「田舎の豆腐屋」と聞いて、みなさんはどのような光景を思い浮かべるだろうか?
筆者は、色褪せた看板や水の中で豆腐を切る年配の職人の姿が浮かんだ。おそらく、同じようにイメージした人も多いだろう。そんな人であれば、本記事で紹介する平尾とうふ店にちょっとした衝撃を受けるかもしれない。
平尾とうふ店は、鳥取県にある創業70年以上の老舗豆腐店で、豆腐スイーツを出したり商品パッケージをおしゃれなデザインにしたりなど、あらゆる工夫をしている。
代表の平尾隆久(ひらおたかひさ)さんは、「先代の教えを大切にしながら、新しい豆腐屋の形をつくっていきたい」と語っていた。温故知新の体現を目指す平尾さんに、豆腐づくりに対する情熱や追い求めている豆腐屋像をうかがってきた。
「平尾とうふ店」のストーリーを教えてください
平尾とうふ店があるのは、鳥取市街地から少し南下した地域・河原町。自然に囲まれ穏やかな時間が流れているこの地で、平尾とうふ店はどのような歴史を歩んできたのだろうか。
豆腐屋を始めたきっかけは?
平尾とうふ店は、もともと祖父母のお店だったんですよ。
…ということは、おじいさん・おばあさんから引き継いだということですか?
そうですね。高齢の祖父母が「もうしんどいし、お店をたたもうか」といっていたのを聞いて、地元の人たちに愛されてきた豆腐屋がなくなるのは寂しいなって…。
ちょうどそれくらいの時期に、僕はサラリーマンをしながら「事業をやってみたい」という気持ちも抱いていたので、「じゃあ僕が豆腐屋を継ごう!」と決めました。
孫が事業を継いでくれるって、きっとおじいさんとおばあさんは喜ばれたでしょうね。
祖父は頑固な人だったので、直接「嬉しい」という言葉を聞いたことはありませんけど…近所の人伝いに「おじいさんが嬉しそうにしていたよ」と聞いたことがあります。
照れくさかったんですかね。
かもしれません(笑)
自分でも豆腐屋をやっていることにびっくりなんですよ。豆腐が「好き」どころか「嫌い」だったので…。
え!?豆腐が嫌いなんですか!?
小さい頃は嫌いでしたね。おやつの時間に油揚げが出てきたり、夕飯に冷奴や豆腐の味噌汁が出てきたりする毎日だったので、食べすぎて…。
あと、祖父母が豆腐を作っては売りに出かけている姿を見て、ダサイと思っていたこともありました。今思うと最低ですね。
豆腐にも仕事にもネガティブな思い出を持っていながら、よく継ぐ決意をされましたね。
「なくなるのは寂しい」という気持ちが強かったんです。それに、豆腐が嫌いというのも子どもの頃の話で、今は好きですよ。
作ってわかった豆腐づくりの難しさ
おじいさんは頑固な人だったとのことですが、やはり仕事にも厳しかったですか?
そうでもなかったですよ。でも、よく「サボるな」といわれていました。
サボっていたんですか?(笑)
仕事自体は真面目にやっていましたよ(笑)
でも、僕が豆腐づくりを始めたのは20代前半だったので、まだ遊びたい気持ちもあって…「休みをちょうだい」というと「サボるな」と返されました。
なるほど。他にもおじいさんが口癖のようにいっていた言葉はありますか?
「豆腐は生き物だから」とよくいっていましたね。
おぉ…!職人さんっぽい!
そうなんですよ(笑)
豆腐づくりを始めた頃は意味がわからなかったんですけど、最近わかるようになってきた気がします。
教えていただいてもいいですか?
豆腐は、気候条件や大豆の状態によって仕上がりが変わります。いつも同じ作り方をしてしまうと、味や食感がぶれてしまうんです。仕上がりを安定させるためにも、その日の状況に合った作り方に調整する必要があります。
なるほど、いつも同じようにはいかないからこそ“生き物”と例えられたんですね。
豆腐づくりは、材料がシンプルゆえに誤魔化しが効かない。気候や大豆の状態から最適な作り方を見極める力と職人の腕がなければ、おいしい豆腐は作れないのだ。
10年以上豆腐をつくっている平尾さんでも、いまだに仕上がりがぶれることがあるという。そのため、毎日気候や蒸し時間などの製造データを記録し、最終的にどういった豆腐に仕上がったのか、結果をもとに検証をしている。
残念ながら、常に100点満点の豆腐を販売するのは難しいです。なので、自分の中で自信をもって販売できる基準を設けて、クリアしたものだけを販売しています。
そのわずかな誤差に気づく人もいますか?
