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スポット  |    2024.04.26

クスノキが見守る歴史、御厨天神社の大修復【後編】|東大阪市

東大阪市・御厨にある天神社(あまつかむやしろ)。
前編では、地元や神社の由緒・歴史、市の天然記念物である御神木について紹介しました。
後編となる今回は、2020年から約2年にわたって行われた大修復のいきさつをお届けします。

職人の叡知が光る社寺建築

修復工事を担ったのは、東大阪市・善根寺にある株式会社鳥羽瀬社寺建築
国宝や重要文化財の保存修理、伝統建築の新築などの設計施工を手がけている会社です。

代表取締役会長である鳥羽瀬 公二さんは、一般社団法人日本伝統建築技術保存会の会長も兼任しており、伝統や文化歴史の継承に尽力されています。

社寺建築の修理修復というのは、まず破損の度合いを調査し、その状況に合わせて修復方法を検討しなければなりません。

御厨天神社の本殿・拝殿の場合は、木部を解体して組み直す「根本修理」にあたります。
部材を取り外しながら、先人がどのような技術を用いて建築したかを紐解く作業にはじまり、傷んだ部分を埋木や矧木(はぎき)といった伝統技法で修繕し、再び組み立てるという流れです。


御本社大屋根の修復

本殿や拝殿の屋根は、銅板葺(どうばんぶき)という造りになっています。
その名のとおり銅板を仕上げ材として使っている屋根ですが、赤褐色から次第に錆びていき、黒褐色を経て趣ある緑青色に変わっていくのだとか。
風合いの変化を楽しむのも素敵ですね。

屋根の上にある、鬼板(おにいた)と千木(ちぎ)、鰹木(かつおぎ)も綺麗に修復されました。
こちらの装飾の材質はクスノキ。
そう、保全のために伐採された、天神社境内のクスノキが使われているのです。

交差しているのが千木、平行に並んでいるのが鰹木。


本殿の木材を加工して拝殿へ

御本殿はヒノキ造りの建築で、台湾ヒノキが使用されています。
台湾ヒノキは節がほとんどなく、神社仏閣に広く使われてきた大径の天然材です。
しかし現在は輸出が制限され、新しいものが日本に入ってこなくなりました。
台湾では伐採自体も禁止されています。

伝統木造建築は木材の確保が課題の一つとされており、修復工事の過程で不要になった木部も決して無駄にはできません。

拝殿前の階段を上がったところの板間は、今回の工事で新たに取り付けられた部分です。
御本殿に使われていた台湾ヒノキを再利用しています。


解体された屋根の部材は、高欄(欄干)にも使用されました。
架木(ほこぎ)と呼ばれる一番上の横材が、丸い断面になるのが分かるでしょうか。

大量生産の材木のように円柱加工機は使いません。八角形の木材から少しずつ角を落とし、大工が内丸と言われる手鉋(てかんな)で仕上げた美しい丸材です


実はあの重要文化財にも…!?

境内社である智葉神社も元来あるべき姿へ修復され、屋根の鰹木にはやはり、境内で伐採されたクスノキ材が使われました。
大部分は御厨天神社の修復工事に使用されたクスノキですが、実は、他にも意外な場所で活かされています。

先ごろ行われた、とある大修復工事といえば……

宮島・厳島神社の大鳥居です!

鳥羽瀬社寺建築は厳島神社の木工事を請け負っておられ、御厨天神社で伐採された原木の一部は大鳥居の修復にも使用されました。
重要文化財の修復というのは、木部を取り替える必要が生じた際、元の材料と同等のものを使うことが要になります。厳島神社の大鳥居は主柱がクスノキですので、その修復に質のよいクスノキ材が必要だったのですね。

天神社で育ったクスノキは、こうして御本殿や遠く離れた地の重要文化財に使用されることで、この先何十年、何百年と生き続けていきます。

悠久の歴史を刻む社寺建築とは

歴史的建造物を守っていくためには、古来からの伝統木工技術、保存修理のための専門知識、その他さまざまな建築技法を正しく継承していく必要があります。
2020年、日本伝統建築技術保存会の「木造建造物を受け継ぐための伝統技術」は、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。

宮大工が培ってきた日本の文化や伝統は、社寺建築を中心とした建造物の中に息づいて今日に至ります。御厨天神社の大修復で施された職人の伝統技法もまた、次の修復を手がける職人へと受け継がれていくのです。

おわりに

地元を離れた人が久しぶりに御厨へ帰ってきて神社を訪れたときに、「ここは変わってへんなぁ」と思えるような、懐かしめるような場所を残したい。

宮司・田原さんはそう語ってくださいました。

御厨天神社は夏と秋にお祭りがあり、盆踊りや地車曳行などで地元が活気に溢れます。
御厨の中心に佇む御神木も、そんな地元の人たちに愛されながら、昔から変わらない神社の風景をこれからも見守り続けていくでしょう。

深い歴史と伝統、それらを後世へ伝えるために尽力する方々の想いが込められた御厨天神社へ、ぜひ足を運んでみてください。

天神社(御厨天神社)

所在地:〒577-0032 大阪府東大阪市御厨1丁目4-29
TEL:06-6781-8252

近鉄奈良線 八戸ノ里(やえのさと)駅から徒歩約14分
大阪メトロ中央線 長田駅から徒歩約15分

株式会社鳥羽瀬社寺建築 本社

所在地:〒579-8001 大阪府東大阪市善根寺町6丁目9-28
TEL:072-981-8493
FAX:072-981-8508
HP:http://www.tobase-syaji.co.jp/

【参照サイト】
伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術|文化庁ホームページ
国宝・重要文化財建造物保存・活用の進展をめざして|文化庁ホームページ
用語集-古建築用語|大阪文化財ナビ
大鳥居の破損・修理状況|厳島神社ホームページ

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この記事を書いた人

九重 十彩

生まれも育ちも東大阪市。カフェ巡りから一人飲みまで、美味しいものと共に在りたいWebライター。 実は調理師免許を持ってるけど、ほぼほぼ持ってるだけ。 大阪の中核市としての一面と、生駒山系の自然、振り幅の広~い「モノづくりのまち東大阪」の魅力を発信していきます。

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