宮沢賢治といえば、銀河鉄道の夜や風の又三郎、注文の多い料理店・セロ弾きのゴーシュなどの童話や「雨ニモマケズ、風ニモマケズ……」の冒頭で有名な詩が思い出される方が多いかもしれません。
童話・詩などといった作家活動だけでなく、晩年は“砕石工場技師”として精力的に活動していたのをご存知でしょうか。
今回わたしは、岩手県一関市東山町にある「石と賢治のミュージアム」を訪れ、作家ではない、賢治の生き様に触れてきました。
ミュージアムには砕石工場と賢治の資料だけでなく、500点以上もの鉱物や、本物のアンモナイト、恐竜の糞の化石なども展示されています。実際に触れる物もあり、鉱物の限りない美しさに大感動でした。
見て・聞いて・触れて、大人から子どもまで五感フル稼働で楽しめる「石と賢治のミュージアム」の魅力を、たっぷりご紹介します。
岩手県出身の宮沢賢治がもつ“砕石工場技師”の顔
「石と賢治のミュージアム」のよさを語る前に、宮沢賢治と“石”の関係をお話させてください。
冒頭でもお話しましたが、宮沢賢治の作品は小学校の国語の教科書に載っていたり絵本になっていたりするため、童話作家や詩人といったイメージが強い方も多いでしょう。
世界的に有名な作品も多く存在しますが、実は賢治が生きているあいだに発表された作品は2冊のみ。
生前、賢治は作家としての活動だけでなく、さまざまな顔を持っていました。その中のひとつが“砕石工場技師”としての顔です。
鉱石採集に熱中した「石っこ賢さん」時代〜農業指導者としての晩年
岩手県花巻市で生まれた賢治ですが、少年時代には家族から「石っこ賢さん」の愛称で呼ばれていたほど、鉱物採集に熱中していました。
自然や科学などを愛し、大学は現在でいうところの農学部に主席で入学。のちに農学校の教員になっています。
昭和初期、冷害により痩せた東北の農地を改良すべく奮闘していた鈴木東蔵に、賢治は声をかけられました。
当時の賢治は農業の技術者として“肥料の神様”といった認知をされており、石灰肥料を活用した土壌改良のため、よいアイデアを提供してもらいたいと相談を持ちかけられたのだそう。
農業指導者であり砕石工場技師として、岩手県一関市東山にある“東北砕石工場”を訪れます。
賢治は37歳で亡くなる直前まで、技師として東北の各地を飛び回りました。
晩年、技師として力を尽くしていた際に使っていた手帳に記されていたのが、あの有名な詩である「雨ニモマケズ」だったそうです。
旧東北砕石工場の内部は見学できる
旧東北砕石工場では、農地の土壌肥料用の粉状石灰を作っていました。
安全確保のためそっくりそのまま当時の形ではありませんが、東北砕石工場は現在もその姿を残しており、工場内部や坑道を見学できます。歴史を学べる、貴重な場となっています。(見学にはチケットが必要です)
当時の空気が残り、どこか美しさすら感じられる工場内。
工場で実際に使われていた器具を見たり、賢治が作詞作曲した「星めぐり」を、工具で演奏できるようになっていたりと、楽しめる工夫が凝らされていました。
とてもよく響く工具もあり、工場内が音で満たされます。
工場の外には、宮沢賢治や鈴木東蔵の写真を元にした像が待っていて、絶好の写真スポット。
寒い時期は“冬ごもり”といって、賢治たちは雪から守るためにシートで覆われるそうです。お天気と相談してシートが外されるそうなので、一緒に写真を撮りたい方は雪が落ち着く時期に行くのがよいかもしれませんね。
また、冬場は基本的に工場は休館となります。状況に応じて見学できるとのことですので、休館中の見学希望はスタッフさんにご相談してみてください。
世界500点以上の鉱石にたっぷり触れられる「石と賢治のミュージアム」──外から楽しめる!
