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フード  |    2024.11.26

創業から77年。3代にわたってカレールウを製造・販売するワタナベ食品

東京都葛飾区内の製造業と言えば、金属製品や一般機械器具の製造のイメージが強いかもしれません。しかし、数は多くないものの、優れた食品製造業もたくさんあります。その中の1社がワタナベ食品株式会社です。1947年に創業して以来、3代にわたって「旭カレールウ」を製造。大切な味を守りつつ、新たな挑戦を続けています。

懐かしい味から、若者好みのスパイシーな辛さまで幅広くそろえています

パッケージがレトロでかわいい「旭カレールウ」は甘口、中辛の2つを展開

ワタナベ食品は、オリジナルブランド「旭カレールウ」を展開。創業者が開発して以来、レシピを変えていない「旭カレールウ」、2代目の「旭カレールウ・セレクト」、そして現在代表取締役を務めている渡邉正道(ただみち)さんの「旭カレールウ 孫」の3種類を楽しむことができます。

4種類のハーブをブレンド。辛いものが好きな若者に向けて開発したそう

また、「旭カレールウ」以外にも、カレーうどん専用の「旭南蛮かれー」、スパイスが香る現代的な味わいの「ハーブ香る スパイシーカレー」の2種類があり、そのときの気分やメニューによって使い分けることも可能。

これらのルウの特徴は大きく2つ。1つは、保存料と動物性エキスを使用していないことです。

「家の台所でも見掛けるような、誰もが知っている原材料で作っています。牛や豚のエキスを使うと味が決まって食べ応えがある分、具材として入れる牛肉や豚肉の旨みを味わいづらくなると個人的に感じています」(渡邉さん、以下同)

もう1つがフレーク状であることです。溶けやすく、調味料としてスープ、コロッケ、炒め物などにも使うことができます。

「『旭カレールウ』は300g入っています。一度で使い切れないと思う方もいるかもしれませんが、調味料としても使えるので料理の幅が広がります。使い切れなかったルウはインスタントコーヒーなどの空き瓶に入れて保存ができますよ」

学校給食を思い起こさせる黄金色のルウ。懐かしく、ホッとできる味わいです

気になる味はどうでしょう?まずは「旭カレールウ」の甘口から試してみました。スパイスの香りはありますが、パンチ力は控えめで、とてもまろやか!とげとげしい塩味や辛さがないため、最後のひと口まで飽きずに食べられます。

大人向けの辛口です。汗をだくだくと流しながら食べました

「ハーブ香る スパイシーカレー」はドライカレーに。トマトの酸味や果物の甘みの中に、鋭く、すっきりとした辛みを感じます。

「同じ味を再現し続けるためには、季節ごとに異なる微調整が必要です。原材料の小麦1つとっても、収穫時期によって吸水率が変わり、火の入り方が変わるんです」

このおいしさ、辛さは職人技であり、努力の賜物なのですね!

ちなみに、「旭南蛮かれー」の最終工程では、初代から槇野産業株式会社の粉砕機を使用し、最終工程の粉砕加工をしているそう!葛飾区内の製造業同士のつながりに、思わず胸が熱くなりました。

戦後すぐに始めた麺加工から事業をスタート

伊豆万食堂のメニューとお店の前で撮影した1枚

「創業者である祖父・哲郎は、飲食店でおいしいものを食べると『これはどうやって作るんだ』と、調理場に行ってたずねるほど好奇心旺盛で、行動力のある人でした」

そう渡邉さんが振り返るように、非常に研究熱心だった哲郎氏。カレールウの開発も、そんな情熱から生まれました。

ワタナベ食品の前身にあたる「麺加工所」が生まれたのは、戦後の混乱期にあたる1947年。配給により支給された小麦粉を麺に加工することから事業がスタートしました。その5年後の1952年には、麺加工の技術を生かして「伊豆万食堂」を開店。そのお店では、そばだけでなく、カレーうどんやカレーライスなども提供していました。カレーのルウは、もちろん手作り。その味が評判を呼び、近隣にたくさんあったそば屋から「売ってほしい」という声が掛かります。

「旭南蛮かれー」は麺つゆで伸ばすことから、塩は加えていないそう

それに商機を見出した哲郎氏は「旭食品研究所」を設立。研究の末、「旭カレールウ」を製品化しました。

東京オリンピックが開催された1964年には、事業をカレールウの製造に一本化。以来、カレールウ一筋で、食通から愛される製品を作り続けています。

積極的に表に出て周知に努めています

海上自衛隊横須賀基地や南極観測船「しらせ」に納品したり、東京都立農産高校と協働して製品を開発したりするなど、事業は順調にも見えますが、今でも試行錯誤を繰り返しています。

「当社の売り上げの約7割が業務用です。しかし、おそば屋さんの廃業のスピードに新規顧客の獲得が追い付かず、先代である父・正の時代から販路獲得には苦労していました」

それに危機感を抱いた渡邉さん。今まで受けていなかったテレビの取材を引き受ける決意をします。そして、それがきっかけであることに気付きました。

「放送終了後、大きな反響がありました。ただ、長年この場所でカレールウの製造を行っていたにもかかわらず、近隣の人にあまり知られていなかったことにショックを受けました。工場を稼働していれば、外にもカレーの香りが漂います。でも、外から見たら香りの出所がどこなのか、そして当社で何を作っているのかはわからないのですね」

そういった理由から「まずは地元の皆さんに知ってもらいたいという気持ちが強くなった」と渡邉さんは言い、現在は、地域のイベントを中心に積極的に出店したり、取材を受けたりするなどのアピールにも力を入れています。

「おそば屋さんでカレーうどんやカレーライスを食べても、当社の製品を使用していることに気付かれることはありません。ずっと縁の下の力持ちとして頑張ってきましたが、直接お客様に販売して食べてもらい、当社の味を知ってほしいですね」

そう笑顔で話してくれました。

守るべきものは守り、変えるべきところは変える

「三代味比べセット」も販売中。食べればカレールウの変遷をたどれるかも?

創業者の味を守りつつ、時代に合わせて柔軟に変化を取り入れてきたワタナベ食品。最後に気になる今後についても聞いてみました。

「おそらく、事業を長く続けるためのコツはないと思います。とにかく真面目にカレールウ作りに取り組み、ますます腕を磨きたいと思っています。

当社の原点にあたる『旭カレールウ』の味と、おそば屋さんを大切にすることは変えてはいけないと思っています。一方で、新しい製品を販売したり、販路を広げたりするための挑戦はこれからも続けたいですね」

関連リンク

ワタナベ食品株式会社:https://www.asahicurry.com/

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この記事を書いた人

増田 洋子

東京都在住。インタビューが好きなフリーランスのライターで、紙媒体とWebメディアで執筆中。ネズミを中心とした動物が好きで、ペット関連の記事を書くことも。

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