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アート  |    2024.09.09

渦巻くアートの奔流 下山芸術の森発電所美術館|富山県下新川郡入善町【後編】

水力発電所をリノベーションして作られた富山県下新川郡入善町の下山(にざやま)芸術の森発電所美術館。

前編では、発電所美術館の特色や過去の企画展についてご紹介しました。後編では、その舞台裏や発電所美術館のこれからについて、公益財団法人入善町文化振興財団局長代理 総務係長・発電所美術館担当の上田智文さんにお聞きします。


発電所美術館の特色や過去の企画展についてご紹介

渦巻くアートの奔流 下山芸術の森発電所美術館|富山県下新川郡入善町【前編】

アート制作の舞台裏

これまで14年にわたって下山芸術の森発電所美術館を担当してきた上田さん。企画から交渉、現地制作のサポートなどを一手に引き受けている。

「発電所美術館は、水や土を持ち込んでもOKという自由な環境なので、毎回突拍子もないようなアイディアが生まれてきます。普通の美術館ではできないことを面白がってくださって、これまでにやったことのないことに挑戦される作家さんが多いんです」

(公益財団法人入善町文化振興財団局長代理・総務係長・発電所美術館担当 上田智文さん)

もともと上田さんは、公益財団法人入善町文化振興財団が運営する入善町民会館コスモホールで、照明を中心にホール業務全般を担当していた。そのため美術館での仕事は当初は手探り状態だったが、その異色の経歴はプラスに働いた。

上田さん「作家さんは1ヶ月ほど美術館付属の宿泊棟に寝泊まりして制作されることも多いんです。一緒に飲食を共にして準備を進める中で、演出や効果について本当はこうしてみたいんだけど、実現できるだろうか』などと相談されることもあるんです」

上田さんにとって契機となったのが、宇治野宗輝さんの「オーディオ・ディストーション・ダズ・ノット・ディストート・マター」展(2016年)。展覧会の内容は、自転車やギターといった大量生産品が奏でるノイズを使ったサウンドスカルプチャー(音響彫刻)を展示するというもの。

この作品にはひとつの課題があった。作品の性質上、宇治野さん本人が現地で操作(演奏)しなければならないため、長期展示が難しいという点だった。

打ち合わせの際、宇治野さんは「長期展示したいという思いはあるが、自分が不在の時は制御できない部分がある」と相談。上田さんが「MIDIベースで制御しているのであれば、MIDIのショープログラムを組んで制御信号を流せば、照明機材の複雑なコントロールなども簡単にできますよ」と提案したところ、宇治野さんはこれを取り入れ、長期展示が可能となった。宇治野さんはこの手法を使って、翌年のヨコハマトリエンナーレ2017などでもこのシリーズの長期展示を実現している。

これを機に、上田さんは演出や効果の面でもサポートを行うようになった。

宇治野宗輝「オーディオ・ディストーション・ダズ・ノット・ディストート・マター」(2016/6/18~2016/9/4)

新たな挑戦 V tuberとのコラボ

音響や照明、映像を取り込んだ試みはさらに進化を遂げる。昨年、音楽系Vtuberとして活躍するアーティストとコラボし、「ネット社会における音楽」に着目した展覧会【Nizayama Action Project [Parallelscape](パラレルスケープ)】を開催(2023/2/11〜2023/3/19)。発電所美術館をテーマにしたオリジナル楽曲とMV、その世界観を表現したグッズが制作された。

展覧会の様子(下山芸術の森発電所美術館インスタグラムより)https://www.instagram.com/p/Co0q_OCSdqy

参加したアーティストはMaiRMarprilBOOGEY VOXXの3組で、北海道から沖縄まで、全国からファンが集まった。中には、車をキャラクターで装飾したいわゆる「痛車」で駆けつけた来館者もいたのだとか。

開かれた発電所美術館へ

発電所美術館で展示されるのは、難解だと思われがちな現代アートが中心だが、この美術館では作家と美術館、来館者との距離が近いように感じられた。展覧会の楽しみ方や、美術館のこれからについて上田さんに伺った。

現代アートを楽しむコツ

「こちらでは、素材や技法の説明をしたり、注目ポイントを伝えることはありますが、解釈は伝えません。毎回、作家さんはここまでいろんな要素、伏線を盛り込むのかという驚きがあって、それを自分で解き明かすのが楽しいんですよね。だからその楽しみをお客さんから奪うようなことはしません。正解はないので、いろんなふうに妄想を膨らませてほしいですね」

キュレーションの可能性

「他では見られないような、感情に作用するようなものを選定していますが、ほぼ一人で企画していると、偏ってしまうという弊害があるんです。だから自分ではなく違う方のキュレーションだとどうなるのか、違う手法、視点がどのように作用するのか見てみたいと思っていて。そうすればもっと変わったことができるようになるんじゃないかな」

発電所から姿を変え、アートを発信するようになった発電所美術館は、さらに開かれた美術館へと変貌を遂げる時期を迎えているのかもしれない。

散居村を一望できる展望塔とカフェ

発電所美術館のもう一つの楽しみは、美術館横の長い階段を上った先にある。

階段の勾配が途中から急になるので足元にご注意

階段を上りきると、ひらけた台地に赤レンガの建物がふたつ並んでいる。展望塔とイベントスペース「くりこバザール」だ。「くりこバザール」の建物は発電所時代の水槽上屋を改装したもので、イベント時にはカフェ「くりこども飯店」のご飯が楽しめる。

くりこバザール https://www.instagram.com/kuriko_bazzar/

展望塔(左)と「くりこバザール」(右)

展望塔からは360度のパノラマを一望できる。黒部川扇状地の散居村の眺めは一見の価値あり!

展望塔からの眺望。奥で銀色に光っているのは富山湾

かつての水力発電所が、今はアートの奔流でエネルギーを生み出している。どの作品もここでしか見られない一期一会のもの。訪れた人はきっと感情を揺さぶられるような体験に出合えるはずだ。

Information

下山芸術の森発電所美術館
住所:富山県下新川郡入善町下山364-1
電話:0765-78-0621
開館時間:午前9時~午後5時 (入館は午後4時30分まで)
休館日:(月)、祝休日の翌日、年末年始

※展示替え期間中は2週間から1ヶ月程休館しますので、ホームページなどでご確認ください。
詳しくはこちらまでhttps://www.town.nyuzen.toyama.jp/gyosei/soshiki/bijutsukan/908.html

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この記事を書いた人

いよはち

富山県出身・在住の取材ライターです。以前の職は、記者/秘書/司書の三段活用。富山の魅力を余すところなくお伝えします。ペンネームは大学の時のニックネームから。「いよはち」は数字で書いて「148」でして、これは私の身長に由来します。恐らく富山で一番小さいライター。その場にいなければわからないこと、知り得ないことをお伝えする記事を書きます!

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