「明日のサッカーの試合、観たいけど応援に行けない…」
このような日の強い味方が、インターネットで配信される試合中継です。Jリーグの場合は、DAZNやLeminoなどの動画配信サービスで、試合のライブと見逃し配信を観られます。
一方、アマチュア選手が多く所属する社会人リーグでは、配信サービスがほとんど提供されていません。
ひと昔前は、現地以外で社会人リーグの試合を観られる機会はなかなかありませんでした。しかし、現在は多くのクラブが独自のYouTubeチャンネルを持ち、工夫を凝らした試合配信を行っています。

今回の記事では、関東リーグ1部で戦う東京23FCの配信チーム「東京23勝手に実況隊」をご紹介します。時には炎天下で、そして時には嵐の中で、彼らはどのように活動を続けているのでしょうか。
「東京23勝手に実況隊」について
東京23勝手に実況隊(以下:実況隊)は、まだ社会人リーグの配信が珍しかった2014年に活動を開始しました。彼らの中継には、2つの魅力的なポイントがあります。
1つは、東京23FC目線の感情豊かな実況です。Jリーグの試合実況は中立の立場を取りますが、実況隊は「うちのチーム」が基準。サポーターでもある実況隊の気持ちがダイレクトに伝わり、中継に臨場感とリズム感が生まれます。
もう1つの魅力は、視聴者がYouTubeチャンネルへのコメントで番組に参加できる親しみやすさ。東京23FCを応援する人はもちろん、他のクラブのサポーターも歓迎してもらえます。選手の友達や職場の上司からのコメントで、選手たちの思わぬエピソードが披露されるケースも。
確かな技術と、東京23FCへのたゆまぬ愛を原動力に配信を続ける実況隊。現在は3人で活動しています。

実況を担当しているブラジルさん。社会人リーグだからこそできる、東京23FCに肩入れした実況から、クラブチームを応援する楽しさが伝わってきます。

映像のライブ配信と動画撮影、ダイジェスト動画編集を担当するパラグエルさん。当日のうちにダイジェストをまとめる仕事の早さは、もはや神業の域。

新しい機材を見たら、スイッチを押さずにはいられない機材系女子のマリさん。実況ではYouTubeチャンネルに寄せられたコメントをていねいに読みあげ、視聴者との架け橋になっています。選手一人ひとりへの愛を込めた喋りも魅力のひとつです。
東京23勝手に実況隊が始まったきっかけ
実況隊の始まりは、パラグエルさんが個人的に作っていたダイジェスト動画でした。試合が終わるたびに配信される動画を、ブラジルさんが毎回楽しみに見ていたのが、2人が出会うきっかけだったそうです。
「動画を楽しんでいるうちに、ふと『これって誰が作っているんだろう』って考えたんです。そのときに思い浮かんだのが、いつも試合で三脚を立てている不思議な人。きっとあの人だろうな、と確信しつつ、なかなか声をかける勇気が出ませんでした」(ブラジルさん)

それでも、パラグエルさんが気になって仕方なかったブラジルさん。ある日、思いきってパラグエルさんに声をかけ、ふたりがつながります。それ以降、ブラジルさんはパラグエルさんのカメラの横で、試合を観戦するようになりました。
…ひとりごとを言いながら。
「昔からブラジルさんには、サッカーを観ながらひとりごとを呟く癖があったんです。その声が僕の映像に入ったときに、何だか実況っぽくていいなと思って。そこで、僕のカメラにブラジルさんが喋りかける形で実況動画を始めたんです」(パラグエルさん)

当時はYouTubeではなく、USTREAMで配信をしていたおふたり。視聴者にも分かるようにという配慮から、ブラジルさんは積極的に選手の名前と背番号を呼ぶようになったといいます。
「そこには僕の『選手の魅力を、もっともっといろいろな人に伝えたい』という願いがありました。こんなにかっこいい東京23FCのプレイヤーが、世間に知られないのはもったいない。そう思いながら実況しているうちに、現在のスタイルができあがりました」(ブラジルさん)
ブラジルさんが実況中に何度も選手の名前を呼ぶと、観ている人はすぐに選手を覚えられます。また、彼は「守備はフルネーム、攻撃は名前か苗字、ゴール前では愛称」など、戦況に応じて呼び方を切り替えています。そうすることで、音声だけ聴いている人にも攻撃の様子が伝わるからです。
2020年にはマリさんが実況隊に加入し、3人体制になりました。さまざまな機器が増えたため、パラグエルさんだけで映像配信をするのが厳しくなった頃です。

「私はもともと東京23FCのサポーターで、いつも試合の応援に行っていたんです。でも、ある日『機材のケーブルが巻けるなら手伝って』と声をかけられて。最初は手を貸すだけのつもりでしたが、いつのまにか私にもマイクがついていました」(マリさん)
最初はマリさんをアシスタントとして迎え入れたブラジルさんとパラグエルさん。しかし彼女は、初めて見る機材をあっという間に使いこなす技術の持ち主でした。現在は中継でブラジルさんの実況をサポートしたり、視聴者のコメントを読んだりすると同時に、リプレイなどの操作も行っています。
社会人リーグならではの配信環境
楽しみながら配信をする実況隊の姿勢は、関東リーグに所属する他のチームにも広がっていきました。現在では、大学のチームを除くほとんどのクラブが実況班を持っているそうです。
特に興味深いのが、同じ試合をホームとアウェイの両クラブがそれぞれの目線で同時配信する「W中継」。視聴者は2画面を開いて、両チームの歓喜や落胆を楽しんでいます。
「対戦クラブの関係者が実況席に来て、一緒に試合を見ながら配信した日もありますよ。うちの選手は素晴らしい、うちの選手いいでしょう、ってお互いに自慢しあいながら。クラブの垣根を越えて、飲み屋で話すような実況をできるのは、関東リーグのおもしろいところですね」(ブラジルさん)
しかし、社会人リーグが開催されるグラウンドには、ほとんど配信設備がありません。雨が降ると、実況隊は雨合羽に身を包み、機材を覆って実況に臨みます。カメラが暴風で飛ばされたり、炎天下の高温で機材が動かなくなったりと、屋外ならではのトラブルも数えきれないといいます。