鋭い人もいますよ!「この前のお豆腐、いつもと少し違ったね」なんていわれることもあります。
ギクッ!!
ドキッ!!
「すべての豆腐が100点満点ではない」といっても、平尾とうふ店は商品化において高い基準を設けている。粗悪なものがまぎれることはないので、安心してほしい。
なお、平尾とうふ店は一般財団法人 全国豆腐連合会主催の「全国豆腐品評会」中国・四国地区大会で賞を獲得している。品質の高さは受賞歴からも明らかだ。
- 【絹ごし豆腐部門】金賞(出品:絹とうふ)
- 【ええあげセレクション】銀賞(出品:平尾揚げ)
参考:第8回全国豆腐品評会 中国四国地区大会結果|一般財団法人 全国豆腐連合会
鳥取以外でやることを考えなかったんですか?
平尾とうふ店がある河原町の人口は約6,000人。筆者が取材で河原町を訪れた際、外を歩いている人が1人もいなかった…それだけ静かな場所で、なぜ事業をやろうと思ったのだろうか。
鳥取で事業をやろうと決めた理由は何ですか?
単純に鳥取が好きという理由と、鳥取でやる方が面白そうと思ったからですね。
人口最少なのに面白そうですか?
都会だとライバルが多くなるので、逆に難しいと思うんです。鳥取はライバルが少ないから埋もれにくいですし、田舎から全国にいいものを届ける方が面白いかなって。
確かに、注目されやすくなりますよね!
平尾とうふ店には、豆腐や油揚げといった豆腐製品だけでなく、豆乳ソフトクリームや豆乳パフェなどもある。ドライブやツーリングの休憩に寄ったり、カフェタイムを楽しみに行ったりもできるのだ。
これは、昔ながらの豆腐屋にはないスタイルだろう。先代から受け継いだおいしい豆腐の販売に加え、「豆腐屋の新しい形」を提案していきたいと平尾さんは言った。
新しい挑戦に対して、すべての人がウェルカムなわけではありません。昔から平尾とうふ店に来てくれている人の中には、「昔の方がよかった」という人もいると思います。それでも、自分がやりたいことを一生懸命やって、少しでも多くの人に受け入れてもらえるようにいいものを届け続けたいです。
「平尾とうふ店」の夢
「豆腐屋の新しい形」を目指している平尾とうふ店さんですが、具体的な目標はありますか?
飲食事業をやってみたいですね!ここでイートインもできるんですけど、もっといろんな豆腐メニューを食べてもらえるようにして、帰りに豆腐を買って帰る…みたいなことができる複合施設を作りたいです。
いいですね!
ただ、見せ方が難しいなって…。自分だったら、豆腐を食べにわざわざ鳥取に行こうと思いませんから…。
確かに…。どうしたら「行ってみたい!」と思ってもらえるかを考えないといけないですね。
そこが大きな課題ですね。しっかりアイデアを出して、鳥取の新たな観光スポットになれるように頑張ります!
鳥取県は、PR手法としておすすめしたいものに「王国」をつける傾向がある。例えば、カレー消費量が全国トップクラスであることから「カレー王国」。名探偵コナンやゲゲゲの鬼太郎といった有名作品が生まれていることから「マンガ王国」などがある。
もしかしたら、遠くない未来に鳥取は「豆腐王国」を名乗り始めるかもしれない。さらに、筆者はダジャレPRで有名な平井知事の口から「トーフ(遠く)から来る価値がある」なんて言葉が飛び出すことまで予想している。
たくさんの人に愛される豆腐屋を目指して
平尾とうふ店は、先代の技術を受け継ぎながら新しいことにも挑戦している真っ最中。多くの人にいいものを届けていきたいという想いと共に、大好きな鳥取県を盛り上げていけるようにと日々奮闘している。
そんな平尾さんとお店の姿を、師匠であるおじい様は温かく見守っていることだろう。
地元で愛され続けてきた老舗豆腐店が、今後どのような進化を遂げるのか。これからも、豆腐に情熱を注ぐ平尾さんの活躍に注目していきたい。
店舗情報
所在地 | 〒680-1243 鳥取県鳥取市河原町佐貫1206 |
TEL | 0858-85-2240 |
営業時間 | 9:00~18:00 |
定休日 | 日・月 |
公式HP | https://hiraotoufu.com/ |
公式SNS | Instagram |
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