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スポット  |    2024.05.29

創業150年の長崎次郎書店 休業を発表 | 長﨑次郎喫茶室は1126で営業継続

熊本市内に本店を構える創業150年の老舗書店「長崎次郎書店」は、令和6年6月30日をもって書店の営業を休止すると発表しました。同店は1990年代に一度休業を経験しましたが、2014年に書店を再開。2016年の熊本地震の際も、被災から3日目には喫茶室とともに「被災者の居場所に」と営業を再開するなど、地域に根差した歴史ある存在です。

2階の「長﨑次郎喫茶室」は今後も営業を継続することに。地域に愛される長崎次郎書店を生み出してきた6代目店主の長﨑健一氏と、建物オーナー兼長﨑次郎喫茶室代表の長﨑圭作氏に、長崎次郎書店のこれまでの軌跡と今後について伺いました。

愛するが故に愛される

長崎次郎書店は、旧城下町の中心地に位置する由緒ある老舗書店。初代次郎氏は茶道具や掛け軸などの古物商を営み、明治期に教科書の普及に尽力するなど、教育環境の充実に一役買ってきました。建物自体も著名建築家・保岡勝也氏が手掛けた国登録有形文化財で、城下町のランドマークとして親しまれています。先駆的な保岡勝也氏設計の建物からも、時代に先んじた精神がうかがえます。

文豪・森鴎外が訪れたことでも知られ、時代を経た書店内には著名作家らの足跡が残る、熊本を代表する文化的名所でもあります。

出版業界の変革で90年代には一時休業しましたが、2016年に喫茶室を新装開店、書店も再開。創業者命日の翌日10月26日の開店は伝統を大切にする姿勢の表れでもあったのでしょう。圭作氏は「それもジ(2)ロー(6)」と言い換えます。そんな喫茶室の営業開始時間も毎日11時26分なのだそう。

「良(い)いジロー(1126)ですね」と愛くるしく、二人は穏やかに語り合います。

地域に根付く空間

二階の「長﨑次郎喫茶室」では、一階の書店で手に入れた一冊を片手に、本格的なコーヒーが味わえる贅沢な空間です。窓の外を行き交う路面電車の風景と「城下町の風情」が融合した、重厚な雰囲気に満ちた居心地の良い場所。

地元出身の田中さんは「書店と言えば『長崎次郎書店』。高校時代からの思い出の場所。休業の発表に寂しさを感じつつ、恩返しに友人と訪れた」と語りました。

世代を超えて力強く生きてきた長崎次郎書店には、こうした地域住民の思いが色濃く刻まれているようです。

今も昔も、そしてこれからも

書店の柱には随所に著名人のサインが書かれています。

長崎次郎書店の健一さん、そして喫茶室の圭作さんともに「伝統を守りつつ新たな可能性を探求しながら、これからも地域住民に愛される存在でありつづけたい。何より大切なのは目の前にいるお客様」と声を揃えます。

今は苦渋の決断をせざるを得なくても、長崎次郎書店には150年の伝統に裏打ちされた価値ある存在ということは、地域の声が物語っています。長崎次郎書店が目指してきたのは、そうした地域社会に芽生えた”愛される書店”としての役割。

「熊本地震で被災した際は近所の方も皆避難していて、一ヶ月以上自宅に戻れていない方もいた。みんなの『居場所』が必要だと思ったから」と、被災から3日後には紙皿と紙コップで、営業を再開した。

「外壁には大きな亀裂が入り私たちも避難していたが、幸いにも建物の内側は無事だった」と圭作さんは当時を振り返ります。

時代が移り変わっても『書店は本に囲まれた空間で知的好奇心を満たす”出会い”の空間を提供し、人と人、人と街とのつながりを大切に、心の拠り所となる交流の場を提供し続けられる』そこには本来の”書店”が備えるべき社会的役割=原点だったことがわかります。

150年の長きにわたり人々に寄り添い続けた長崎次郎書店。今回の休業決定は大きな岐路ですが、「目先のことにとらわれず、次なるステージへと歩を進めていく決意」と健一さんは力強く語ります。

「ふらりと立ち寄れる気軽な空間があってこそ、人は安らげる。そうした”交わりの場”があるからこそ、人は前を向いて歩いていける。書店休業後もこの空間は残し、人々が集う場を提供していきたい」と、長﨑圭作さんは、喫茶室の存続について語ります。

人と人、人と街のつながりを大切にする。それが長崎次郎書店の原点であり、150年の歴史から学んだ生命線なのかもしれません。新たな形で”出会い”を創造することで、次の150年に向けた活力を生み出せるのではないでしょうか。

書店の営業は6月30日までですが、2階の喫茶室は引き続き営業していきます。お好みの一冊を手に取り、”文人”気分で路面電車を眺めてみるのはいかがでしょうか。きっと新しい発見と出会いが待っているはずです。

店長おすすめのふわとろフレンチトーストも待っています。

長﨑次郎喫茶室

Instagram https://www.instagram.com/nagasakijiro_kissashitsu/
住  所 熊本県熊本市中央区新町4丁目1-19 2F
TEL    096-354-7973
営業時間 11:26~終了時間不定(イベントなどにより変動します)
定休日  なし
駐車場  あり(お問合せください)

<長崎次郎書店休業のご案内>
いつも長崎次郎書店をご利用いただき、誠にありがとうございます。

この度、当店は2024年6月30日をもちまして、休業することと相成りました。
突然のご連絡をお詫びするとともに、長年ご愛顧いただきましたお客様にはあらためて御礼を申し上げます。

2014年7月の再開店から10年間、熊本地震やコロナ禍などの困難にも直面しました。しかしながら、地域のお客様はもとより、著者・出版関係者ならびに遠く県外・海外からもご来店いただくなど、多くの皆様に支えられ、1874年(明治7年)に開店した当店は、本年150周年を迎えることができ、心から感謝いたしております。

6月1日以降の各種ご注文につきましては、上通の長崎書店にて承ります。

なお、二階の「長﨑次郎喫茶室」につきましては、これまで通りの営業となりますので、是非お立ち寄りくださいませ。

6月30日まで短い間ではございますが、可能な限り通常通りの営業を心がける所存ですので、引き続きご利用をいただければ幸いです。

ありがとうございました。

長崎次郎書店 店主

なお、当店休業後についてのお問い合わせは、二階 長﨑次郎喫茶室 TEL 096-354-7973 までお願いいたします。

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この記事を書いた人

さとはな

都内の外資系PR会社や事業会社でコミュニケーション職を経験したのち、熊本への移住を機に文筆業に転身。 新しいこと好きのミーハー気質だけど、困っている人は見過ごせないおせっかい。水辺と不知火大好きにはたまらない熊本在住です。 『知は愛、愛は知』を地で行く、人好きのカメレオン取材ライターとして、地域活性化や社会貢献、ライフスタイルなどのテーマに取り組んでいます。愛用カメラはSony α6300。

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