パラグエルさんは毎回、試合会場の撮影条件や天気予報を入念にチェックして、機材の調整と準備を行っています。
「電源がないならバッテリーを持参する、屋根がなければ機材を減らすなど、その日のグラウンドの環境に合わせた適切な機材選びが大切なんです。忘れ物厳禁の機材も多いので、準備には神経を使いますね。USBケーブル1本とってみても、タイプAとタイプCを間違えただけで、機材が使えなくなってしまいますから。準備に半日かかることもありますよ」(パラグエルさん)
時には「サバイバル実況」と呼ぶほど、過酷な環境での配信も行ってきた実況隊。2025年、その活動は12年目を迎えます。
東京23勝手に実況隊の存在意義
関東リーグを含め、社会人リーグで戦う選手たちの大多数が、仕事を持ちながらサッカーを続けています。その環境は、東京23FCも例外ではありません。選手たちは朝7時から9時まで練習をした後、それぞれの仕事に向かい、週末は試合に臨む日々を過ごしているそうです。
実況隊は「選手たちの頑張りを大事に扱いたい」という強い思いを持って、試合の配信を続けてきました。
「選手は試合を見てくれるお客さんが多ければ多いほど、いいプレーができるようになります。だから僕は、ぜひ満員の観客の中で選手に試合をしてほしくて。じゃあ、東京23FCのホームゲームを満員にするために、僕たちに何ができるだろう。そう考えたときの答えが、YouTubeで配信をして、より多くの情報を外に出すことだったんです」(ブラジルさん)

実況隊のYouTubeチャンネルは、東京23FCに興味を持った人が試合を観る絶好の機会です。他のクラブのサポーターには、移籍していった選手のその後の活躍や、逆に移籍してきた選手の過去のプレーを楽しむツールに。まだ幼い選手のお子さんには、成長した後で若かりし頃のお父さんの雄姿を見られる、貴重なタイムマシンになってくれます。
実際に、関東の垣根を超えたさまざまな地域リーグのファンが、実況隊の配信を楽しんでいます。他のクラブへ移籍した元東京23FCの選手を応援に行く独自企画「追っかけ23」をしているマリさんは、行く先々で現地の観客に声をかけられるそうです。
「黙っているときは何もないんですが、喋ると『マリさんの声だ!』って気づいてもらえます。そこで生まれた絆がきっかけになって、東京23FCを好きになってくれる人が増えていくんです。本当におもしろいご縁ですし、新しいコミュニティの形だと思いますね。奈良のグラウンドで、他のクラブのサポーターに『ブラジルさんによろしく』と言われたときもあるんですよ」(マリさん)

今後は、他の街にあるクラブの実況を引き受ける「出前実況」など、新しい企画の構想も練っている実況隊。コミュニティの輪はどんどん広がりますが、彼らの基本はあくまで「プレーヤーズファースト」です。東京23FCで戦う選手たちがヒーローになれるよう、素晴らしいプレーを記録する使命を軸に、実況隊は今後も進化を続けていきます。
東京23FCへの思い
最後に、実況隊のみなさまに、東京23FCへの思いを語っていただきました。
「私は東京23FCを応援するのと同時に、集まってくれた選手たちを応援したい気持ちも強く持っているんです。だからこそ、ひとりひとりの長所をたくさん見つけて、実況を通して伝えていきたいですね。そして、選手たちがクラブを離れたあとも、ずっと見守っていきたいと思っています」(マリさん)
「ここまで自由な活動をさせていただいて、東京23FCや対戦チーム、関東リーグには心から感謝しています。個人的には、応援しているというより、実況をして遊んでいる感覚なんです。僕たちはいつも、実況隊の活動を目いっぱい楽しんでいますよ」(パラグエルさん)
「サッカーは『プレーするもの』、つまり遊ぶものだと思うんですよね。自分たちの遊び場を作るというスタンスでいれば、お客さんがたくさん集まって、東京23FCはもっともっと強くなります。クラブも選手も実況隊も、スタジアムが楽しい遊び場になるよう、いろいろなチャレンジをしていますから」(ブラジルさん)

2025年の関東リーグ1部は、4月6日(日)に開幕します。東京23FCは、ホームスタジアムのスピアーズえどりくフィールド(東京都江戸川区)で、流通経済大学ドラゴンズと対戦します!
もちろん実況隊は、東京23FCの全試合を配信予定です。今年も大雨や猛暑、強風など、一筋縄ではいかない試合もあるでしょう。しかし、彼らは遊び心と団結力を武器に、サッカーのおもしろさと選手たちの魅力を余すことなく伝えてくれます。
ぜひ実況隊の配信を通して、サッカーの楽しさと社会人リーグの選手の魅力に触れてみてください。
※東京23勝手に実況隊 YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@tokyo23tv23
東京23FC
オフィシャルサイト:https://tokyo23fc.jp/
東京23勝手に実況隊
勝手に実況隊の撮影ノート:https://tokyo23tv.wordpress.com/
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