2025年大阪・関西万博の中でも注目度の高い「イタリア館」。テーマは「芸術が命を再生する(Art Regenerates Life)」だ。ルネサンスの理想都市を彷彿とさせる空間で、訪れた人は五感をフルに刺激される旅へと誘われる。
今回は、その体験を前後編に分けてレポート。前編では、プロローグから「私(Io)」、そして100年前の空の旅へと続く「SVA 9」の物語までをお届けする。

プロローグ:夢の扉がひらく瞬間──感性の旅のはじまり

イタリア館の最初の演出は、音楽とともに大きなスクリーンに映し出される幻想的な映像。まるで夢の中に迷い込んだようなひととき──。
やがて、4枚の扉がゆっくりと開き、その奥に広がっていたのは、まるで別世界。アートに詳しくない私でも、一瞬でその場の空気が変わったのがわかった。
「うわっ、すごい…」と思わず声が出るくらい、目の前に広がっていたのは圧巻の美しさだった。
ここから“イタリアの世界”が始まるんだ、というのが、直感で伝わってきた。
第1章:科学と芸術が出会う「Io(私)」

展示の中でも強く印象に残ったのが、「Io(私)」と名づけられたエリアだった。
ここでは、科学・環境・感情といった“見えないもの”をアートで可視化する試みがなされていた。
その一角には、2026年に開催されるミラノ・コルティナ冬季五輪・パラリンピックの聖火リレー用トーチも展示されており、静かに未来への希望を語りかけてくるようだった。

印象的だったのが、都市の空気の状態をデータで読み取り、呼吸袋と音響膜を使って音やリズムに変換するインスタレーション《pneumOS》だ。まるで肺と楽器が融合したような“サイバネティック・オルガン(=計算する臓器)”が、空気の質を音として“感じさせ”、今、自分たちが吸っている空気に目を向けるきっかけをくれるような展示だった。

さらに、30個のセラミック製の心臓を円形に並べた《循環器系》は、環境や命のリズムと静かに呼応しながら、五感で“今を生きる”ことを体感させてくれる。
どの作品からも「これは何を伝えようとしているんだろう?」と自然に考えてしまうような力があった。芸術に詳しくない私でも「あっ、これすごいかも」と感じられる瞬間があり、そういう出会いがあるからこそ、このパビリオンには、もっと多くの人に足を運んでみてほしいと思った。
第2章:100年前、空を越えた旅──アンサルドSVA9

展示は未来だけでなく、過去の偉業にも光を当てている。正面に飾られているのは、1920年にイタリアから日本まで飛行した複葉機「SVA 9」のレプリカ。
約100日にわたる壮大な旅の中で、飛行時間は合計112時間、総移動距離は18,000kmに及んだという。この歴史的な挑戦は、イタリアと日本の文化交流を象徴する出来事のひとつだ。

この飛行は、詩人ガブリエーレ・ダンヌンツィオと日本人文学者・下井晴路の友情から生まれた構想で、最終的に東京・代々木に到着した2機の複葉機は、多くの人々に熱烈に迎えられたという。
展示されているレプリカは、400点以上のオリジナル図面をもとに復元されたもの。木製の骨組みがむき出しになったようなデザインは、まるでレオナルド・ダ・ヴィンチの描いた飛行装置のようだった。

実際に館内には、ルネサンス期の万能人・レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿『コデックス・アトランティクス』も展示されており、イタリアの技術と芸術の歴史に触れる貴重な機会となっていた。
そして、複葉機のレプリカには、細部にまで宿る職人技と持続可能性の精神が感じられ、職人の情熱が伝わってきた。
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アートと科学が交差する展示を抜けると、物語はさらに深い精神性へと導かれていく。
後編では、カラヴァッジョやミケランジェロの傑作、サルデーニャの“歌う岩”、そして静けさに包まれた屋上庭園を紹介する。
◆大阪・関西万博 イタリア・パビリオン公式サイト
※この記事は、イタリアパビリオンの許可を得て取材・撮影を行っています。
