が帰国する時には(~を買って来て)みたいな手紙を寄越すんです(笑)」
悪気がないのはわかっていても、複雑な心境だったようです。毎回、お土産を持っていくと当たり前になってしまう。しかし、一緒に遊んだ時間が楽しかったことの気持ちは伝えたい。そこで石黒さんはキャンディなどを持っていくようにし、小さなコミュニケーションから現地に慣れて行きました。
【後編】はこの子たちの母親に起きた変化をお伝えします。