
駅から少し歩いた商店街の一角に、こぢんまりと佇む一軒のカフェ。ここ「Koss Coffee」は、扉を開けて一歩入れば、思わず深呼吸したくなるような空気が流れている。
提供されるのは、店主・河原さんが自ら選び抜いたスペシャルティコーヒーと、手作りのチーズケーキ。肩ひじ張らない接客と、ゆるやかに流れる時間のなかで、いつの間にかここが好きになる。
今回は「Koss Coffee」の店主・河原さんに、お店に込めた想いや日々のこだわりについてお話を伺いました。
商店街を歩いた先に、ふと現れるやすらぎの空間

東急目黒線・大井町線の「大岡山駅」北口から徒歩5分。商店街をまっすぐ歩いていくと、右手にさりげなく現れる白い看板。それが「Koss Coffee」の目印だ。
店内へ入ると、広々とした空間にやさしく陽が差し込む。大きなカウンターとゆったりとした椅子の配置、けれど整いすぎず、どこか安心感がある。

その理由を尋ねると、店主の河原さんは「ずっといる自分が疲れない空間にしたかったんです」と照れながら答えてくれた。
もともと約10年、バリスタとしてさまざまな店舗で経験を積んできた河原さん。
独立を意識するようになったのは、これまでの経験を通して「もっと自分の理想とするサービスや空間を、自分の手で形にしてみたい」と感じるようになったからだという。そうした想いを、河原さんは穏やかに語ってくれた。
そのキャリアのなかでも大きな転機となったのが、オーストラリアでの経験だ。コーヒー文化の本場とも言えるその地で、約2年半にわたりカフェ勤務や焙煎の仕事に携わったという。
「ただ美味しいだけじゃなくて、日常に根付いたコーヒー文化に触れられたことが大きかった」と語る河原さん。現地で得た感覚や価値観が、今のkosscoffeeの空気感にもどこかつながっている。

お店の名前「Koss Coffee」は、自身のミドルネームに由来する。「いろいろ造語も考えたけど、結局どれもすでに誰かが使っていて」と笑う河原さん。だからこそ、自分の名前をシンプルに使うことで、よりパーソナルで誠実な場所にしたかったという。
「特別なことは何もしていないんですよ」と言いながらも、言葉の端々ににじむのは、この街で、自分の手で、人とのつながりを丁寧に育てていきたいという気持ち。Koss Coffeeは、そんな想いがそっと滲み出る、小さなやすらぎの空間だ。
気取らず、ふらっと立ち寄れる空間づくり

Koss Coffeeの店内に一歩足を踏み入れると、まず感じるのは「自由さ」だ。
整然とテーブルが並ぶわけでもなく、椅子の配置も決まっていない。どこに座っても、どんなふうに過ごしてもいい。そんなゆるさが、むしろ心地よさを生み出している。
「おしゃれすぎると、自分が疲れちゃうんですよね」と河原さん。毎日長時間を過ごす場所だからこそ、自分がリラックスできる空間にしたかったという。
実際、常連客の年齢層はとても幅広い。子連れのお母さんから、70〜80代のご年配の方までがふらりと立ち寄る。
特にベビーカーを押して来店するお客さんからは、「入りやすいお店」として好評を得ているという。

初めて訪れた人にとっては少し戸惑うかもしれないが、「どうぞご自由に」という、このゆるやかさが、じわじわとクセになっていく。
飾らないからこそ、誰でも受け入れてくれる。そんな空間が、大岡山の街角で今日も静かに扉を開いている。
一杯の体験を、日常に

豆の仕入れは、河原さんがカッピング会(試飲会)などで実際にテイスティングを重ね、自身の味覚で選び抜いたもの。
「毎日飲める味がいい。僕が毎日飲めないものは、お客さんもきっと続かないと思うんです」。
そう語るように、味わいは華やかでありながらも、どこか生活に寄り添ってくれるやさしさがある。
焙煎もまた、豆本来の個性を引き出すことを大切にしている。「極端に浅煎りではないけど、果実感や酸味の輪郭が感じられるようなバランスを意識しています」と河原さん。
甘さやボディ感をしっかり残しながら、酸味が浮きすぎないよう繊細に仕上げているという。
抽出は、基本的にハンドドリップ(フィルターコーヒー)。コーヒー粉やお湯の分量をしっかり管理し、誰がいつ来ても同じ味を再現できるよう調整されている。

