江戸時代から400年以上にわたって南高梅の一大産地として知られ、今もなお、住民のおよそ8割が梅づくりに携わる、和歌山県日高郡みなべ町ーー。そんな歴史ある町で、「昔ながらの甘くない梅干し」を守ろうと奮闘するのが「梅ボーイズ」のみなさんです。
「梅ボーイズ」とは、梅農家兼・梅干し屋である株式会社うめひかりの活動名。梅農家を志して各地から移住してきた20〜30代の若手を中心に、新しい農業のかたちを模索しつづけています。
今回は、そんな「梅ボーイズ」の新しい取り組みについて、リーダーの山本将士郎さんと、メンバーのみなさんにお話を伺いました。
梅干し屋が林業界に進出!?「半農半林」で町の未来を守る
(以下、敬称略)
ーー「梅ボーイズ」の新事業について、お話を聞かせてください。
山本:今年2024年から、みなべ町の耕作放棄地を減らす活動を本格的にスタートしました。耕作放棄地とは、一年以上作付けが行われておらず、ここ数年の間に再び耕作する意思のない耕地のこと。そんな土地を再活用するため、「梅ボーイズ」のメンバーが植林活動を行っていきます。
「梅農家と植林って、いったいどんな関係が……?」
そう疑問に思われた方も多いのではないでしょうか。実は和歌山県・みなべ町とお隣の田辺市には「みなべ・田辺の梅システム」という古くから続く農業システムが存在します。
かつてみなべ町では、梅を育てるために山の斜面に茂る「ウバメガシ」を伐採し、土地を開拓してきました。一方で、周囲のウバメガシを一部残しておくことで、水源涵養や斜面の崩落防止などの機能を持たせたのです。
このウバメガシを原木としてつくられるのが、良質な木炭として名高い「紀州備長炭」。みなべ町の人々は、地域の自然環境を保ちながら、南高梅と備長炭という二つの特産物を作り出してきたのです。
ウバメガシの植林から育成・管理までを一貫して行い、いずれは備長炭の生産にも挑戦するというのが、「梅ボーイズ」の新たな取り組み。「梅ボーイズ」は、梅農家・梅干し屋の枠を飛び越えて、地域の第一次産業における新たな循環を生み出そうとしているのです。
ーー「梅ボーイズ」で、ウバメガシの植林活動を行おうと思ったきっかけは何ですか?
山本:みなべ町では、梅農家の高齢化や、梅干しの需要低下などが原因で、年々梅畑の耕作放棄地が増えつづけています。耕作放棄地が増えると、バラ科の植物を好むクビアカツヤカミキリという外来生物の幼虫が大繁殖して、梅の木を食い荒らしてしまうんです。和歌山県に次ぐ梅の生産地・群馬県では、すでに多くの被害が確認されており、みなべ町で被害が出はじめるのも時間の問題です。そこで、若手を中心に活動する「梅ボーイズ」が耕作放棄地にウバメガシを植え、まずは管理されていない梅畑を減らしていこうと思ったわけです。
ーーなるほど、そんな背景が!耕作放棄地を梅畑として再活用するのではないのですね。
山本:以前から既存の梅畑を再生する道を模索していたのですが、山上部の急斜面地は土の栄養が少なく、梅の収穫量も平地と比べて6割程度であることがわかりました。つまり、採算が合わないんです。そこで、急斜面地にはウバメガシを植林し、約25年間かけて育成していくことにしました。まずは、山の自然環境を未来に向けて整えていくかたちですね。そして、比較的傾斜が緩やかな土地では、梅の有機栽培を行っていきます。いわゆる、「半農半林」ですね。
有機栽培とは、化学肥料や化学合成農薬、遺伝子組み換え技術を使わずに作物を育てる方法のこと。隣接する畑で消毒を行っていると実施できない栽培方法のため、山林に囲まれている耕作放棄地は、うってつけの環境ともいえます。
植林による環境への長期的な投資を行いつつ、梅栽培についても初の試みを行おうというわけなのです。
学生時代のつながりからはじまった「農林部」
続いて、新事業の中心メンバーである「農林部」の方々にも、お話を伺いました。
ーー「農林部」結成の経緯と、ご自身のことを教えてください。
梁:山本は大学時代からの親友です。結成のきっかけは、山本から唐突に「木、一緒に植えようよ」と電話がかかってきたことですかね(笑)。後日、直接会って話を聞き、世界一の特産品が二つもある町の未来を紡ぐ事業に携われることに大きな魅力を感じました。そこからは、とんとん拍子に話が進んでいって……。2022〜23年初頭には、山本と北海道や岩手県、高知県などをめぐりながら、たくさんの林業従事者の方にお話を伺いました。そしてついに同年2月、僕が正式にうめひかりへ入社。翌月には同社の別事業として、ウバメガシ植林を行う「農林部」が結成されたんです。
梅田:僕は、梁くんと大学のサークルが同じだった縁で声をかけてもらいました。もともと、一次産業に従事する人々や、害獣駆除などを行う地域のハンターの高齢化問題が気になっていたので、2024年4月に「農林部」へ加入しました。今は地域おこし協力隊として森林組合で働きつつ、みなべ町の畑や森林を獣害から守るべく、ハンターとしても活動しています。
ーーお三方とも出身大学が同じだったのですね。植林活動について、今後のスケジュールを教えてください。
山本:10〜11月には地元の方と協力してどんぐりを拾い、育苗をはじめる予定です。少なくとも2年ほどで植林できるサイズに成長するので、それまでに整地や獣害対策用ネットの設置、下草刈りなどの準備をしていきます。
ーーいよいよ本格始動ですね。新事業への意気込みをお願いします!
