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フード  |    2024.06.30

紀州の梅干し屋を牽引する⁉︎和歌山県・みなべ町の新星「梅ボーイズ」に密着【前編】

「今年も、梅を漬けなくちゃ」。青梅の旬を少し過ぎ、すでに完熟梅が市場に並ぶ6月末ーーふとそんなことを考えている方も多いのではないでしょうか。程よい甘味と酸味が特徴の梅シロップや、和洋どちらの料理にも馴染む梅酢……。一般家庭の「梅しごと」で作り出せるものは多いですが、そのなかで最も古くから親しまれてきたといえるのが、梅干しです。

今回は、南高梅の産地として名高い和歌山県日高郡みなべ町で、昔ながらの梅干しづくりを受け継ぎ、次の世代につなげようと奮闘する若者たちの姿に密着します。

「昔ながらの梅干し」を、移住メンバーと共に再び食卓へ。

「梅ボーイズ」リーダー・山本将士郎さん。
和歌山県・みなべ町にある梅畑「学校裏」にて。畑は町内に6ヶ所もあるという。

「梅ボーイズ」リーダーの山本将士郎さん。明治37年(1904年)創業の梅農家を兄と共に受け継ぎ、115年の時を経て令和元年(2019年)に梅干し屋「うめひかり」を開業しました。調味液を使った梅干しが主流になっている昨今、「塩と紫蘇だけで漬けた『昔ながらの梅干し』を残したい」と活動を開始しました。

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「梅ボーイズ」のメンバーたち。
現在、「梅ボーイズ」のメンバーは全員で10名。随時、新規メンバーを募集している。

「梅ボーイズ」は、梅農家兼、梅干し屋の「うめひかり」に所属する、20〜30代の若手運営メンバーの総称。彼らは、プロの「梅しごと」にとどまらず、梅栽培の過程で出る資材を活用した新アイテムの開発や、「みなべ・田辺の梅システム」(※1)と連携したウバメガシの植林活動などにも力を入れています。

さらに注目すべきは、農業・林業の現場経験が豊富なメンバーのほかに、某有名国立大学の大学院生や大企業の社員を経て、和歌山県へ移住してきたメンバーが多いこと。

「梅ボーイズ」の広報を担当する白石 舞さん(2024年1月入社)と、営業を担当する松谷 元喜さん(2024年2月入社)。

ーーどういった経緯で、「梅ボーイズ」の一員として働くことになったのでしょう?また、実際に働いてみていかがですか?

新メンバーのお二人に聞いてみました。

(以下、敬称略)

白石:山本とは、うめひかり創業前からの知り合いです。創業後に入社を打診され、迷った末に転職を決めました。私はもともと全国転勤していて、紀南に住んでいた時期もあったので、移住自体に抵抗はありませんでしたね。入社直後は、前職の省庁に勤めていたときと比べて、なんでも自分でやらなきゃいけない部分に大きなギャップを感じました。今は逆に、ある程度自分の裁量で仕事ができる楽しさを感じています!

松谷:もともと神奈川県横浜市で働いていて、「梅ボーイズ」のWebまわりをお手伝いしたことをきっかけにメンバーになりました。大手を辞めて、全然知らない農業の世界に飛び込むなんて絶対合理的じゃないけど、山本さんの根っこにある梅への情熱に「面白い!」と共感して……いつの間にか移住してました(笑)。僕を含めたほかのメンバーも他県からの移住者がほとんどで、今年初めて梅の収穫期を経験します。…今の「梅ボーイズ」は、梅干し屋でありスタートアップ企業でもある、って感じ。仲間と、みなべ町の皆さんと連携しながら事業を立ち上げていく感覚が、めちゃくちゃ面白いですよ!

松谷さんが語るように、「梅ボーイズ」はまさに、新たなビジネスを立ち上げる若手スタートアップ企業のような雰囲気。「紀州の伝統を守る梅干し屋さん」という看板を掲げつつ、次の時代における農家のあり方を模索しつづけています。

山本:みなべ町の皆さんは、若手の僕らがいきなり新しい取り組みをしても、温かく見守ってくれます。地方では「出る杭は打たれる」風潮が強い、なんてよく言われますが、移住者が多いメンバーのことも受け入れてくれている感じがしますね。

全国の若者とつながり、後継者不足の現実に立ち向かう。

みなべ町の「地域一体となって、第一次産業を盛り上げよう」という空気は、古くからこの土地に根付く農業システムゆえのもの。この地域では、梅農家が植えたウバメガシの薪炭林が、世界から注目されるブランド炭・紀州備長炭の原料になっています。

さらには、備長炭をつくる炭焼き職人が薪炭林を適度に拓伐(※2)して森林の状態を保つことで、里山から川へ流れ出す水の量を調節し、地滑りや河川の氾濫を防いでいるのです。

このように、梅農家と炭焼き職人が密接につながるみなべ町には、今、深刻な課題があるといいます。

山本:みなべ町で長年問題視されているのは、圧倒的な後継者不足です。梅農家も、炭焼きも、同じ悩みを抱えていますね。なかでも急な斜面に梅の木を植えている梅農家では、高齢化により、過酷な現場での作業が難しくなってきているんです。

「梅ボーイズ」では、三重県南牟婁郡御浜町への畑の拡張をきっかけに、SNSで全国からアルバイト人員を募集。農業に関心のある若者たちや新規移住者、地元に住む人々との交流を積極的に開始しました。

こういった交流以外にも、地域にある耕作放棄地の再生を試みる「農林部」の結成や、機械工学・プログラミングを得意とするメンバーによるDX化計画など……新しい施策が盛りだくさん。

梅の実についたキズの画像を収集し、AIに読み込ませることで、実の選別を自動化⁉︎

そして後編では、梅干し界の風雲児・「梅ボーイズ」が林業に進出……!?進化しつづける彼らの、新しい取り組みについてご紹介します。お楽しみに!

▶︎紀州の梅干し屋を牽引する⁉︎和歌山県・みなべ町の新星「梅ボーイズ」に密着【後編】

ーー「梅ボーイズ」若手社長、林業界へ進出⁉︎

【用語解説】

※1)江戸時代から約400年続く、和歌山県日高郡みなべ町・田辺市の農業システム。山の斜面に薪炭林を残しつつ梅林を配することで、水源涵養や崩落防止などの機能を持たせ、高品質な梅を栽培する。また、薪炭林ではウバメガシを原料に紀州備長炭を生産。そこに生息する二ホンミツバチが梅の木へ花粉を媒介してくれる。このような自然循環を人の手で保つことにより、豊かな農業・生物多様性を維持している。このシステムは、2015年12月に世界農業遺産(GIAHS)にも登録されている。

※2)炭づくりに適した太さの枝を必要なだけ切り出し、細い枝を残しながら後継樹を育て、森林の更新を図る伐採方法。

公式HP:
梅ボーイズ | 甘くない、梅干し屋
株式会社うめひかり
和歌山県日高郡みなべ町晩稲505-1
TEL:0739-74-8020(平日9時~12時、13時~16時)
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YouTube:
梅ボーイズ – YouTube
▶︎「梅ボーイズ」リーダーの山本将志郎さんが、プロの梅しごとを伝授!

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この記事を書いた人

谷口 由佳

東京都⇔鹿児島県の二拠点生活をお試し中の20代編集ライターです。日々の暮らしと演劇をこよなく愛しています!「衣食住」にまつわるインタビュー・原稿を通して、さまざまな【暮らし=生き方】をご提案。日本のよいもの知り、全国に広げていきたい!という思いからMediallで活動中です。

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