ミュージアムの敷地内には「太陽と風の家」という賢治の資料や鉱石が飾られている建物と「旧東北砕石工場」があります。どちらも内部を見学するには、チケットの購入が必要です。
いざ展示を見に行こう……!と思いきや、ミュージアムや旧工場の外の敷地にも見どころ・遊びどころがたっぷりあり、一緒に行った子供たちは大はしゃぎ。
とても楽しかったので、先にちょっとだけ、外のご紹介をさせてください。
外には賢治にまつわる作品の展示や、童話・詩などに出てくる植物が植えてありました。博物館というより、アートミュージアムといった雰囲気。
旧東北砕石工場の外がそのままになっていたり……
乗れちゃうトロッコもありました。
子供たちは、トロッコに乗ってゴトゴト移動するのがとってもお気に召したようで。わたしは、んしょんしょと何度も押し歩きました。いい運動……!
石灰を運んでいた、トロッコのレールの上も歩けます。
こちらの道はJR東日本大船渡線の陸中松川駅につながっており、駅からミュージアムまでは徒歩3分です。駅からの道も、五感が刺激される空間になっていました。
いざ!「石と賢治のミュージアム」の中へ──光る鉱石に感動。
たっぷり外を堪能したあとは、やっとこさミュージアムの中へ。施設の概要は、以下のとおりです。
- 鉱物展示室:世界の鉱物500点以上を展示
- グスコーブドリのまちの展示室:技師としての賢治の資料を展示
- 化石展示室:本物のアンモナイトや恐竜の糞の化石を展示
- 風のホール:東山や賢治の映像を見られる
- 双思堂文庫:宮沢賢治などの本が所蔵
- 太陽のホール:子供や遊べる室内スペース
どこのフロアでもいえるのが、見るだけではなく、遊びながら楽しみながら学べる工夫が凝らされているということ。
特に子供と一緒に大感動してしまったのが、光る鉱石でした。
美しく珍しい世界中の石が並んでいる、鉱石ボックス。これだけでもと見惚れてしまうのですが。
スタッフさんがていねいに解説をしてくださり、電気をパチッとすると……!
そこには、それぞれがポウと光っている、不思議な光の空間が広がっていました。お写真出してOKとのことでしたので、この感動をお裾分けさせてください。
真っ暗な空間に浮かぶ鉱石を見て、賢治もこんなふうにワクワクしていたのかな……なんて思いつつ。神秘的なパワーに、なんだかちょっぴり、泣きそうになってしまった。
(いま読んでくださっている皆様には、本当にこの感動を味わっていただきたい気持ちでいっぱいです)
化石展示室では“本物”の、おおっきなアンモナイトや、恐竜の糞の化石に触ったり。
研究机で研究者気分を味わってみたり。
たくさんの書物のにおいにしあわせを感じたり。
500点以上の鉱石に囲まれ、鉱石の実験をして、またまた感動したり。
ミュージアムにお邪魔しているあいだ、ずっと五感が刺激されっぱなしでした。大人になってから、こんなにワクワクすること、なかなかなかったなと感じるくらいです。
今回子供と一緒にお邪魔しましたが、展示してある鉱石のように目をキラッキラ輝かせて「あれは?これは??」と、興味津々。終始、楽しそうでした。
最後には子供たちのお楽しみだった、太陽のホール。
大きな室内遊具がありたくさん身体を動かせるので、大満足だったようです。
なんと、こちらのホールの利用だけであれば無料なのだそう。ぜひ気軽に遊びにきてくださいねと、温かい言葉をかけていただきました。
作家ではない賢治の生き様に触れて、鉱物の美しさにうるっとして、地球の歴史を感じられる。
「石と賢治のミュージアム」は、未就学の小さなお子様から小学校のお子様、もちろん大人まで、たっぷり楽しめるミュージアムです。
【施設情報】
◼︎石と賢治のミュージアム
住所:〒029-0303 岩手県一関市東山町松川字滝ノ沢149-1
電話:0191-47-3655
営業時間:9時~17時(入場は16時30分まで)
定休日:月曜日(休日の場合は翌日)、年末年始、祝日の翌日(ハイシーズン除く)
料金:小・中学生…無料
高校生・大学生…200円(団体160円)※学生証の提示
大人…300円(団体240円)
障がい者・介護者…全額免除 ※障がい者手帳など提示
65歳以上の一関市民…全額免除 ※保険証など提示
駐車場:あり(無料)
電車:陸中松川駅より徒歩3分
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