瀬戸市北部の閑静な住宅街に店舗を構える「四季乃舎(しきのや)」さんでは、本格的なおいしいちんすこうを取り揃えています。
前編では、瀬戸を表した逸品や筆者おすすめのちんすこうをご紹介しました。
後編では「舎主」加藤健さんに、瀬戸の地で遠く離れた沖縄名産のちんすこうを作ろうと思ったきっかけやお店に対する思いを伺いました。
瀬戸でちんすこうを作るに至るまで
ーー瀬戸市でお店を構えるきっかけは何だったのでしょうか?
私は瀬戸市出身で、この店舗は実家を改築したものです。
一時期、沖縄に10年ほど住んでいて、本当は沖縄で出店しようと思っていました。
ただ、予算的に難しかったんです。
両親に相談したところ「実家の一角で小さく始めたら」と言ってもらえたので、地元の瀬戸市で店を構えることにしました。
ーーなるほど。では、なぜ地元で沖縄のちんすこうを売ろうと思ったのでしょうか?
妻が沖縄出身なんです。
お中元などの贈り物に添えていた、手作りのちんすこうの評判がよくて「商売にしたらおもしろいのではないか」と思いついたんですよ。
さらに、沖縄でも手作りちんすこうを専門でやっている店はなかったので、それを愛知県でやったらおもしろいんじゃないかと。
ーー沖縄では、ちんすこうを手作りする家庭が多いのでしょうか?
多くはないと思いますよ。
妻の実家では、親族が集まる機会に甘味の一つとしてちんすこうを作っていた、と聞きました。
妻は小さい頃からお祖母さまの手伝いをしているなかで、作り方を覚えたようです。
元祖のプレーンちんすこうはお祖母さまのレシピをそのままに作っています。
伝統の味を感じていただきたいので、あえて変更していません。
「伝統型ちんすこう」を作る秘訣
ーー伝統の味を守る気持ちが素敵ですね!しかし、こちらのちんすこうは沖縄で見るちんすこうと形が違うようですが。
元々はうちのような小判型だったそうです。
アメリカ軍のクッキー型を使って大量生産できるように改良したのが、現在よく見るちんすこうだと言われています。
ーーだからこちらのちんすこうは「伝統型」と謳っているのですね。
でも、私自身ちんすこうのことは知らずに妻が作るちんすこうを好んで食べていたんですよ(笑)。
いざ妻から作り方を教わって作ってみると、一度に多く作れなくて大変でした。
型抜きできるように作ってみたことはありますが、ボロボロになってうまくいかず、苦戦しまして……。
結局、手でまとめることになり「伝統型」に落ち着いた、というわけです。
ーー「四季乃舎」さんのちんすこうは甘さ控えめなので、個人的には沖縄のちんすこうより好みです。
ありがとうございます。
クッキーに近いですが、このちんすこうはコーヒーや紅茶、沖縄のさんぴん茶(ジャスミン茶)にも合う味だと思います。
飲み物を選ばないことで、皆さんに受け入れられるとうれしいですね。
「伝統型」から「瀬戸」を味わえるちんすこうへ
ーーこちらは瀬戸ならではの商品、例えば瀬戸焼の釉薬が由来の商品が揃っていますよね。
瀬戸の手土産に使っていただきやすいように、瀬戸焼を連想できるものを、と考えました。
愛知県らしさで言えば「八丁味噌」もそうですね。
これは自分のなかでの課題でした。
最初は硬くて食感も悪くなってしまって大失敗(笑)。
自分が納得できるものが作れるようになるまで、粉の配合などかなり試行錯誤しましたね。
当時、まだ小さかった子どもたちにこっそりと出したところ、むしゃむしゃと食べていたので合格!となったわけです。
ーー地元とのつながりを感じる商品を揃え、満を持してちんすこう屋さんをオープンすることになったのですね。
2010年1月より営業を始めて、来年で16年目になります。
はじめは、7種類からスタートした商品も今では26種類を店頭に並べるほどになりました。
両親が同じ名前の「四季乃舎」という飲食店を以前から営んでいて、同じように親しみを感じる名前をちんすこう屋にも名づけました。
看板も同じように、父が両方の店に手作りしたものです。
ーー立派な看板ですね!では、個人でお店を続ける良さは何でしょうか?
以前は飲食店に勤めていて、月500時間ほど店にいたんですよ。
独身のときはよかったのですが、結婚して子育てをしながらとなると、難しく思えてきました。
それが自宅兼店舗でやりたかった理由で、現在のスタイルに落ち着きました。
仕事のかたわら、子どもたちの勉強を見たり、会話をしたり、と関わりが持てますし、運動会などのイベントにも時間がつくりやすいのが良いと思っています。
ーー今後、瀬戸と共存していくという点で心がけたいことは何でしょうか?
瀬戸焼は引き続き意識して、瀬戸焼の色と同じく、ちんすこうの色も彩っていきたいです。
「エンゴロ」という焼き物を作る際、製品を保護する型があるのですが、色だけでなく、形からも瀬戸を連想できるようなちんすこうを作っています。
こういった地元とのつながりは大事にしていきたいです。
「瀬戸で作っている」という点をアピールできるものを生み出していきたいですね。
ーーでは、挑戦したいことはありますか?
地元に根付いていく商品を作り続けることです。
名古屋名物と言えば、味噌カツ、天むす、ういろうなどが思い浮かびます。
これらは元々、愛知県発祥ではないんですよ。
でも長く提供していくことで地元の名物になっていった経緯があるので、ちんすこうもひたすら根気よくやっていけば瀬戸の名物にならないかなと考えています。
定年を迎えた子どもたちが少しずつでもちんすこうを焼いて、孫が店を継いでいる頃には名物になっているかな、と希望を持っています。
おわりに
沖縄から持ち帰ったちんすこう作りの技術を、地元・瀬戸とうまく融合させた加藤さん。
伺った話からは地元・瀬戸を愛する気持ちがしっかりと伝わってきました。
皆さんも、瀬戸と沖縄を感じられるちんすこうをぜひ味わってみてくださいね。
店舗情報
名代ちんすこう 四季乃舎
住所:〒489-0905 愛知県瀬戸市はぎの台4-46
TEL:0561-48-2275
営業時間:9時~17時
定休日:火曜日・水曜日(臨時休業あり)
郵送代引も可
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