奈良市でも奈良町は有名な観光スポットですが、無料で楽しめる施設があることはご存知でしょうか?
なかでも奈良町からくりおもちゃ館は、江戸時代以降に考案されたからくりおもちゃの復元品を手に取って遊べる無料の体験型施設です。
「おもちゃは遊んでもらって初めて動きや面白みがわかります」と語るのは、館長の安田真紀子さん。
奈良大学で鎌田道隆名誉教授とともにおもちゃの復元研究を行い、奈良町からくりおもちゃ館の開設から携わってきた責任者です。
今回は、江戸時代のおもちゃの復元と普及活動に励む安田さんに、奈良町からくりおもちゃ館の魅力をお伺いしました。
江戸時代のおもちゃが常時30種類遊べる体験施設
奈良町からくりおもちゃ館は、築130年の古民家に常時30種類ものからくりおもちゃが展示されている奈良市の無料体験施設です。
入ってすぐに土間や和室が見え、古民家独特のノスタルジックな雰囲気が味わえます。
施設内では実際に触れて遊べるよう、机の上にそのままおもちゃを置く形で展示しています。
スタッフがすぐそばで丁寧に使い方を教えてくれるため、使い方がわからなくても安心です。
「大学から奈良市の活動へ」大きく広がる窓口
奈良町からくりおもちゃ館は、奈良大学で行われていた歴史学研究からはじまりました。
現在、施設内に展示されているおもちゃは、昭和61年から25年間、江戸時代の文献や絵画資料から復元した研究成果です。
鎌田名誉教授が奈良市におもちゃを寄贈したのと同時期に古民家が寄贈され、奈良市によって奈良町からくりおもちゃ館が作られました。
安田さんは、奈良町からくりおもちゃ館のコンセプトについて以下のように仰いました。
「おもちゃ自体が触れて遊ぶものなので、展示しているだけでは意味がありません。江戸時代の人々のアイデアや考えなどを後世に伝えていくためにも、当時の生活に思いを馳せられるよう、みんなが素材の感触や技術に触れて遊んでもらえることを第一にしています」
修理可能な復元おもちゃだからこそ、できるコンセプトですね。
子どもには「目新しさ」大人には「探究心」
奈良町からくりおもちゃ館は「おもちゃ」を取り扱っているため、子ども向けに思えますが、大人でも十分に楽しめる施設です。
一見すると自分でも作れそうに思えるシンプルな見た目ですが、実際の仕組みは手に取ってもよくわかりません。
作れそうでできないもどかしさが大人の好奇心や探究心をくすぐってくれます。
逆に子どもだと、現代ではほとんど見かけないもののため、目新しく映るそうです。
「電気もパソコンもなく、道具も限られているのにこれだけのすごい仕掛けを作っているというのが、昔の人はすごいに繋がるみたいで。ですから、子どもたちの反応はすごくいいですよね。子ども達にとっても、そういう意味で気づきが大きいんだと思います」と安田さんは語ります。
触れて遊ぶだけで人間の力や自然素材の素晴らしさなど、たくさんの気づきが得られるのもからくりおもちゃの魅力です。
どなたでも楽しく遊べるため、世代を超えたコミュニケーションにもつながります。
世界中から人が集まる人気体験スポット
開設から10年以上経過した奈良町からくりおもちゃ館ですが、知名度の向上に伴い、現在では知る人ぞ知る人気スポットになりました。
おもちゃ館を目当てに来る修学旅行生や、知人の紹介で訪れる外国人観光客も増えているそうです。
特に外国人観光客は日本文化を直に体感できることから関心も高く、中にはリピーターになる方も。
月1回程度開かれるおもちゃの製作体験講座も、しょっちゅう定員超えになるほど人気のイベントです。
事前予約が必要なので、旅行中に参加したい方は忘れずに予約しましょう。
【レビュー】復元されたおもちゃを実際に遊んでみた
奈良町からくりおもちゃ館では、常時30種類のおもちゃで遊べます。
しかし、江戸時代のおもちゃは四季折々で特徴があるため、内容は季節に合わせて変更しているそうです。