なかには「Today’s coffee」として、すぐ提供できるスタイルも用意されており、テイクアウトにも対応。
さらに面白いのは、「カップによって味が変わる」という遊び心。Koss Coffeeでは、飲み口の厚みや形状の異なるカップを使い、同じコーヒーでも感じ方の違いを楽しめるようにしている。

薄いカップでは酸味が立ち、厚みのあるカップでは甘さやテクスチャーが際立つ。1杯で2通りの味わいが楽しめる、そんな体験もまた、Koss Coffeeの魅力のひとつだ。
そんなコーヒーに合わせて、河原さんが毎日手作りしているのがチーズケーキ。「自分が毎日食べたい味を」というシンプルな基準でつくられたそれは、甘さ控えめでコーヒーの風味を引き立ててくれる。

「コーヒーは嗜好品だけど、日用品みたいに楽しんでほしい」そう話す河原さんの一杯には、敷居の高さも気取りもない。
ただ、自分の感覚を信じて丁寧に選び、誠実に淹れたコーヒーが、今日も誰かの「日常の楽しみ」としてそっと寄り添っている。
家でも楽しめる、Koss Coffeeの「もうひとつの1杯」

お店で提供されるコーヒーは、すべて豆の購入が可能だ。
「ここで飲んで気に入ってくれた方が、そのまま豆を買って帰るケースが多いです」と河原さん。ラインナップは季節によって入れ替わるが、いずれもKoss Coffeeで実際に使用している豆と同じものが並ぶ。
購入前には、テイスティングも可能。実際に飲んで味を比べながら、好みに合った豆を選べるのがうれしいポイントだ。

そしてもうひとつ、通う楽しみを支えているのがスタンプカード。
「5杯ごとに100円OFF・すべてたまると1杯無料」というもので、無理なくお得にコーヒーを楽しめるようになっている。
さらに面白いのは、カードをカウンター上の専用ボックスに置きっぱなしにできるという仕組み。これなら財布に入れておく必要もなく、忘れたり失くしたりする心配もない。

「オーストラリアではよくある仕組みなんですけど、意外と便利なんですよ」と河原さんも太鼓判を押す。
気軽に立ち寄れて、家でも楽しめる。そんな一杯が、今日のコーヒー時間をちょっとだけ豊かにしてくれる。
地域とゆるやかにつながりながら、これからも

Koss Coffeeがあるのは、大岡山北口商店街の終わりかけ。駅前のにぎやかさから少し距離を置いた場所だが、それがかえって「地元の人にも愛される店」という印象を強くしている。
河原さんはこの場所で、「地域の人にとって日常の一部になるようなコーヒー屋でありたい」と話す。
実際、来店者の多くは近所に住む人たち。口コミで少しずつ評判が広まり、日々ふらりと訪れるお客さんが増えている。

また、店舗とは別に始めたオンラインショップも、これから育てていきたいチャレンジのひとつ。
現在は近隣住民が中心のため、今後はフェスなどのイベント出展を通じて、近隣以外の人にもKoss Coffeeの味を届けたいという思いも膨らんでいる。
さらに、ゆくゆくは自身の焙煎機を持つことが目標だという。今はシェア焙煎所を利用しているが、「もっと好きなタイミングで焙煎できたら、コーヒーの幅も広がる」と河原さんは語る。
もちろん、お店を一人で切り盛りする大変さはある。スタッフを雇うことも視野にはあるものの、「自分がやるほうが気楽」というのが本音。

接客スタイルについても、誰に対しても同じように、フラットに接するのがポリシーだ。
「社長が来ようが、近所のおじいちゃんが来ようが、変えないんです。そのほうが、お店としても自分としても自然でいられるから」
気取らず、構えず、でも確かなクオリティと温度感で迎えてくれる場所。そんなお店が、今日もこの街のどこかで、誰かの「日常」になろうとしている。
「ちょっと入りづらいかもしれませんけど、ぜひ気軽に入ってみてください。話しかけてもらえれば、きっと楽しい時間になると思います」
店舗情報
店名・施設名 | Koss Coffee(コスコーヒー) |
最寄駅 | 大岡山駅(東急目黒線・大井町線) |
住所 | 〒145-0062 東京都大田区北千束1-29-1 |
営業時間 | 8:00~16:00 |
定休日 | 不定休 |
連絡先 | info@kosscoffee.com |
SNS | https://www.instagram.com/kosscoffee/ |
オンラインショップ | https://kosscoffee-online.stores.jp/ |