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アート  |    2026.02.07

大正の記憶を今につなぐ|町と響き合う「 参州足助寿ゞ家界隈芸術祭2025」

香嵐渓の紅葉でも有名な愛知県豊田市・足助町は、かつて三河と信州・美濃を結ぶ交通の要衝として賑わいを見せた場所。巴川の流れと山々に囲まれたこの町には、江戸時代から続く町並みが今も大切に残されています。

重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている足助の町並みは、商家や蔵など、商家町の痕跡が随所に見られるもの。町屋や蔵を改装したカフェやギャラリーもあり、観光地としても人気を集めています。

そんな足助町で、大正時代に建てられた元料亭「寿ゞ家」の建物を起点に、町の記憶と現在をつなぐ芸術祭が開かれました。今回は多彩なアートが溶け込んだ足助の風景を、写真とともにお伝えします。

大正期の料亭から始まる、向こう三軒を舞台にした芸術祭

足助の町並みの中心部にある寿ゞ家は、かつて「足助一の名料亭」と言われた場所。江戸期~明治期には旅籠として、大正期~昭和期には料亭として芸者たちが出入りする華やかな社交の場でした。

大広間や茶室などを備え、数々の客人をもてなした寿ゞ家ですが、時代の流れには勝てず1983年頃に廃業。20年以上放置された結果、庭は荒れ、柱は朽ち、廃墟同然の状態になってしまいます。

そんな寿ゞ家の再生に乗り出したのが、芸術祭の実行委員でもある天野さん。天野さんを中心とする町づくり団体・地域人文化学研究所による「寿ゞ家再生プロジェクト」では、建物内外の整備や本館の改修工事などが行われました。

こうして再び息を吹き返した寿ゞ家は、今回の芸術祭における象徴的な拠点に。寿ゞ家から続く街道脇の小道や、江戸時代の町屋建築が残る旧田口家住宅など、「向こう三軒両隣」に点在する空間が展示会場となりました。

町に溶け込む22組のアーティストの作品(敬称略)

旧田口家

旧田口家住宅では「匠の伝統と創造展」として、5人のアーティストの作品を展示。江戸時代末期以前の建築とされるこの住宅は、奥行きの深い屋敷構えや高い天井など、町屋ならではの造りを今に伝えています。

≪聖廟へ かのうともみひさし≫

加納 登茂美(ともみ)、加納 恒(ひさし)によるユニット「かのうともみひさし」。隣接する小原の和紙を使用した作品は、国内外で高く評価されています。どこか懐かしいオレンジの灯りが、和紙の細やかな繊維を優しく照らし出していました。

≪イタリアの職人たちと日本の匠 俊寛≫

はるか彼方で同じ仕事をする職人たち。作者である俊寛はイタリアフィレンツェ滞在中、靴職人の工房に魅了されたそうです。

日本家屋にイタリア職人の息づかいが溶け込み、国を越えた「匠の心」が静かに通い合います。

≪無題 三州足助屋敷≫
日本有数の竹の産地である足助町は、日用品から装飾品まで多種多様な竹製品がつくられる町。昔ながらの手仕事はそのもの自体がアートになります。

奥の部屋ではユネスコ無形文化遺産にも認定された、綾渡の夜念仏(あやどのよねんぶつ)を描いた絵画も展示されていました。

≪憶念の夜 世界遺産平勝寺の夜念仏 曽剣雄≫

楽器を使わず、音頭取りの唄に合わせて下駄拍子だけで踊る「綾渡の夜念仏」。自然の闇に人々の想いと荘厳さが広がっていきます。

また、取材当日はモダンダンスのライブパフォーマンスも行われていました。

妖しさと清らかさが共存する、赤と白のコントラスト。小原和紙がスクリーンのように、パフォーマンスの迫力をいっそう深く、印象的なものに変えています。

地蔵小路

≪通りゃんせ 物部浩子≫

中国の路地裏に迷い込んだかのような、不思議な気持ちにさせる風にそよぐ赤い布。古い町並みに鮮やかな赤が映える光景は、思わずカメラを向けたくなる景色でした。

一隅舎(いちぐうしゃ)