今回は2024年12月7日時点で展示されていたからくりおもちゃのなかでも、実際に遊んでみて印象に残った4点を紹介します。
シンプルなのにさまざまなポージングを魅せる「牛若・弁慶」
横の棒を上下に動かすだけの仕組みなのに、少し動かす角度やスピード、持ち手の傾きなどを変えるだけでさまざまなポージングをしてくれます。
表現力は無限大で、単純に子どもが遊んでも面白いし、ダイナミックな人形劇にも使えそうだなと思いました。
音と素材の質感が楽しい「まわりねずみ」
回すとねずみの鳴き声のような音がなるおもちゃです。木ならではの優しい手触りが気持ちよく、ホッとします。
スムーズに動き、摩擦もなさそうなのに木からどうやって鳴き声を再現しているのか気になりました。
江戸時代の技術力が感じられる一品です。
擦るだけでぐるぐる回る「がりがりとんぼ」
持ち手部分を棒で擦るだけで、先端のプロペラが勢いよく回ります。
スタッフの説明では、振動によって回っているらしいです。
実際に触ってみてみないと面白さがわからないため、展示されていたらぜひ触ってみてください。
江戸時代にもあった紐の「知恵の輪」
江戸時代にも知恵の輪があったことに驚きました。
庶民が楽しめるよう、紐で作られているのが特徴です。
紐ならではの柔軟な動きが正解につながるため、金属タイプの知恵の輪より難しく感じました。
教育体制が今より整っていなくても、庶民は遊びを通じて考える力を鍛えていたとわかります。
筆者はまったく解けなかったので、ゲーム漬けの現代人よりも江戸時代の人々の方が考える力が高そうです。
一通り遊んでみると、江戸時代のおもちゃは現代のものより、触覚や想像力、思考力に働きかけているように感じました。
シンプルな仕組みだからこそ、どうやったら楽しめるのか、長く遊べるのかを考える余地があります。
また、自分でも作れそう、理解できそうと感じるので、仕組みや素材の特性などに好奇心がくすぐられます。
複雑な仕組みや独自素材がなくても、人間は素材の組み合わせや構造の工夫次第でさまざまなものが作れるのだと実感しました。
昔のおもちゃの魅力を海外へ発信
最後に安田さんに、今後の展望について伺ってみました。
「昔のおもちゃの魅力をグローバルに発信していきたいですね。最近は海外からのお客様が非常に多く、来ていただいた方には対応できています。けれど、それ以外の海外の方にも、日本には昔からこういうおもちゃがあって、日本人はこういうこと大事にしてきたんですよっていうのも発信していけたらいいかなとは思ってるところです」
現在運用しているのはホームページとFacebookのみですが、最近はInstagramの準備も進めているそうです。
SNSを活用すれば、海外だけでなく、日本の若い世代にも広まっていく可能性があるので今後の発展が楽しみですね。
奈良町からくりおもちゃ館は時も場所も超えるコミュニケーションの場
開設から12年以上経つ奈良町からくりおもちゃ館。
取材日も親子連れから若いカップル、外国人観光客とひっきりなしにたくさんの人が訪れていました。
年齢や国籍など関係なく、誰もが楽しそうに遊んでいたのが印象に残っています。
スタッフの丁寧な接客も人とのつながりを感じさせ、充実した体験につながっているのでしょう。
時間を忘れて楽しみつつも、古き日本のゆったりとした雰囲気が心を癒してくれます。
この記事を読んで「奈良町からくりおもちゃ館」が気になった方は、ぜひ訪れてみてください。
時代や世代、国境を越えて理解し合えるものが味わえますよ。
奈良町からくりおもちゃ館の詳細
◆住所:〒630-8338 奈良県奈良市陰陽町7番地
◆電話番号・FAX:0742-26-5656
◆入館料:無料
◆開館時間:9:00~17:00
◆休館日:水曜日、年末年始(12月29~1月3日)
※祝日の場合は、休館日が変わることがあります。事前にお問い合わせください。