石黒さんは年間2~3か月をケニアで過ごします。学生時代からさまざまな途上国を旅してきたとはいえ、2~3か月もケニアの農村部にいると精神的に疲れることもあるのではないでしょうか。
「ありますよ。でもそんな時は、海外ボランティアで滞在している人や、同じ境遇で頑張ってる人を探してコンタクトを取り、話をします」
素晴らしい行動力ですね。どんなにビジネス面において長けていても、メンタルが伴わなければ仕事にも支障をきたします。
それを未然に防ぐ行動力が彼女の最大の武器だと思いました。
明らかに見えた彼女たちの変化
アフリカの文化なのでしょうか。時間を守らない、放っておくと休憩ばかりでサボっていることがよくあるそうです。本当に悪気はないのです。
しかしある日、一人の女性が「品質の向上を上げたい」と言ったそうです。プロ意識の目覚めです。石黒さんはとても嬉しく思ったそうです。
苦労もある中、自分でストレスコントロールもしてきた彼女の中の喜びはとても大きかったことでしょう。これはきっと彼女の中で「好きな仕事」に「やりがい」を見つけた瞬間だったかもしれません。
「日本人からしたら、たいしたことではないかもしれないんですが、ちゃんと時間を守るようになったんですよね。黙って休まない。休憩時間を守る、とか日本人から見たら当たり前のことができるようになってきたんです」
彼女たちに意識改革を起したのは、石黒さんの現地での奮闘ぶりでした。
明確なサイズを計測し、毛羽立ちをカットし、自ら工房で共に働く石黒さんに、アフリカの女性たちは感化されたのだと思います。
こうして、現地でも信頼を得ていった石黒さん。ある時、シングルマザーがやってきて仕事が欲しいと言いました。経済的余裕がないのは分かりました。
アフリカでは、エクステを使って髪型をアレンジするのが一般的ですが、彼女はずっと坊主のような状態でした。それがある日、彼女はエクステを付けていました。美容院に行く経済的余裕ができたのです。そしてそれまで使っていた旧型の携帯電話がスマートフォンに変わっていたそうです。
この「プラスアルファ」の質の向上は、ますます現地の女性たちの働く意欲に変わっていったでしょう。
ケニアの女性たちと共に、更なる挑戦へ
さて、石黒さんは日本では生産担当ではありません。「出店担当」もしているのです。
実は「ORIKAGO」は日本で実店舗を構えていません。それはいろんな催事に出店することで、より多くの人に「ORIKAGO」の存在を知ってもらいたいという気持ちもありますが、カゴは場所を取るため、実店舗を構えるとなると、それなりのコストがかかるのです。
しかし、全ての種類のカゴを見たいお客様に、実際の商品を手に取ってみてもらうためには、やはり目標は実店舗を構えることだそうです。
そのために今は、手に取りやすい価格の小物の生産に力を入れているそうです。
ケニア女性の仕事への意識が高まった今、きっと新しい挑戦にも挑んでいくと思いました。
小さな一歩でもなく大きな一歩でもない、しかし確かな一歩
「実は私は、うちの会社があるからと言って、現地家庭の生活が180度変わるとは思っていないんですよね。私たちができることって本当に一握り。ちょっとしたことなんです。例えば毎日の食事が1品増えるとか、正直そのレベルのことなんです。今のこの事業規模や人数を考えるとこれ以上はむずかしいんです」
それでも石黒さんはこの「食卓の一品」が日々の暮らしの質を上げていると思っているはずです。そしてそれは大きい社会改革ではありませんが、私は「確かな一歩」だと感じました。これは、暮らしに彩りを添えると言う意味で、「ORIKAGO」の収納カゴと一緒ではないでしょうか。
今は「小さくても確かな一歩」も、これからきっと「大きな一歩」に発展していきます。
異文化で生きてきた現地の女性に意識改革を起した石黒さんならきっとできると、インタビューを終えて感じました。