梅田:長年放置された梅畑の整地にはとても費用がかかるので「放置するくらいなら、植林しよう!」という流れを梅農家全体に広めたいですね。また、育苗や下草刈りにかかる労力をなるべく減らすため、機械の導入や、シカなどの獣害対策を意識した効率的な仕組みづくりをしていきたいです。
梁:数十年後、みなべ町が紀州備長炭の産地として生き残れるように、僕たち若者がどんどん動いていきたいですね!
山本:そうですね。また最近、地域の田んぼにいる生物が減っているなと感じます。生態系の豊かさも田舎の大きな魅力の一つだと思うので、まずは僕らができることを実践していきましょう!
これらの新たな取り組みは、「農林部」のメンバーを中心に、「梅ボーイズ」全員で取り組んでいくとのことです。
25年という長い年月をかけて、みなべ町の景色をも変えていくであろうこの事業。新たな自然の循環を生み出すには、長期的な視野が必要だと改めて気づかされます。
この活動に協力したい方、また、みなべ町で紀州備長炭を作る炭焼き職人として働いてみたい方は、ぜひ「梅ボーイズ」山本さんまでお問い合わせください!
新規就農者を巻き込み、梅農家としてもさらなる進化を!
時代に合った農業のあり方を考え、日々進化を遂げていく「梅ボーイズ」。新たな取り組みを前に、山本さんにはもう一つ、やりたいことがあるといいます。
山本:それは、僕たちの取り組みを知ってもらい、新規メンバーを増やしていくことです。3年後には少なくとも、20人くらいの仲間を集めたいですね。「梅ボーイズ」ではこれからも、新規就農者が農業に触れやすい環境づくりを行っていきます。
ーーそのように考えた背景を教えていただけますか。
山本:農業を始めるハードルが非常に高いと感じているからです。その原因は、研修先と農地の確保が難しいことにあります。人手不足が深刻な一次産業ですが、実は「移住してきて、新しく農業をはじめる若者に農園を託したい!」という方は少ないんです。農園長は息子に、というセオリーが未だに残っているためですね。なので、一から十まで教えてくれる場所はかなりまれだといえます。また、耕作放棄地は増加しているのに不思議に思われますが、農地を一から探すのもなかなか厳しいですね。農家が高齢化などで耕作をやめる場合、仲のよいお隣さんや親戚の方に畑を託す場合がほとんどなんですよ。
ーーそうなんですね。「梅ボーイズ」は、移住者の方でも仕事がしやすい環境なのでしょうか?
山本:30代前後の若手が中心となっている会社ですし、メンバーのほとんどが他県からの移住者なので、比較的飛び込みやすい環境ではあると思います!また梅農家は、売上が立つまでに時間がかかるといわれていますが、うちは社員として働いてもらうかたちなので、生活への不安も解消できると思います。
ーー私も6月の収穫期に2週間ほどお手伝いをさせてもらい、大変楽しいひとときを過ごさせていただきました。最後に、「梅ボーイズ」が気になる!という方にメッセージをお願いします。
山本:先に述べたような新規就農への難しさを解決するために、「梅ボーイズ」は結成されました。植林活動などの新規事業はもちろん、まずは梅づくりから、若者たちがはじめたくなるような農業のかたちをつくっていきます。僕たちと一緒に働いてみませんか?ご連絡、お待ちしています。
「農業に興味があるけれど、最初の一歩が踏み出せない!」とお悩みの方は、ぜひ一度、門を叩いてみてはいかがでしょうか。
梅ボーイズ | 甘くない、梅干し屋
株式会社うめひかり
和歌山県日高郡みなべ町晩稲505-1
TEL:0739-74-8020(平日9時~12時、13時~16時)
▶︎各種お問い合わせは コチラから。
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