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フード  |    2025.03.19

横浜市泉区「コーヒー・スケアクロウ」【前編】|定年前に教師を辞めカフェを開業した理由

普段、何気なく通っていた道で偶然見つけたカフェ。中に入ってみると、すでに何人かのお客さんがいた。

席についた私と妻は、それぞれコーヒーとママレードティー、それからナポリタンを注文する。ゆったりとしたBGMがどこからともなく聞こえてくる落ち着いた店内は、妙に居心地がよい。

少し待つと、妻が注文したママレードティーが運ばれてきた。

一方で僕のほうは、温かいコーヒーカップが空のまま一つ置かれただけ。

「空のコーヒーカップだ…」なんて事実をそのまま頭で呟くと、店主の髙柳さんがサイフォンごと持ってきて、出来立てのコーヒーを目の前で注いでくれた。

トポトポトポ…。コーヒーが注がれる音がなんとも心地よく耳に響いたところで、待ち焦がれたコーヒーが完成する。

視覚と聴覚、嗅覚と触覚、そして味覚の五感を存分に楽しめる一連の体験に、心が弾まないわけがない。

コーヒーを飲み終わり、心地よい満足感でお腹が満たされつつお店を後にした。

私が訪れたカフェの名は「Coffee SCARECROW(コーヒー・スケアクロウ)」。住宅街に静かに佇むこのカフェは、金・土・日・月曜日の4日間だけオープンする。

「しかし、こんな静かな住宅街でなぜご夫婦だけのカフェを営んでいるのだろうか?」そんな興味が湧いてきた私は、店主の髙柳さんにお願いして、取材をさせていただくことにした。

今回は「Coffee SCARECROW(コーヒー・スケアクロウ)」の誕生物語を軸に、開業までのヒストリーを綴っていく。

前職のことから目の前でコーヒーを注いでくれる理由などを伺ったので、ぜひ最後まで読んで、週末のお出かけ先の候補にしてほしい。

教師からコーヒー屋に転身したわけ

——「コーヒー・スケアクロウ」を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

「このお店を始める前、私は私学の女子校で32年間教師をやっていました。まだ定年前だったのですが、教師を辞めたら次は〈喫茶店のマスター〉か〈焼き鳥屋のおやじさん〉か、どっちかをやってみたいなって思っていて…」

「ただ、どこかお店を借りるとなると、すごく費用がかかるので、自宅でできるコーヒー屋をやることにしました。さすがに住宅街なんで、焼き鳥屋さんの煙は無理だなっていうことでコーヒー屋さんにしたんです」

——たしかに住宅街で煙は難しいですね。(笑)定年前に辞められた理由はありますか?

「いろいろな友人から『定年まで働いたあとにお店をやるのは大変だよ』って言われたので、元気があるうちに“やりたいことがあるんだったらやろう”と思って。55歳で32年間やっていた教師を辞めて、その後、藤沢にある男子校で3年間非常勤講師として働きながら、このお店の準備をしていました。そして令和元年の7月1日からお店をスタートさせたのです」

——ちなみに、何の教科を担当されてたんですか?

「国語です。中高一貫なんで、現代文、古文、漢文全部やってました」

——それはすごいですね!もともとコーヒーはお好きだったのですか?

「そうですね、亡くなった母もコーヒーが大好きで小さい頃から飲んでいました。大学時代には喫茶店でアルバイトをさせてもらっていましたし」

——学生時代に喫茶店でアルバイトをしていたのですね。

「はい、アルバイト先の喫茶店がサイフォンコーヒーで、実はカミさん(妻)ともそこで知り合ったんです。バイト先が素敵な出会いの場の喫茶店だったので、そんな喫茶店になればいいかなと思ってここを始めてみたのですが…」

「今言ったように教師だったので、オープンから最初のうちは卒業生とか同僚がたくさん来てくれたんですけど、半年経ったら見事にコロナとぶつかりまして、4年間静かに生活していました。お店はずっと続けていたんですけど…。だから、どこか場所を借りたりしなくてよかったなって。自宅だからもう家賃がかからないんで、細々とやっていました」

やっとのことで漕ぎ出した船が、船出早々にコロナという嵐に見舞われてしまった。

だが髙柳さんご夫婦は、なんとか荒波を乗りこなし凪いだ海に出るまで船を壊さずに耐え抜いた。

そんな危機的な状況を脱した髙柳さんご夫婦が運営するお店の名前は「スケアクロウ」。この店名には、一体どのような意味が込められているのだろうか。

店名「スケアクロウ」の意味

——このお店の「スケアクロウ」という名前には由来があるのでしょうか?

「スケアクロウ自体は、カカシという意味なのですが、カカシって本当は田んぼで鳥を追っ払うはずなんですけど、私のお店のカカシは肩にスズメを乗せちゃう“優しいカカシ”なんです」

「で、実はこの絵、このお店のためにあった絵ではありません。私が学生時代アルバイトをしていた喫茶店にアウトドアのグループみたいなのがあって、その集まりの名前が“スケアクロウ”でした」

「この名前をお店に付けさせてくださいって、20人くらいいるメンバーにお願いして…『年に1回ここでドンチャン騒ぎさせてくれるんだったらいいよ』ということで、スケアクロウという名前を使わせていただくことになりました」

「だからこの絵自体は、もう40年ぐらい使ってる絵なんですよ」と笑顔で語ってくれた髙柳さん。教師からカフェのマスターへと転身し、世界的なパンデミックを潜り抜けた先には、多くの地元民やカフェ好きが集う賑やかな島が待っていた。

一方で、安定した教師の道から外れてカフェをやろうと決心した時、奥さまの心情はどのようなものだったのだろうか。中編では、奥さまの心の内にフォーカスした内容をお届けする。

中編はこちら

横浜市泉区「コーヒー・スケアクロウ」【中編】|教師を辞める時の奥さまの反応

「Coffee SCARECROW(コーヒー・スケアクロウ)」

〒245-0015
神奈川県横浜市泉区中田西2-28-63

電話番号:045-801-6740

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この記事を書いた人

みくと

映画と映画館をひたすら愛するフリーライターです。2000年に横浜で生まれ、現在は妻と娘と大和市に住んでいます。普段は映画レビューの寄稿やSEO記事の執筆、ホームページのライティングなどをしています。趣味は、次に観る映画を「何にしようか」と悩むことと、文章を書くことです。Mediallでは、地域の映画館や神奈川の魅力溢れるお店などをご紹介します。

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