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フード  |    2024.11.14

町工場の職人魂が宿るスペシャルティコーヒーショップBUCKLE COFFEE【後編】|東京・大田区

美味しいコーヒーをいつでも作り出すために、膨大な計測とテイスティングを重ねていくBUCKLE COFFEE。正式な社名は「丸和工業株式会社」です。

スペシャルティコーヒーに対するこだわりを紹介した前編に続き、後編ではBUCKLE COFFEE創業のきっかけや、町工場の地域に対する思いを、オーナーであり、代表取締役の石山俊太郎さんにお伺いしました。

前編はこちら

町工場の職人魂が宿るスペシャルティコーヒーショップBUCKLE COFFEE【前編】|東京都大田区

町工場からスペシャルティコーヒー事業へ転換

石山さんが3代目代表を務めている丸和工業。実は、会社を引き継ぐまではシャッター製造業だったそうです。

石山さんによれば、祖父の代から続く会社を継ぐ意志はあったものの、時代とともに少しずつシャッター事業が縮小していったそう。同じ事業を継続するべきなのか迷いながら、大学を卒業して広告代理店に就職したそうです。意外なことに、当時はブラックコーヒーが苦手だったとか。

店内の様子。積み上げられたコーヒー豆の麻袋と天井のダクトが存在感を放っています。

「仕事の場でブラックコーヒーを飲む機会は多かったものの、個人的にはあまり得意ではありませんでした。
ところが、たまたま仕事で利用したカフェのブラックコーヒーがとても美味しかったんです。1杯1,200円しましたが、こんなに紅茶のように華やかな味わいなのかと衝撃を受けました。あとでそれがスペシャルティコーヒーだと分かり、いろいろと調べていくうちに、これを生業にしたいと思うようになりました」

当時24歳だった石山さんは、先代だった父親を説得し、丸和工業の社名を残しながらコーヒー事業をはじめる準備をします。

高品質のコーヒーを作るなら自ら産地に行った方が良いと決意し、2014年に青年海外協力隊を通じて、2年間東南アジアの東ティモールに出向きました。

店内に飾られた世界地図。東ティモールは、オーストラリア大陸の上部に点在する島の一部です。

「当時アジアのコーヒーは、全体的に過小評価されているように感じていました。クオリティが良くても、アフリカや中南米の銘柄に名前負けしてしまっていたんです。
ただ、クオリティが高いものがどんどん増えていて、アジアには伸びしろがあると思いました。すでに完成されたエリアに行くよりも、日本から近く、急成長を遂げているアジアの産地に魅力を感じたんです」

技術が高いゆえに知られない町工場のことを伝えたい

帰国した2016年に、先代からの工場の外観をそのままに、BUCKLE COFFEEがスタート。2020年に現在の店舗へリニューアルしましたが、町工場のアイデンティティは残したかったそう。そこには、大田区の町工場に対する石山さんのある思いがありました。

「大田区の町工場はかつて1万社を超えていましたが、現在は当時の1/3に満たない状況です。
しかし、国内大手企業の研究開発を担う企業や、グローバル企業のスマートフォンに搭載されるような技術を持つ企業など、国内外で評価される技術力を持つ町工場がいまも多く存在します。ただ、そうした技術や実績は、秘密保持契約があって外部に発信できません。

店内のトイレサインは、カッティング加工が得意な町工場職人さんの技術によるもの。黒いグラデーションに点状の文字が浮かび上がっているように見えます。

どんなに魅力的な技術があっても広く知られない、あるいは一部の限られた人にしか知られていないのは、非常にもったいない。だから私たちは、コーヒーショップという場を通じて、大田の町工場の技術を知ってもらうきっかけにしたいと考えました」

実際、店頭や店内のあちこちに飾られているプレートは、近隣の町工場の職人さんたちが作ったものでした。さらに、カウンターのPOPはコロナ禍で使っていた仕切り用のアクリルパネルをリメイクしてもらったそう。こうした職人さんの技術に対するリスペクトは、当時のブログからも伝わってきます。

アクリルパネルがPOPに生まれ変わるまでのストーリー記事

「この置き台も、板金加工が得意な職人さんに作ってもらったものです。大きさや仕様しか伝えていないのに、ご厚意でロゴまで入れてくれました。

一見ぶっきらぼうに見える職人さんでも、皆さん相手のことを考えてくれる温かみがあるのです。私たちはコーヒーショップとして事業を変えましたが、町工場の職人さんのようなマインドを持ち、表現していきたいと思っています」

コーヒーを通じて生産者とお客様との結び目になるために

BUCKLE COFFEEは、創業当時から8年間、毎月新作のコーヒーを出し続けてきました。取り扱った種類は100を超えるそう。さらに、現在は店舗の他にも、飲食店サポートやオフィス・イベント利用とサービスを拡大しています。

「スペシャルティコーヒーは、一般的なコーヒーの価格と比べて高値で取引されます。だからこそ、私たちがコーヒーの取引量を拡大できれば、顔が見えている生産者さんに還元し、彼らの生活に貢献できると考えています」

ちょうど創業8周年だった取材当時、お客様にお配りしているステッカーをくださいました。

赤道上を帯のように沿った形から「コーヒーベルト」とも呼ばれているコーヒー豆の産地。
ベルトに使われるバックル(留め金)と、生産者さんとお客様の結び目でありたいという思いから名付けられたBUCKLE COFFEEは、生産者さんと、お客様、そして働くスタッフ全ての人にとってプラスになることを目指しながら、変化を続けています。

「日々ベストを出していくために、大小さまざまな変化を重ねています。
例えば、最近はスタッフにアメリカ人を採用しました。海外のお客様が増えてきたための取り組みですが、日本人スタッフと比べて日本語が流暢ではないため、店に慣れ親しんだお客様からするとコミュニケーションに不満を感じるかもしれません。
こうした変化は私たちが丁寧に伝えていく必要がありますが、ブランドを成長させるための変化として一緒に楽しんでいただけたらと思います」

POPに生まれ変わったアクリルパネル。「すぐに作りたくなっちゃうんです」と話すのが町工場の息子らしい石山さん。

店内にある大きな焙煎機からダクトが伸びている様子は、まるで工場そのもの。このダクトは減臭機とつながっていて、焙煎で発生する香りが外に排出されるのを抑えているそうです。

工場に親しんで育った石山さんによれば、減った町工場に代わって住宅が増えたからこそ、近隣の人々と共生していきたいとのことでした。

お話を伺いながら、BUCKLE COFFEEがコーヒーを通じて、生産者さんとお客様という側面だけでなく、町工場と地域の人々という側面でもつながりを意識しているのを感じました。

羽田空港からもアクセスの良いBUCKLE COFFEE。丁寧に焙煎されたスペシャルティコーヒーと町工場の技術が集まるコーヒーショップに、ぜひ遊びに来てみてください。

BUCKLE COFFEE

住所:東京都大田区東六郷2-4-14 MANU ZOSHIKI 1F
ホームページ:https://www.bucklecoffee.jp/

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この記事を書いた人

みつはしさなこ

生まれてから40年以上、東京の下町で暮らすライターです。食を中心にインタビュー、ブランドストーリー、コラム、レシピ記事などを書き、食べものとまつわる人の魅力を届けます。野菜ソムリエプロなどの資格あり。

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