寿ゞ家に隣接する一隅舎では、当時の記憶に寄り添うような空間と一体となった作品が展示されていました。

白と黒のコントラストが印象的な、豊田市在住のアーティスト石川泰弘の作品。静かな森へ誘われるような、不思議な奥行きが感じられます。

心地よい静寂に満ちた空間は、まさに森の中の瞑想部屋。天井から伸びる枝の影が、心の静けさを取り戻してくれました。

取材当日は石川さんご本人も在廊。「瞑想するのにぴったりですね」と言うと、穏やかな笑顔でうなずいてくださいました。

荒廃の中に点在するル・レクチェたちは、日本画家伊丹靖夫の作品。西洋梨の貴婦人とも言われるル・レクチェが、静かな眼差しで建物の記憶を見つめます。

寿ゞ家本館・新館

芸術祭のメイン会場寿ゞ家本館・新館では、11名の作品を展示。再生途中の寿ゞ家だからこそできる、完成された場所にはない展示が生まれていました。

≪昭和三十年頃の足助の町並み屏風図 からさわてるふみ≫
≪無題 伊丹三代志≫

入口すぐに展示されていた壁一面の屏風絵は、紀行作家からさわてるふみの作品。足助が一番栄えていた昭和30年代をダイナミックに描いています。

長野に続く塩の道を旅していた作者は、足助の町並みを気に入り、半年ほど滞在して住人から色々な話を聞いたそう。屏風絵の中央には、当時の寿ゞ家も描かれていました。

≪パンジーは目を伏せる 田原迫華≫

美しさとはかなさが同居する、彫刻家田原迫華(たはらさこ・はな)の作品。瞳を閉じた少女は足助の自然を背に、畳の上で何を思っているのでしょうか。

≪無題 安藤 豐邨≫

愛知県豊田市生まれの書家安藤 豐邨(ほうそん)の作品。畳敷きの座敷に立ち上がる力強い文字が、かつての料亭の賑わいを表しているかのようです。

下山のイラストレーターなかむらひろこの作品は、本館2階の天井や壁一面に。

荘厳な松が描かれた大広間に、優しいタッチのイラストや文字が表情をくわえます。重厚さとやわらかさが同居する空間が、時間を忘れて過ごしたくなる場となっていました。

≪Vessel 新實広記≫

異世界から運ばれてきたようなガラスのしずくは、豊田市出身のガラス工芸作家新實広記(にいみひろき)の作品。

和の空間に溶け込みながらも、どこか非日常的な気配を宿す美しいガラス。思わず足を止めて見入ってしまう、澄んだ存在感を放つ作品です。

≪無題 鈴木琢磨≫

豊田市内の高校で美術教員も務める鈴木琢磨の作品。つらなって庇を歩く猫たちは、まるで以前からそこにいたかのように自然と風景に溶け込んでいました。

≪Airscape(空気の景色)梶千春≫

身近な素材で表現を広げる梶千春の作品も、古民家の雰囲気に自然と馴染むもの。「Airscape(空気の景色)」と言うタイトル通り、空気そのものに感じられました。

≪壊すアート 紫乃≫

「壊すアート」を展開する紫乃の作品は来場者参加型。どこか不気味な雰囲気ながら、なぜか目が離せない光景が広がります。

≪壊すアート 紫乃≫

思うがまま紙を破り、糸を引き裂く時間は、高揚感と開放感を感じるひととき。壊すのではなく創造する行為として、来場者たちの感性が新たな作品へとつながっていきます。

本町区民館

本町区民館への通り抜けでは、2名の作品を展示。VJ、ダンサー、アーティストによるダンスパフォーマンスも開催されていました。

≪GROWTH RING 新宅雄樹≫

まるで足跡のような、ひときわ目を引く大小の赤丸は豊田市在住の画家 新宅雄樹(しんたくゆうき)の作品。誘われるまま歩いていくと、どこか遠い場所へ連れて行ってくれそうです。

≪Analogon 類同代理物 安野亨≫

「異世界を繋げるトンネルには夢と現が共存している」と語る、作者の安野亨。時空の彼方からやってきたようなオブジェは、蚕をイメージしたものだそう。

白を母、赤を父のようにも感じさせるオブジェと小さな赤い繭が、生命のつながりを思い起こさせます。

ダンスパフォーマンスでは、幼虫から成虫へ変化する繭の姿を、ダンサーの動きとVJの光映像、音響で立体的に表現。

光をまといながら姿を変えていくその姿が、鑑賞者たちの目と心を静かに惹きつけていました。

記憶が息づく町で、ゆっくり過ごす足助時間

町の記憶を舞台にした芸術祭は、歴史ある足助の魅力をより身近に感じさせてくれるものでした。

民家や商家の軒先に雛人形や土びなが並ぶ「中馬のおひなさん」や、約4000本のもみじが色づく秋の香嵐渓などもこの町を訪れる楽しみのひとつ。

四季折々の景色が広がる足助で、ぜひゆっくりと町並み散策を味わってください。

本芸術祭実行委員の天野さんが制作に携わった書籍「名古屋発 日帰りさんぽ」は、足助をより深く知るための一冊として、町歩きのおともにもおすすめです。

なお、「参州足助寿ゞ家界隈芸術祭2025」は今後もトリエンナーレ形式で開催予定だそうです。

豊田市足助町

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この記事を書いた人

Risa Suzuki

豊田市生まれ豊田市育ち、フリーライターのrisa suzukiです。 その人・お店だけが持つ魅力を引き出しながら、「会ってみたい!」「行ってみたい!」と思えるような記事をお届けします。 Mediallでは豊田市近郊のナンバーワン・オンリーワンスポットをご紹介。 地元民だからこそ知るステキな人・お店の情報を発信していきます。 イベント取材、インタビューなども柔軟に対応するので、お気軽にご相談ください。

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