栃木県下都賀郡野木町。県内で最も面積の小さい町ながら、都内への通勤・通学に便利なベッドタウンとして人気です。そんな住宅街の一角で、同県産の無農薬、減農薬の果物を使い、こだわりのジャムを作っているのが61+(スワソンテアン)の五十嵐洋子さん。ジャム作り歴40年の森田京子さんを相棒に、今日もジャムを仕込んでいます。
今回は、ジャム作りを始めた意外なきっかけや、ジャムに込める想いについてお話を伺ってきました。
ローカルな暮らしを豊かにする創作活動
ご自宅のキッチンをリフォームしたという工房では、和梨のジャム作りの真っ最中。材料の幸水は、農家で摘果されたものを使っています。
旬の果物と砂糖、手絞りのレモンというシンプルな材料のジャムは、果物のみずみずしさをそのまま瓶に閉じ込めたようなフレッシュさです。
「出荷できない果物を活用したジャム作りは農家さんからも感謝され、とてもやりがいを感じています」と語る五十嵐さん。ですが、越してきたばかりの頃は町の暮らしにどう馴染めばいいのか分からず戸惑う日々でした。
「野木町は今まで住んだ中でも1番ローカルで、知り合いもいなくて、どうやって過ごそうかなと頭を悩ませました。都会の暮らしは消費するものがたくさんあるから、時間も寂しさも埋まっていく。でもここではどうもそういう過ごし方は難しそうだと気づいたんです」
そんな折、とあるアート系NPOと出会いスタッフとして働き始めます。そして美術家やダンサー、音楽家といったアーティストと時間を共にするうち、自分も何かを創り出す人になりたいと思うようになりました。
「創作活動をすれば、野木町での暮らしはとても豊かになるという予感があったんです」
そこから一念発起して美術大学に入学。おもてなしについてデザインやPRの観点から学び、最初に取り組んだのが「farm to table」をテーマにした「スープ活動」でした。活動内容は畑仕事を体験したあと、畑の野菜を使ったスープを食べてゆっくりとランチタイムを過ごしてもらうというもの。でも地元の人たちにとって畑仕事は楽しむイベントではなかったようで……?
「楽しそうって来てくれるのは、ほとんど東京の友人。この辺りの人は畑なんて珍しくないし大変だから、食べるときに呼んでって言うんです。食べたことのない料理を食べられてうれしいからって」と笑う五十嵐さん。
そこで地元のニーズにも応えようと、スープ作りのワークショップを始めました。
「保存食」に惹かれて始めたジャム作り
しかしコロナ禍で、対面でのワークショップの開催も難しい状況に。そんな中、自宅でいろいろな料理に挑戦するうちに、食を支えてくれる保存食作りに魅力を感じるようになったと言います。
「私にとって保存食はいざというときにとても頼りになる存在。忙しいときや体調の優れないときに、自分で作っておいた保存食があれば、たとえ質素であっても満足感を得られます。手間暇かけているからこそのうま味やおいしさがありますから」
一方、野木町に住んで気がついたのは、農作物が余剰になることが多く、価格を下げたり破棄しなければならないという産地ならではの悩みでした。
「それなら 『保存食』をキーワードに、私のできることとマッチングできたら嬉しいなと思ったんです」と五十嵐さん。
そこで、料理教室で出会ったジャム作りの達人、森田さんとタッグを組むことにしました。森田さんはジャムを作り続けて約40年。結婚して家を出た娘たちは、今でもジャムがなくなると必ず森田さんの作ったジャムを持って帰るそうです。
「私1人だと家族が食べる分を作るので精一杯だし、それを広げることはできないので五十嵐さんが新しいフィールドで広げてくれるなら面白いなと思いました」と森田さんは言います。こうして2人のジャム作りが始まりました。